(211)[ビートルの広告](112)
ブログ仲間の、志の高い常連のお一人---einen さんから、昨日、
>私は"Think small"の登場の経緯をプロセスから(他にも一杯ありますが)、chukyuuさんの慧眼と時代の面白みを感じました。
とコメントをいただき、急遽、これの衝撃的な「登場のエピソード」を公開することにしました。ほんとうは、もっと先に予定していたのですが。
これまで、人びとに衝撃を与え、生き方を変えさせた"Think small"は、↓これだと思い込んで紹介してきました。
小さいことが理想。
きっちりつめたら、ニューヨーク大学の18人の学生がサン・ルーフVWに乗れました。
フォルクスワーゲンは、核家庭向きに考えて大きさが決められています。おかあさん、おとうさん、 それに育ちざかりのこども3人というのが、この車にふさわしい定員です。
エコノミイ・ランで、VWはリッターあたり 平均21km強の記録を出しました。あなたには、ちょっと無理な数字です。プロのドライバーは商売上のすてきな秘けつを持っているんですから(お知りになりたい? ではVWBox #65 Englewood, N.J.へお手紙を下さい)。 ガソリンはレギュラー、また、オイルのことは次の交換時期までお忘れください。VWは在来の車より全長が4フィート短くできています。(とはいっても、レッグ・ルームは同じくらいあります)。 ほかの車が混雑したところをぐるぐる巡りしている間に、あなたはほんの狭い場所にも駐車できるんです。
VWのスペア部品は格安です。 新しいフロント・フェンダーは(VW特約店で)21.75ドル、シリンダー・ヘッドは19.95ドル、品質がよいのでめったに必要とはしませんが。
新しいフォルクスワーゲン・セダンは1,565ドル、 ラジオ, サイド・ビュー・ミラーのほか、あなたがほんとうに必要なものは全部ついています。
1959年には12万人の米国人が、小ささを考えてVWを買いました。ここのところを考えてみて下さい。
そして、この広告が生まれた経緯を、『クルマの広告』(ロング新書 2008.12.10)ほかにこのように記述してきました。
[小さいことが理想]ができたエピソード
VWの広告をつくりはじめた初期(注:1959年秋)、コピーライターのケーニグ氏は、小さな経済誌(注:『Jounal of Commerce』誌 の「米国製」特集号)に載せるための広告のアイデアをたてる仕事をかかえて、列車で帰途につきました。同じコンパートメントの向いの席のビジネスマン風が、丸めて読んでいる雑誌の記事の表題に、当時(五十年前)のビジネス界の合言葉「Think big(でっかく考えよ)」が書かれてありました。
米国人はThink bigと浮かれている。VWは小さい----Think smallだ。
翌朝、そのヘッドラインを(注:担当アートディレクターの)クローン氏にわたすと、かぶと虫の写真をうんと小さく、誌面の左上においたビジュアルをつくりました。
「でっかいことはいいことだ」が常識みたいになっていた米国人は、この広告から強烈な衝撃を受け、心ある人たちは反省し、生活態度を変えはじめました。
もっともすぐれた広告は、読み手の人生観を変える力をもっているのです。
いいブログというのも、アクセスしてくださった人の考え方に影響を与えます。
最近入手したデータを読んでいて、
−−−翌朝、そのヘッドラインを(注:担当アートディレクターの)クローン氏にわたすと、かぶと虫の写真をうんと小さく、誌面の左上においたビジュアルをつくりました。」
この文節が、事実と正反対であることが判明しました。
C・チャリス編著『ヘルムート・クローン クリエイティブ革命』(2006)によると、クローン氏はこのコピーを強硬に拒否したのです。英文では、hate(嫌悪)したとさえ書かれています。
エドワード・T・ラッセル(DDBのVW社担当の総括責任者)が記したメモによると「1959年の秋のことでした。『Commerce Journal』誌に掲載するための広告を用意するように頼まれました」 その主題は、フォルクスワーゲンの生産にどれほど「米国製品」が使われているかを語ることであった。
ラッセルは、VWは米国への訪問者(輸入車)ではあるが、卑屈になることはない、VWは小さな車で大成功したのであるからと---米国VW社の広告部長リー・ポールとその補佐役のヘルムート・シュミッツを同意させた。
エド・マクネイリー(担当アカウントマン)も同感した。
クローンは「"Think small."は適切ではない。とてもじゃないが、こんなコピーの広告はつくれない」と、ビジュアライズを拒否した。
ケーニグ氏は、「これは、VW社の企業広告でもあるのだから、その意味で、ぴったりのコピーなんだ」と、同じVWのステーション・ワゴン・グループの若くて才能がほとばしりでているアートディレクターのジョージ・ロイス氏に相談した。
ロイス氏は、「小さくした車の写真を紙面の中央におけばいいんだよ。なんてことないじゃないか」と言い放ち、実際にやってみせた。
DDBでのアートディレクターとしての経験も長く、別のクライアントでケーニグ氏とも組んでいたこともあるチャーリー・ピッキリーロ氏もクローンの態度を心配し、「クローンさん。あなたは、VWの小さな写真のおき場所に悩んでいるのでしょう?」と助け舟をだしたほど、事態は緊迫していた。
「すったもんがあった末に、クローン氏はとにかく仕上げてはくれました」とケーニグ氏が思い出した。ジョージ・ロイスの提案を半分のんで、紙面の左上隅に小さい車の写真を置いたのはいいが、嫌いだときめつけたヘッドラインをボディ・コピーと同じ小ささの活字で組んだのである。「Think small. なんだから、これでビジュアルでもそう伝わるだろう」といわんばかりに。
それを、アート部の責任者ボブ・ゲイジ氏に見せた。騒ぎを知っていたゲイジ氏は、クローンに訊いた。「どうして、ヘッドラインをボディ・コピー並みに小さくしたんだい?」 クローン氏は黙って部屋を出て行った。
クローン氏を待っていたのは、賞賛と大成功であった。
問題の、"Think small."の広告は↓これです。「18人のニューヨーク大学生が--」ではありませんでした。
小さことが理想。
10年前、最初の2台のフォルクスワーゲンが米国へ輸入されました。
ビートルに似た、その奇妙な形の小さな車は、まあ、無名といってもよいほどでした。
やがて、リッターあたり13.5kmも走ることが認められました(レギュラー・ガソリン、ふつうの運転で)。
さらに、一日中時速100kmで走ってもビクともしないアルミ製空冷式エンジン、ファミリー・サイズの適切さ、手ごろな値段も認められてきました。
フォルクスワーゲンは、ビ−トル並みに増殖し、1954年には、米国への輸入車のトップに立ち、以後、ずっとその地位を堅持しています。1959年には15万台のフォルクスワーゲンが売れました(うち3万台はステーション・ワゴンとトラックでしたが)。
ずんぐり鼻のフォルクスワーゲンは、いまでは米国名物のりんごストルーデル(デザート菓子)同様、50州すべてで見かけられますが、その鉄鋼はピッツバーグ製でシカゴでプレスされています(工場の動力源すら米国からの輸入石炭です)。
どのフォルクスワーゲンのオーナーにお聞きになっても、そのサービスのすばらしさとどこへ行ってもうけられる充実ぶりについては、褒め言葉ばかりでしょう。フォルクスワーゲンの成功は、決して小さくはありません。部品も常備されてい、しかも安価です(一例をあげると、新品のフェンダーはたったの21.75ドルです)。フォルクスワーゲンの成功の要因は決して小さいとは言えませんね。
今日、米国ほか119の国々でフォルクスワーゲンは着荷するなり売り切れていて、生産が追いつかない状態です。小さな車に全力を注いでいるフォルクスワーゲンの生産規模は世界で5番目に大きいんですよ。もっと多くの人びとに、小ささを理想としていただきたいものです。
Think small.
Ten years ago, the first Volkswagens were imported into the United States.
These strange little cars with there beetle shapes were almost unknown.~
All they had to recommend them was 32 miles to the gallon(regular gas, reguiar driving), an alminumm mair-cooled rear engine that would go 70 mph all day without strain, sensible size for a family and a sensible price-tag too.
Beetles multiply: so do Volkswagens. By 1954, VW was the best-selling imported car in America. It has held that rank each year since. In 1959, over 150,000 Volkswagens were sold, including 30,000 station wagons and trucks.
Volkswagen's snub nose is now familiar in fifty states of the Union: as America as apple strudel, in fact, your VW may well be made with Pittsburgh steel stamped out on Chicago presses (even the power for the Volkswagen plant is supplied by coal from the U.S.A).
As any VW owner tell you, Volkswagen serviice is excellant and it is everywere. Parts are pientiful, price low. (A new fender, for example, is only $21.75.) No small factor in Volkswagen's success.
Today, in U.S.A, and 119 other countries, Volkswagens are sold faster than they can be mads. Volkswagen has become the world's fifth largest automotive manufactur by thinking small. More and more people are thinking the same.
18人の大学生を登場させた広告や、のちにディーラーへ配布された『ライフ』掲載広告の周知用シートになったものが一般誌に載りました。
小さいことが理想。
私たちの小さな車は、最近では、さほど物珍しくなくなりました。
12人以上もの大学生が押しあいへし、つめこみ競争をすることもなくなりました。
給油所のパート・タイマーがガソリンの注入口を訊いてうろうろすることもなくなりました。
車の外形に目を丸くされることも---ね。
じっさいのところ、私たちの小さな車はリッターあたり11km走るなんてことを信じない人も---。
そう、オイルも5クォートじゃなくて5パイントです。
ええ、不凍液もいりません。
タイヤも64,000kmはもちます。
てすから、私たちのエコノミィカーになされば、こういったもろもろは思案の外になるのです。
あ、駐車スペースは狭くてもいけるし、車の保険更新料も少くてすむんです。修理代も安いんです。車を下取りに出して新車になさるときもお得です。
考えどころですよね。
Think small.
Our little car isn't so much of a novelty any more.
A couple of dozen college kids don't try to squeeze inside it.
The guy at the gas station doesn't ask where the gas goes.
Nobody even stares at our shape.
In fact, some peop-Ie who drjyamu Ii ttle flivver don't even think 32 miles to the galIon is going any great guns.
Or using five pints of oil instead of five quarts.
Or never needing anti-freeze.
Or racking up 40,000 miles on a set of tires.
That's because once you get used to some of our economies, you don't even think about them any more.
Except when you squeeze into a small parking spot.
Or renew your small insurance.
Or pay a small re'pair bill. Or trade in your old VW for a new one.
Think it over.
これらのファクトから、ぼくは3つばかりのことを学んだ。
1.クリエイター天国のように思われてきたDDBだが、ここもやはり人間の集団だから、いろいろな個性的な人間がいて、一筋縄ではいかないこともある。そのとき、まわりの善意の人たちが、クリエイティブな解決策を巧みに見つけていっている。
2.コピーライターのジュリアン・ケーニグ氏とヘルムート・クローン氏の相性は修復不可能なほどに壊れた。で、ケーニグ氏とジョージ・ロイス氏はDDBを去り、パパート・ケーニグ・ロイス(PKL)広告代理店を興こした。
3."Think small."のような強烈な衝撃力をもった広告といえども、たった1回の露出では、その頭上に、20世紀最高の栄誉は輝かなかったろう。