創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(315)[ニューヨーカー・アーカイブ]によるビートル・シリーズ(1)

処女作の拙編著『フォルクスワーゲンの広告キャンペーン』(美術出版社 1963.06.15 写真)は、ぼくが満33歳になった6日後に世に出ました。
47年前です。

あとで引用する[まえがき]にも記していますが、いちどもDDBを訪問したことはなく、すべて手紙の往復でつくった本でした。
7刷ほどいきましたか。
期待以上の効果は、DDBのバーンバックさんをはじめ、同社の多くのクリエイターたちと親交がむすべたことでした。
アド・エイジ』がおこなった「20世紀のベスト100のキャンペーン」では第1位に推されました。
広告のクリエイティブに革命をおこしたともいわれています。
さいわい、ニューヨーカー誌が同誌の[アーカイブ]をネットにアップしてくれていますから、キャンペーンがどういう経緯をたどって浸透していったか、2,3ヶ月かけて追ってみることにしますか。
同時に、『フォルクスワーゲンの広告キャンペーン』に収録したバーンバックさんやクローン氏のコメントなどもとりこんでいくつもりです。


        ★     ★     ★


第1弾です。


『ライフ』誌は2日遅れの8月3日号でした。
1959年の『ニューヨーカー』誌にはこのほかに、後続の4点が掲載されました。


9月の下旬の号と10月の号には、「来年型」を称した新車の広告が満載されるのを避け、後続1点の掲載を早めたのでしょう、ビートルは外形が変わっていないのですから。
あとの3点は11月と12月へ繰り延べしています。



フォルクスワーゲンは変わるでしょうか?


答えは、イエスです。
フォルクスワーゲンは、1年を通じて間断なく変化しています。1959年1年間だけでも80ヶ所も変わりました。
しかし、どれも目には見える変化ではありません。私たちは、はやりすたりをよいことだとは思っていません。私たちは変更のための変更などはいたしません。ですから、この勇ましくて小さなフォルクスワーゲンの外形は今後もずっとこのままでしょう。不恰好なししっ鼻も、ずっとこのままでしょう。
この車は優秀ですが、さらによいものにするような方法を、私たちはいつも探しています。たとえば、ドレイン・プラグに永久磁石を取り付けました。金属粉はこの磁石にくっついてしまうので、オイルの汚れが防げます。
シフトは、いうまでもなく世界中でいちばん優秀です。しかし私たちは、これをもっと滑らかにする方法を発見しました。クラッチ・プレート・ライニングに特殊鋼のバネをつけたのです。
フォルクスワーゲンは過去11年間という歳月以上に変化しています。しかし、その心臓や外形は変わっていません。
VWのオーナーは、その車に何年も乗っています。自分のVWが新車とほとんど同じ価値があることを存じなので、安心していられるのです。


C/W ジュリアン・ケーニグ
A/D ヘルムート・クローン


"The NEWYORKER" 1959.08.01
"LIFE" 1959.08.03


フーォルクスワーゲンの広告キャンペーンのクリエイティビティ


      ドイル・デーン・バーンバック代理店
      社長  ウイリアムバーンバック


(注・これは、バーンバックさんが1961年のAAAAの総会で講演したものの一部です、本書へのメッージにかえて送ってくださいました)


フォルクスワーゲンのキャンペーンについてお話しましょう。


私たちがこのアカウントを引き受けたとき、最初にしたことは、 ドイツのウォルフスブルグにある工場で多くの時間を費やすことでした。


私たちは、技術者や設計者、経営陣や流れ作業員などと話しあって数日を過ごしました。


私たちは、溶けた金属が固まってエンジンになると一緒に歩き、そしてすべての部品が最後に定められた場所に納まるまで歩き続けました。


私たちは、最後に、一人の人がハンドルをとって、生まれたばかりのビートルに最初の生命を吹きこみ、それがはじめて動き出すのを見ました。


私たちは、フォルクスワーゲンのつくり方をすっかりのみこむことができ、テーマを何にすべきかを知ったのです。


私たちは、何がこの車を他の車と区別させているのかを知りました。


私たちは、何をアメリカの大衆に告げなければならないかを知ったのです。


私たちは、いわなければなりませんでした。
「これは正直な車だ」
これが私たちのセリング・プロポジション(宣伝命題)でした。


私たちは、使用される部品の品質を見ました。
私たちは、間違いを避けるためにとられる、信じられないぐらいの予防措置を見ました。
私たちは、車を何回も引き返らせ、そのかわりお客さまからは決してつき返されることのないようにする、莫大な金のかかった検査システムを見ました。
私たちは、この信じられないぐらいの安い値段で、このすばらしい品質の製品を可能ならしめている、印象的な能率を見ました。
私たちは、作業員たちの、定められた基準よりもずっと自分をすぐれたものにしている熟練の誇りを見ました。


そうです、これは、正直な車です。私たちは、セリング・プロポジションを見つけました。


私たちは、 うまくやることができたでしょうか?
私たちがいわなければならないのは、「これは正直な車です」 ということだったのでしょうか?


さて、私はここで、そんなふうにはいかなかったということをお話しようとしているのではありません。
しかし、私たちのように少ない広告予算では、そうはいかなかったのだということを申し上げたいのです。
真実を告げるということと、それに人びとの耳を傾けさせ、真実として認めさせるということは、まったく別物です。
広告予算に関する限りでは、人びとがあなたを信じるまで、真実は真実とはなりません。
もし私たちが、「フォルクスワーゲンは正直な車です」という言葉の上に十分なお金を積むことができたなら、そのお金の重みだけで大衆の心にその文句を焼きつけることができただろうと思います。
しかし私たちには、それだけの時間もお金もありませんでした。
私たちは、同志、クリエイティビティにご登場を願わなければなりませんでした。
私たちは人びとをギョッとさせ、決して忘れられないようなやり方で、私たちの利点を直ちに気づかせなければなりませんでした。


これが、クリエイティビティの真の機能です。


たえず技術の進歩を続けているので、「これは正直な車です」 と人びとに告げるために、私たちはこんな質問をしました。


「VWは変わるでしょうか?」


人びとはVWは決してモデル・チェンジしない車だと考えていました。


彼らはしきりにチェンジの記事を読みたがっていました。
そして彼らは、失望させられませんでした。


なぜなら、車の外観は全然変化しないけれども、車の外観を最新流行にしたり流行おくれにしたりするのではなく、あなたが感じたり聞いたりすることのできる車の内側、変えただけのことはある車の内側では、数えきれないほどのチェンジが行なわれているということを知ったからです。
ここで、イマジネイションとクリエイティビティが、「これこそ正直な車である」ということを、 ドラマティックに証明するために用いられました。


あなたはVWの別の広告、 「不良品」という見出しで、ただ1台の車を示しただけの広告を覚えていらっしゃるでしょうか?
車の欠点を指摘して、いまや伝説にさえなっている広告だということはご存じでしょう。


しかしこれは、それ故にこそ、「これは正直な車である」ということを、もう一度忘れられないように証明するために使われたのです。
というのは、それがドアのどこかに目に見えないようなカスリ傷があるというので、この車を不良品だといったのは、VWの非情な検査員だったからです。


私たちがただ、 「すべてのVWは厳しい検査をパスしなければなりません」といったと想像してみて下さい。
「不良品」という一語の見出しのクリエイティブな一撃であらわされたのと同じことを主張するのに、どれほど数多くの広告と、どれほど多額の金がかかるとお思いになりますか?


しかし読者が語りかけるのは言葉や写真だけではありません。
誌面には感じや調子があります。
そしてこの二つは、VWの広告で、レイアウトは非常にシンプルでわかり易く、清潔です。
活字はクラシックで、装飾的ではなく、コピーの文体は機能的で直截です。
主語、動詞、目的語です。
正直という私たちのセリング・プロポジションを、できるだけ早く、できるだけ強いインパクトで消費者に届かせるために、すべてのことが心理学的にクリエイティブに行なわれています。





The beetle's ads series with "New Yorker's archive (1)

An advertisement made the beginning




Is Volkswagen contemplating a change?


The answer is yes.
Volkswagen changes continually through-out each year. There have been 80 changes in 1959 alone.
But none of these are changes you, merely see. We do not believe in planned obsolescence . We don't change a car for the sake of change. herefor the doughty little Volkswagen shape will still be the same.
The familiar snub nose will still be intact.
Yes, good as our car is, we are constantly finding ways to make it better.
For instsnce, we have put permanent magnets in the drain plug. This will keep the oil free of tiny metal particles, since the metal adheres to the magnets.
Our shift, we are told, is is the best in the word. But we found a way to make it even smoother.
We riveted special steel springs into our clutch plate lining.
The Volkswagen had changed completely over the post eleven years, but not its heart or gface.
VW ownerskeep their cars year after year, securein the knowladge that their used VW is worth almost as much as a new one.


C/W Jullian Koenig
A/D Helmut Krone

"The NEWYORKER" 1959.08.01
"LIFE" 1959.08.03