創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(77)『かぶと虫の図版100選』テキスト(22)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。そのテキスト部分の転載です。

VWの広告を引き継いだのは人生上で最も恐るべき経験だった

それにしても、疑問がのこらないわけではない。
人が変わり、しかもたくさんのチームがVWの広告のために働いているのに、そしてまた、10年以上も続いたキャンペーンであるのに、VWの広告の外観・主張は、大局のところ、同じに見えるのはなぜか---という点である。

実際、1959年の広告と、1969年秋の広告を並べてみて、製作者がすっかり変わっていることを指摘するのは困難である。

移ろいやすい広告界にあって、これは一つの驚異といえる。

この疑問には、親友であり、DDBの副社長兼コピー・スーパバイザーであるパーカー夫人がこうこたえてくれた。
VWのように、基本的に、あるネライでもってキャンペーンがはじまったものは、あとをだれが引き継ごうと、基本的なテーマを変えることは出来ませんし、変えてはいけないと思います。ライター個人のプライドとか、立場も大切ですが、それ以上に、いかにして最良の広告をつくり出すかということが最重要なのです」
説明されてしまえば、事態は容易に理解できる。けれども理解できること、実行することとは別の問題に属する。
VWの広告のような(注:歴代、携わった人の数が多く、長期間にわたった)例が、世界にもほとんど存在しないということが実効の困難さを示す。
なぜ、VWの広告を引き継いだ数10人の人たちは、基本的なテーマと表現のフォーマットを変えようとしなかったか。

(注)ここで、『かぶと虫の図版100選』から38年後に発見した新資料を引用する。
『ヘルムート・クローンの本。クリエイティヴ革命』(Clive Challis, 2005)に収録されている、VWキャンペーンでクローン氏が準備し、残したフォーマット類の一部である(この本の存在を教え、取り寄せてもくださった、若い友人Tさんに、日本中の広告クリエイターを代表して、深く感謝。これは、志のあるクリエイターにとってはおそるべき本である)。




VW印刷媒体の組み見本)


もちろん、このようにフォーマットをクローン氏が設定していても、中には、これを無視して、自分流のレイアウトを強行しようとするアートディレクター(あるいはアート=コピー・チーム)がいたとしても不思議ではない。
なぜ、変更が実行されなかったか?

VWは、DDB創立10年目にやってきた最高のアカウント(取引勘定先)であった。
DDBの顔になってくれるだけの露出量(広告予算)をもっているクライアントであった。
これで失敗したら、DDBの存在がなくなるような広告主であった。

だから、腰が引けたというのではない。

失敗できないキャンペーンであっただけのことである。
担当したクリエイターたちには、社内はもちろん、ふつうのオーディエンスからさえ賞賛の眼がそそがれた。
フォーマットに異を唱えた者は、DDBという楽園から追放されたろう。VWステーション・ワゴンのアートデイレクターだったジョージ・ロイス氏のように、出ていかざるをえなかった。

いま、『ヘルムート・クローンの本。クリエイティヴ革命』を手にして、40年後に、ぼくはDDB奥の院を覗きえたとおもっている。
(この項つづく)


●関連記事
>>「レイアウトを語る」ヘルムート・クローン インタヴュー


驚異的新素材のエンジンがお馴染みのパケージ(容器)に搭載されました。

超長持ちエンジンと名づけられけました。
超長持ちとは?
意識してらっしゃらなかったかも知れませんが、他のよりもタフだった私たちのこれまでのエンジンと比較して、です。
新登場のこれは、ずっと馬力が強化されています(トップ・スピード比、130km/時対125km/時です)。
加速も向上しました。
もっとも重要な点は、重さがまったく増えていないところです。ということは、あなたの激しい走行にもビクともしません。
とはいえ、ゼネレーション・ギャップはなし、です。
新エンジンの燃費は1ℓあたりほぼ11km。
オイルはクォートでなくパイントですむところも同じ。
不凍液が必要ないのもそのまま。
リア・エンジンなので牽引力をじかに後輪に伝えるので、ぬかるみや雪道も苦になりません。
さて。これまでのオールド・パッケージ(外見)は、去年も今年もヒットしてきました。
こんどのおなじみのパッケージもそうなります、よね。




An amazing new in gredient now comes in this familiar package.

It's called a long-lasting engine.
Long-lasting than what?
Long-lasting than our old engine, which in case you didn't know, was one of the toughest engines around.
The new version is more powerful.(Top speed: 81 mph vs 78 mph.)
It has better acceleration.
And most important, it weighs the same as the older version. So it dosen't have to work as hard to get you where you're going.
But that's where the generation gap ends.
The new engine will stillgive you a good 26 miles to a gallon of gas.
It still take pints of oil instead of quarts.
It still abstains from antifreeze.
And it's still conveniently located in the rear for better taction in mud and snow.
Yes, all the things that made our old package a hit last year are back again this year.
Including our old package.


>>(23)に続く。