創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(144)レン・シローイッツ氏のスピーチ(4)

当時---DDBクリエイティブ・マネージメント・スーパバイザー兼副社長
(1969年退社し、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者)


"My Graphic Concept" Lecture by Leonard Sirowitz in Zurich 1967 Spring
1967年春、チューリッヒでの「マイ・グラフィック・コンセプト」と題するスピーチ。氏の快諾を得てDDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳掲載したものの転載。


レクチャー 承前

フォルクスワーゲン

4年ほど前(1973)、ビル・バーンバックが私のところに来て言いました。
「レン。私は君に対する非常に重大な決定を下したところだ。これは私が誰か与えることのできるっとも重要な決定の一つだ」
私は、それを代理店と新たに契約した大きなアカウントに関することだと考えました。願ってもない事が始まりつつあると、私は考えました。私は、キャンペーンを組織し、今までには決して行なわれなかったような新しいアイデアに基づくブランドを作り出すことになるだろうと考えたのです。
バーンバック氏は続けました。
「レン。私は、君にへルムート・クローンからフォルクスワーゲン・キャンペーンを引きついでもらいたいのだ」
皆さんもご存じのように、ヘルムートはフォルクスワーゲンの導灯でした。それは広告業界の内外でもっとも論議されたキャンペーンでした。
どんなカクテル・パーティでも、人びとがVWの広告について話しているのを聞くことができました。そしてそれは、耳にするごとに感動的な事柄でした。私が、私自身がそれを受け継がなくてはならないと知る瞬間までは。
私はこのキャンぺーンの名声を継続させねばならなくなったのです。
これは私の経歴の中でももっとも恐るべき経験でした。
私は、何をなすべきだったでしょうか?
私は、このアカウントを担当して、無茶な変化を行なうべきだったでしょうか?
変化のための変化?
アカウントと代理店の費用を使って、私の個性を主張するために?
それは馬鹿げたことです。
それなら私は何をなすことを期待されていたのでしょうか?
ヘルムート・クローンの真似をすること?
ヘルムート・クローンと同じやり方で働くことでしょうか?
それもまたバカげた考えです。
私は私自身のための場所をこのアカウントの中に見い出さなくてはいけないのです。
アカウントがその広告の作者をへルムー卜・クローンから私に替えたことが、一般には明瞭に認識されないような、新しさを開拓すべきなのです。
ヘルムートは、ヘルムートのやり方で仕事をします。
私には、私の方法があります。

私は開始しました。
皆さんにお見せしようとしている広告は、私がボブ・レブンソンや他の数人のコピーライターといっしょにやった仕事の一例にすぎません。私はVWのために実際の仕事をするアートディレクターとして、そしてスーパーバイザーとして3年半働きました。最後の年は、ただスーパーバイザーとしての仕事のみを行ないました。


私たちは毎年,石膏づくりから始める必要なしです。

私たちほこれで、基本の同じVWを、とても長い間つくり続けているので、もうすっかり飽きてしまっているとお考えかもしれません。
しかし事実は、私たちはまだ研究を続けているのです。
私たちは、どうすれは最高の車に仕上げることができるかを研究してきました。また、どうすれば各部品をぴったりと合わせることができるかも研究してきました。この車は、実際に気密なのです。
ですから、私たちは、車の働きをよくするためには、非常に多くの時間をかけます。
今年は、ブレーキがより効率よくなりました。ヒーターのほか、20ばかりのものもよくなりました。
新しい部品をつくる時に私たちは、それが古い年式のものにも合うようにつくろうと努めます。ですから、VWが永久に走り続けるのを妨げうる何ものもないのです。また、外観が永久に新しくあることを妨げうる何ものもありません。
毎年、石膏づくりから始めるのだと、こうはいきません。
たった今、現在の型のよじれを伸ばしたかと思うと、すぐにまた、次のよじれに当面しなければならないのです。
来年型のための大変更の「大宣伝」ぐらい、私たちにとって理解できないものはありません。
あの人たちは、今年のは自慢のものじゃないのでしょうか ?





フォルクスワーゲンは、腹底部も珍妙ですよ。
私たちは今、フォルクスワーゲンの下部から語りかけています。
あんまり見られた図ではありませんね。
大きな鋼板が邪魔していて残念です。さもなければ、フォルクスワーゲンのすべての仕組みをお見せできるのですが---。
でもペテンにかけたわけではありませんから。
この鋼板がVWの腹底部です。ほかの車は絶対にこうなっていません。
これがすべてものからVWの中枢部分を守っているのです。時間も含めてね。そして、VWの長命さの最大の理由の一つが、この鋼板なのです。
VWの腹底部は、あとで考えてつけ足したものではありません。これもデザインのうちなのです。車は腹底部を密封され、腹底部は車に密封されています。
だから、VWは本当に気密なのです。水に浮くフォルクスワーゲンについてのうわさも、ただのうわさではありません。
VWの珍妙な上部と珍妙な腹底部には、共通点があります。両者ともフォルクスワーゲンがその真価を発揮できるようにしているのです。
この二つを変えてしまうのは簡単でしょう。
けれども、私たちはわが道を行くつもりです。





私たちがかぶと虫を殺すことがあるでしょうか?

とんでもない。
どうしてそんなことができます?
フォルクスワーゲンを世に出したのは、ほかならぬ私たちなのです。何年も何年も育てあげてきたのです。
そのスタイルが世間の物笑いの種になった時も、世界中の人と仲よくでくるように---と助けてきたのです。そして今や800万の人と友だちになっています。
私たちは、この事を決して流行遅れにならない(ましてやこの世から消えるなんてことは、決してない)とこの人たちに約束しました。
もちろん、かぶと虫が年々変わってきたことは否定しません。でも、ほとんど気づかれないほどの変化です。
1949年以来、私たはVWに5,000ヶ所に及ぶ改良をほどこしてきましたが、それらはすべて、車の性能の向上と長もちにつながるものばかりでした。
少数の潔癖家は、私たちが改良のたびにかぶと虫を殺しているって感じているようですが、やむをえなかったのです。
それが必要な時には、かぶと虫を殺さなければならないのです。
これこそが、かぶと虫が死に絶えるのを防ぐ唯一の、そして確実な方法なのですから。
私たちがかぶと虫を殺すことがあるでしょうか?





節水

この広告は水をまったく使わない空冷式エンジンのフォルクスワーゲンからの提供です。

【chuukyuu注:】ニューヨークが極端な水不足に陥った夏、ニョーヨーク・タイムズ紙にこの1ページ広告が載った。


続く(「ソニーの広告) >>




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●担当クリエーターたちのインタビュー記事
>>ヘルムート・クローン氏「レイアウトを語る」 (1) (2) (3)

>>ロバート・レブンソン氏とのインタビュー (1) (2) (3) 

>>ジョン・ノブル氏とのインタビュー(1) (2) (3) (4) (了)


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