創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

03-38 競争相手は隣にいる

また、幹部コピーライターのディロン氏は、DDB入社前に10年ばかり他の代理店でキャリアを積んできた人ですが、「私が入社した時に、競争相手は、外にいるのではなく、この建物の中にいる、といわれましてね。最初は戸惑いましたが、だんだん慣れてしまいました」と話してくれました。ライバルは、DDBの中にいる、という意味は、彼の席を狙っている人間がいるというのではなく、パーカー夫人のいうとおり、「ボヤボヤしてたらとり残されてしまう」ということを指しているのだと思います。
国立精神衛生研究所の横山定雄部長(社会精神衛生部)は『「共感の場」づくりの可能性』(リクルート1968年5月号)という論文で、これからの企業は、「働く人たちに心から期待し、彼らが最大有効に能力を発揮し、開発することを望む」のであれば、彼らにとって、企業や職場が「深い安全感や安定感のもとにすばらしい自己表現や創造活動が展開できるような、互いに心から魂の触れ合えるような、共感関係と相互依存協力が実現できるような場になるよう配慮」する必要があると述べておられます。
しかし、その反面、「企業や職場に働く人たちは、その職位や年齢や経験を超えて、いずれも他人や組織に対する甘い依存と庇護の欲求や心情を強く持っている」ことを指摘され、このような主体性のない依存的態度や依存的相互関係を黙認したままで経営管理をして行った場合、危険な馴れ合いムードが生まれる、と警告されています。
DDBが警告している1つの点もここだと思います。自由というものと一対になっている競争的刺激(動機付け)によって、各自の能力をより発揮させようというわけでしょう。