創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-37 創造の精神が積極的行動へかり立てる

これは、DDBだけに限ったことではありませんが、アメリカの代理店のクリエイティブ部門の幹部や中堅クラスの社員は、ほとんど個室を与えられています。その個室の壁に、自分の作品だとか、気に入った写真、絵などを1面にはっている人が多いようです。
もちろん、会社としては、ロビーやメイン廊下にその時期の代表作品を掲示していますから、個室での作品展示は各人の自由選択であるわけです。
最初にそれを見た時、私は、一種のナルシズムかな…と考えたものでした。うぬぼれもアートティストを育てる一つの条件ですから。
しかし、今ではそれらを、脳生理学でいうところの刺激と見なすようになりました。金沢工業大学の中山正和助教授は、刺激を「情報」という名で捉えられています。その著『カンの構造』(中公新書asin:4121001745)で「与えられた情報」と「自発した情報」があると書いたあとで、「情報というものを、このようにひろい意味でとらえることにすると、それはたんに、紙に書かれた文章だとか、電話でつたえられるニュースなどだけでなく、われわれの五感がうけとるものはすべてが情報であるといえる。
俗に五感、視覚・聴覚・味覚・臭覚・触覚というが数えればまだまだたくさんの『感覚』がある。お腹がすいたとか、なんとなくけだるいというような、身体の内部におこっていることも知ることができる。つまり、われわれの身体の内部、外部に起きていることが、われわれ自身に影響を及ぼしている。これを『刺激』といっている。こういう刺激があると、身体にある『感覚器』または『受容器』というものがこれに反応して、電気的パルスを送り出す」
東京大学医学部の時実利彦教授の『脳の話』(岩波新書asin:4004161258)は、名著のほまれ高い本で、わからないことの多い脳の作用について、現在までに明らかにされている研究成果がわかりやすく網羅されています。それによると、前頭葉は、「創造(意欲)、企画、感情などの精神が営まれる座」だと考えられ、「創造、企画の精神は、私たちを積極的行動へかりたてている。精神の向上発展を計ろうとする努力がおのずとからわきいずるゆえん」だと書かれています。
ここで注目したいのは、創造と意欲が同じものとして捉えられていることです。ということは、日常周囲に優れた仲間がたくさんいて、彼らの優れた仕事ぶりを見ることでインプット品がつくれるんだから、私にだってできるはず」ということになり、行動としてアウトプットされると考えられるわけです。
つまり、動機付けがなされたと見てもいいでしょう。