創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-19 クリエイティビティの真の機能

VWフォルクスワーゲン)の広告キャンペーンについては、今さらうんぬんする必要がないほど、日本でもアメリカでも論議がつくされて、クリエイティブな広告の一つの手本にまでなっています。
広告とはまるで関係ない『世界の自動車』(奥村正二著・岩波新書)にまで、DDBの名とVWの広告が引用され、「世界一の広告と呼ばれているが、その名に値する」と激賞されています。

どうしてそのような広告をつくることができたかについては、あまり語られていません。
私自身、『フォルクスワーゲンの広告キャンペーン』(美術出版社刊)を書いた当時は、そこにまで思いが至りませんでしたし、資料もありませんでした。

たまたま、当初から数年間、同キャンペーンを担当したアートディレクターの(ヘルムート)クローン氏の回想を読む機会がありましたので、今こそご紹介できます。
その前に、バーンバック氏の講演の続きを、もう少し引用しましょう。問題点を見つけたあとにどうするかの話です。
「私たちはうまくやることができたのでしょうか。私たちがいわなければならないのは──これは正直な車です──ということだったのでしょうか。
さて、私はここで、そんなふうには行かなかったということをお話ししようとしているのではありません。
(当時の)VWような少ない広告予算ではそうは行かなかったのだということを申し上げたいのです。
真実を告げるということと、それに人々の耳を傾けさせ、真実として認めさせるということは全く別ものです。
広告予算に関する限りでは、人々があなたを信じるまでは真実は真実とはなりません。
もし私たちが『フォルクスワーゲンは正直な車です』という言葉の上に十分なお金を積むことができたなら、そのお金の重みだけで大衆の心にその句を焼きつけることができただろうと思います。

私たちにはそれだけの時間もお金もありませんでした。
私たちは、伴侶であるクリエイティビティにご登場願わねばなりませんでした。
人々をぎょっとさせ、決して忘れられないようなやり方で私たちの利点にただちに気づかせねばなりませんでした。
これがクリエイティビティの真の機能です。
絶えず技術的進歩を続けているので──これは正直な車です──と人々に告げるために、私たちはこんな質問をしました。
VWは変わるでしょうか』と。
人々はVWは決してモデル・チェンジしない車だと考えていました。
しかし、車の内側では、数えきれないほどのチェンジが行われているということを知っていました。
ここで想像力とクリエイティビティがこれこそ、正直な車たるユエンであるということを劇的に証明するために用いられました」(注:同講演)。

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