創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(257)ロイ・グレイスの『名誉の殿堂』入り(2)

      Mr.Roy Grace appointed "Hall of Fame" members


グレイス氏と組んでVWのシリーズを発展させたコピーライターのジョン・ノブル氏とのインタヴューは、当ブログにすでに転載・発表している(クリエイター・インタヴューを参照)が、グレイス氏とは会う機会が持てなかった。漏れ聞いたところによると、氏はDDBを去って自分も共同経営者の広告代理店を設立後、2003年ごろに逝去されたらしい。惜しい才能をまた一つ失った。ご冥福を祈る。


グレイスは、1964年にアートディレクターとしてDDBへ入って以來、アメリカン・ツーリスター(銘柄名・米国人旅行者)、ブリストル・マイヤーズ、エイビス、シャネル香水、IBM、マイルズ研究所、S.O.S洗剤、アルカ・セルツァー、モービル石油、フォルクスワーゲンを含むほとんどの主要なアカウントを担当している。
もっとも忘れがたい彼のCMをいくつかあげると、実用的なビートルに乗っている甥が百万長者の伯父から全財産を贈与される[葬式]、さきに挙げたジョーンズ氏とクランプラー氏の[2軒の家]、ゴリラがスーツケースを暴力的にあつかうアメリカン・ツーリスターの[ゴリラ](注・明日アップの予定)、極寒の日のモービル・オイルのCMなどなど。
撮影している対象が人間であろうとそうでないものであろうと、その映画的なカメラ・ワークによって彼らの動きと活力をCMに写し取ってしまっている。
グレイスによると、良い広告は、広告代理店の制作陣の才能とクライアントとの協力関係、そして勇気と知性によって達成されるとする。
つまり、販売メッセージを、その気のない聴衆に向けて送らなければならないために、企業はメッセージを伝える広告に、面白さを加味すること容認するようにもなってきていると。
そうはいっても、広告の多くは面白さだけで終わっている。 グレイスの仕事では、販売メッセージと面白さが不可分になっている。
つづく

YouTube

フォルクスワーゲン・(オールド)ビートルのTV-CM
ジョーンズとクランプラー

【訳文】ジョーンズ氏とクランプラー氏はお隣り同士です。2人とも3,000ドルずつ持っています。
そのお金でジョーンズ氏は3,000ドルの車を買いました。
ランプラー氏は、そのお金で新しい冷蔵庫、新しいガスレンジ、新しい洗濯機、新しい乾燥機、新しいステレオ、新しいテレビ2台、さらに新しいフォルクスワーゲンを買いました。
そこでジョーンズ氏はいま、お隣りさんに生活レベルをあわせなくちゃならないという問題をかかえこんだのです。


このCMについての羽仁進さんの評言は、↓のURLのコメント欄。
http://d.hatena.ne.jp/chuukyuu/20070705/1183580377


TV-CM葬式】は、
http://d.hatena.ne.jp/chuukyuu/20070703/1183427724

こんなにたくさんの人がフォルクスワーゲンを検査しているんですよ。


あなたの車と新しいフォルクスワーゲンの間にある障害物はたったの二つ。
1,799ドル
そして、1,104人の検査員。
値段のほうは、あなたの問題。
すべてのフォルクスワーゲンフォルクスワーゲン工場を出る時に、オッケーをくだす検査員の人数は私たちの問題。
1人の人が私たちの工場の一人前の検査員になってしまうと(それには3年かかりますが)、彼はちょっと違った人間になってしまうのです。
つまり彼は、車の製造に関するどんな決定でも、そっくりくつがえしうる権限を手にするのです。
(この写真の中のだれか1人が「ノー」というと、そのフォルクスワーゲンフォルクスワーゲンでなくなってってしまいます)。
VWのどんな部品も、最低3回は検査を受けます。ということは、1台の車が工場からあなたの手に渡るまでには、合計で16,000回の異なった検査を通りぬけなければならないということです)。
いいですか、16,000回ですよ。
こんなふうにして、私たちは1日に平均225台のかぶと虫を失っています。
これで、あなたの注文したフォルクスワーゲンの新車が思ったよりも手間取ったとしても、理由はもう、ご納得いきましたね。
早くつくれないのではないのです。
きちんとつくろうとすれば、そんなに早くはつくれないということです。


C/W John Noble
"LIFE" 1969.05.30
"LOOK" 1969.06.10

あなたを両極端へお連れします。

華氏40°の寒冷地から140°の酷熱の地まで。
北極圏の雪原からサハラ砂漠まで。
上の写真の奇妙な形の自動車ほどには、多種多様な気候を征服したものは自動車史上、存在しません。
ガソリン1ドル17セントもするフィンランドでも健闘しています。VWは燃費が少なくてすむのです。
オイルよりもダイヤモンドの原石を入手するほうがやさしいアンゴラでも大ヒットしたVWは、クォート単位ではなく、パイント単位のオイルですむからです。
チリでは、新車のVWは5,000ドルもしているのですよ。技術が信頼されているからです。
お金を払わなければ真水が買えないスーダンでも、売れ行きも第1位の車です。VWは水を必要としませんからね。
そして、昨年約5億9,400万リットルもの不凍液が売れた米国でさえも、不凍液不要の車という言葉が日常語になりました。
何年にもわたって、1,600万台以上ものフォルクスワーゲンが世界中すべての国々で数千kmも走っているのです。
アラバマには、96万km以上も走行しているVWがあります。
それでもまだ、この車を見ることができない人々もいます。その多くは、正直なところ、もっともっと空想的なものを心に描いているのです。
結局、かぶと虫を買うには、まだかなりの勇気がいるんです。
考え方を極端から極端へ走らせる必要がありますからね。


C/W John Noble
"LIFE " 1969.11.14
"LOOK" 1969.12.10 


参照】ロイ・グレイス氏とチームを組んでいたコピーライター、ジョン・ノブル氏との対話。
DDBのチーム・プレイを語る] (1234)