創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(6)VWビートルの広告キャンペーンを代表する2点

2月9日に引用した『創造と環境』[第3部 DDBの環境03−06]に、「バーンバック氏が関係したVWの有名な広告に『不良品 Lemon』というのがあります。

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なんでもないVWの写真にこの見出しをつけて、クロームの一カ所がはがれているのでこのVWは不合格品として処理された」とのコメントを付しました。
じつは、この『不良品』と、その3カ月ほど前のライフ誌に掲載された『小さいことが理想 Think small』は、20世紀を代表するVWのキャンペーンの中でも、とりわけ記憶に残り、かつ、クリエイティビティの極意として語りつがれている作品です。

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2点ともキャンペーンがはじまった半年後…1960年に制作され、その年の多くの広告賞をかっさらったばかりでなく、クリエイターたちの手本となり、バーンバック氏に、1961年のAAAA(全米広告協議会)の年次総会でつぎのようにスピーチさせました。
フォルクスワーゲンのキャンペーンについてお話ししましょう。私たちがこのアカウントを引き受けたとき、最初にしたことは、ドイツのウルフスブルクの工場で多くの時間を費やすことでした。
私たちは技術者や製造陣、幹部連や流れ作業の作業員たちと話し合って数日をすごしました。
私たちは溶けた金属が硬くなってエンジンになるのといっしょに歩き、そして、すべての部品が最後に定められた場所に納まるまで歩きつづけました。(略)
私たちは、フォルクスワーゲンの作り方をすっかりのみこむことができ、テーマを何にすべきかを知りました。(略)
私たちは何を米国の大衆に告げなければならないかを知ったのです…フォルクスワーゲンは正直な車です…これが販売命題でした。(略)
しかし、宣伝予算が少ない米国VW社としては、<フォルクスワーゲンは正直な車です>と真っ正直にいったのでは、人びとの記憶に残りません。
真実を告げることと、人びとに耳を傾けさせること・真実を信じさせることとは、別ものです。
私たちの伴侶であるクリエイティビティにご登場願いました。
私たちは、人びとをギョッとさせ、決して忘れられないようなやり方で、フォルクスワーゲンの利点にただちに気づかせなければなりませんでした。
あなたは、『不良品』という見出しで、車単体の写真を置いた広告を覚えていらっしゃるでしょうか? 車の欠点を指摘して、いまや伝説となっている広告だということは、ご存じでしょう。
ロームメッキのどこかに目にも見えないほどの傷があるのを、VWの非情な検査員が発見したと報告しています。
しかしこれは、それゆえにこそ、「正直な車」であるということを一度で忘れられなくするために使われたクリエイティビティなのです。
<すべてのVWは厳格な検査を経ています>といったときと、『不良品』との、衝撃力の開きを想像してみてください」


ぼくがこの広告の一撃にノックダウンをくったのは、写真に使われているのは、傷なんかない正常VWだったろうという点です。
クリエイティビティの力によって、傷の話が、いかにも真実めいて聞こえてくるから妙ではありませんか。