創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(49)DDBのチーム・プレイを語る(2)

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DDBニュース』1970年2月号に載ったインタヴューを、ご本人たちの許可を得て、拙編『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 1970.11.10)に翻訳・転載したものです。


   DDB副社長兼コピースーパバイザー ジョン・ノブル
   DDB副社長兼ア−トスーパバイザー ロイ・グレイス 

チームのメンバーは拒否権を持っている


「2人がチームとして働くようになったのは、どうしてですか?」


グレイス「さあね。傾向じゃないですか」


問い「2人の人間がいっしょにクリエイトするという意味のですか?」


グレイス「ええ、何か成長しているものに貢献しているという雰囲気です」


「チームを組んでいる相手とうまく行かないというのは、どういったときにわかりますか?」


グレイス「自分が、ほかの人たちがいっていることが気に入らず、その人たちも自分のいっていることが気に入らない時。一つのアイデアを異なったふうに見、表現してしまう時などです」


ノブル「それは5分でわかる時もあれば、何ヶ月もかかることもあります。そしてこの何ヶ月間は死の苦しみです。それがわかった時のいちばんいい方法は別れてしまうことです」


グレイス「この雰囲気を助けるのは、忠実であるということです。パートナーが、何か鼻もちならないことをいったら、『それはひどい!』といってボードを捨ててしまうことです。30分もまごまごして、遠まわしに『そうか---ウーン、ぼくはそんなふうにはウーン、ウーン』などといっていないことです。ひどい、それで終わりでいいのです。だれにも拒否権があります。2人とも同意しなければなりませんが、意見を豊かにするのは、たった1人でいいのです」


「お2人がチームを組み始めたころ、『ウワー、これはすばらしい』と思われたのですか?」


ノブル「これは恋愛関係とは違います。でも、いいフィーリングです。というのは、本当にうまくやっていけない人びと(人間はいいのかもしれませんが、化学作用のない人)とやったあとで、化学作用のある人、そして完全に誠実な人と一緒に仕事をするのはいいものですから」


グレイス「いい関係にあるアートディレクターとコピーライターは、夫婦が何年も一緒に暮らしたあとでは、速記のように話せるのと同じように、一方の人が考えていることを予想することができます。『ヘイ』---『オオ』---『アア』---で一方が何をいわんとしているかが正確にわかるのです。これはいいことです」


問い「チームが『うまく行く』のは、その担当している商品の種類が問題になってきますか? 鎮痛剤とか車とか紙おむつとかというふうに」


ノブル「そう思いますね。というのは、中にはとても苦痛の伴うアカウントがあって、2人がとてもうまく行っていて、いい仕事をしている場合でも、しばらくするうちに、アカウントが2人をすり減らしてしまう場合があるからです。すると自分自身を疑うようになってきてしまいますからね」


問い「それはアカウントのことですね。私がいっているのは商品のことですが」


グレイス「そうですね。広告しやすい商品と、そうでない商品はあります。石けんよりも車のほうが楽だと思います。でも、2,3年前ですが、こんなことをいった人がいました。泡の立つ錠剤よりもスーツケースのほうが楽だと。でも、あの偉大なアルカ・セルツァーがきたらそれは変わってしまいました。
元に戻りますが、だれかが偉大な打開策を出すまでは、その商品はほかのよりもむずかしいように思えるものです。でも、クライアントの関係のほうがずっと大変ですよ」


問い「それでは、クライアントとそのアカウント・マンさえよければ、商品がなんであれ、気にはなさらないとおっしゃるのですか?」


グレイス「ある商品を信ずるというのは救いになります。まやかしの多いと思われる商品分野がありますが、ぼくはそれらはやりたいとは思いません。それらには夢中になれません。表面的な広告ならうまくやれるかもしれませんが、深みのあるのはだめです」

VWのことは話題にしたくない


問い「カクテル・パーティで、あなた方がVWの広告をやっているということを人びとにわかったら、どんなことが起こりますか?」


グレイス「酔っぱらってしまいます」


ノブル「とまどいを覚えたものです。というのは、VWの場合、たいてい、小スペースから始めるのです。それなのに、人びとはこういうんですからねえ。
「小さいことが理想 Think small.」「不良品 Lemon.」をおつくりになったのですか?』
ぼくは頭をかいて『いえ。でも、それをやった人は知っていますよ』と答えたものです(笑)。



小さいことが理想


きっちりつめたら、 ニューヨーク大学の18人の学生がサン・ルーフVWに乗れました。
フォルクスワーゲンは、 家庭向きに考えて大きさが決められています。おかあさん、おとうさん、 それに育ちざかりのこども3人というのが、 この車にふさわしい定員です。
エコノミイ・ランで、 VWは 1リットルあたり 平均21km強の記録を出しました。 あなたには、ちょっと無理な数字です。 プロのドライバーは商売上のすてきな秘けつを持っているんですから。(お知りになりたい? ではVWBox #65 Englewood, N.J.へお手紙をどうぞ)。 ガソリンはレギュラー、 また、 オイルのことは次の交換時期までお忘れください。VWは在来の車より全長が4フィート短くできています。 (とはいっても、 レッグ・ルームは同じくらいあります)。 ほかの車が混雑したところをぐるぐる巡りしている間に、あなたはほんの狭い場所にも駐車できるんです。
VWのスペア部品は格安です。 新しいフロント・フェンダーは(VW特約店で)21.75ドル、 シリンダー・ヘッドは19.95ドル、品質がよいのでめったに必要とはしませんが。
新しいフォルクスワーゲン・セダンは1,565ドル、 ラジオ, サイド・ビュー・ミラーのほか、 あなたがほんとうに必要なものは全部ついています。
1959年には, 12万人のアメリカ人が、 小ささを考えてVWを買いました。 ここのところを考えてみてください。






不良品


このVWは船積みされませんでした。
車体の1ヵ所のクロームがはがれ、しみになっているので取り替えなければならないのです。 およそ目につくことがないと思われるほどのものですが……K・クローナーという検査員が発見したのです。
当社のウルフスブルグの工場では3,388人が一つ作業にあたっています。VWを、生産工程ごとに検査するために、です。(日産3,000台のVWがつくられています。 だから車より検査員の方が多いのです)。
あらゆるショック・アブソーバーがテストされます(部分チェックではだめなのです)。 ウインドシールドもすべて検査されます。何台ものVWが、とうてい肉眼では見えないような外装のかすり傷のために不合格となりました。
最終検査がまたすごい! VWの検査員は1台ずつ車検台まで走らせていって、 189のチェック・ポイントを引っぱりまわし、自働ブレーキスタンドへ向けて放ちます。それで50台に1台のVWに対して「ダメ」をだすのです。
この細部にわたる準備が、他の車よりもVWを長持ちさせ、維持費を少なくさせるのです。(中古VWが他の車にくらべて高価なワケもこれです)。私たちは不良品をもぎとります。あなたはお値打ち品をどうぞ。


でも、今ではそういったのを楽しんでいるといったところです。人びとは、こういいますね。
『ジョーンズ氏とクランプラー氏』の2軒の家を扱ったコマーシャルをなさったのはあなたですか?」
ぼくは食いつかんばかりの勢いで、『ええ、そうです』やっとイエスといえるようになったのです(笑)。
ここ1,2年というもの、ぼくはいつも『ちがいます』としかいえませんでしたからね」(笑)


グレイス「ぼくはそれを隠そうとしますね。ぼくはだれにも知ってほしくないのです。話題に載せられるのはあきあきしました。毎日ぐったりさせられるような仕事と夫婦生活をしているのですから、カクテル・パーティではほかのことを話したいですよ。
時にだされる『コマーシャルはどんなふうにつくっているのですか?』などの質問に到っては、もううんざりです」


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