創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](2-1)

しょっぱなにも書きましたが、46年前、chukyuuが32歳から33歳のときに忖度した結果のものです。ま、46年後のいま読みかえして、幼さは感じますが、古さはさほどに覚えないといったら手前味噌でしょうか。あと、20年後に読み返すとどうかな---と苦笑しながら、アップしています。
(PCの調子のおかしいの、直りました。インターネット・エクスプローラーVer.7に hatena が対応していなかったみたい。Ver.6へ戻したら直りました。進みすぎると周囲がついてこれません)。




>>[効果的なコピー作法]目次


第2章

コピーのプラン


コピーをプランすることは、広告そのものをプランする
ことでもあります。広告のプランニングは、広告の目
を決め、その目的を達成するためにもっとも効果的と
いわれる各種の手法を決めることです。
その手順は? どんな方法で? この章では、世界一の
キャンペーンといわれる、フォルクスワーゲンの広告を
例にして解説。とくに「コピー・プラットフォーム」「コピー・
フォーマット」という用語は、日本初登場。



【例・6】


あなたが車メーカーの経営者だったとして、こんな広告、O.K.なさいますか? 


ほとんどの自動車メーカー--- というより、この場合、ほとんどの広告主は、このような広告に近寄ろうとはなさいませんでした。
ネガティブすぎる、大胆すぎる、というわけです。
フォルクスワーゲンは、そうは考えませんでした。
彼らは、工場での検査についての話を人びとが読み、そして信じるようにするための、かなり驚くべき要素をこの広告がもっていると私たちが考えたのに同意したのです。
ただのトリックやギミックではない話そのものから何かがにじみでてくること。
ごらんのとおり、その何かを、私たちは出すことができました。
この広告の成功とは別に、それから全般的なフォルクスワーゲンの広告とも別に、こういう考え方もあるのです。
正しいアイデアを持つ広告代理店は、正しいクライアントをひきつけるものだということです。


Esquire 1963年8月号


広告の評価


私たちは、まい日、たくさんの広告に接します。
で、職業柄、ついつい、「ナカナカ楽シイ広告ジャワイ」とかね「クダラナイ広告ジャナ」とか思ったり、つぶやいたりします。
しかし、何が楽しくて、何がくだらないのか、その基準についてはあまり深く考えないものです。(ほとんど、自分の感性で即断しているといってもいいのでは---)そういったインスタント採点法も1つの広告の見方かもしれませんが、それでは、自分は納得できても、ほかの人を納得させるには、いささか貧弱な論拠でしょう。
さて、(例・6)のドイル・デーン・バーンバック(Doyle Dane Bernbach)広告代理店の自社広告があります。
1963年8月号のエスカイヤ誌に載ってっていたものです(chuukyuu補:推察ですが、媒体側が謝礼としてスペースを提供したのでしょう)。
このドイル・デーン・バーンバック(DDB)社は、米国の広告代理店の中で第19位(1962年)の会社ですが、私のもっとも好きな代理店の1つです。
ところで(例・6) の広告は、同社が創造したフォルクスワーゲン・ビートルの広告キャンペーンの中の1つで、有名な「不良品」というのを引きあいに出して上記のように主張しています。

では、このDDB社の広告に引用されているフォルスワーゲンの広告を読んでみましょう。これは、1960年4月11日号のライフ誌に載ったものです。


【例・7】


不良品


このフォルクスワーゲンは船積みされませんでした。車体の1ヶ所のクロームがはがれしみになっているので、取り替えなければならないのです。およそ目につくことがないと思われるほどのものです。
が---クルト・クローナーという検査員が発見したのです。
当社ヴォルフスブルクの工場では3,389人が1つの作業にあっています。フォルクスワーゲンを、生産工程ごとに検査するために、です。 (日産3,000台のフォルクスワーゲンがつくられています。だから車より検査員の方が多いのです)。
あらゆるショック・アブソーバがテストされます(部分チェックではだめなのです)。 ウインドシールドもすべて検査されます。何台ものVWが、とうてい肉眼では見えないような外装のかすり傷のために不合格となりました。
最終検査がまたすごい!  VWの検査員は1台ずつ車検台まで走らせていって、189のチェック・ポイントを引っぼりまわし、自動ブレーキ・スタンドへ向けて放ちます。それで50台に1台のVWに対し、「ノー」をいうのです。
この細部にわたる準備が、他の車よりもVWを長持ちさせ、維持費を少なくさせるのです (中古VWが他の車にくらべて高価なワケもこれです)。
私たちは不良品をもぎとります。あなたはお値打ち品をどうぞ。




Lemon.

This Volkswagen missed the boat.

The chrome strip on the glove compartment is blemished and must be replaced. Chances are you wouldn't have noticed it; Inspector Kurt Kroner did.

There are 3,389 men at our Wolfsburg factory with only one job: to inspect Volkswagens at each stage of production. (3000 Volkswagens are produced daily; there are more inspectors than cars.)

Every shock absorber is tested (spot checking won't do), every windshield is scanned.

VWs have been rejected for surface scratches barely visible to the eye.
Funktionsprufstand (car test stand), tote up 188 check points, gun ahead to the automatic brake stand, and say "no" to one VW out of fifty.

This preoccupation with detail means the VW lasts longer and requires less maintenance, by and large, than other cars. (It also means a used VW depreciates less than any other car.)

We pluck the lemons; you get the plums.


ごらんになり、お読みになって、あなたはどんなふうにお感じになりましたか?
気が利いている? 大胆? 楽しい? おもしろい?
どちらの広告がですか? DDB社? それともフォルクスワーゲン
どちらでも結構ですが、いまは、VWの広告のほうを、もうすこし考えてみましょう。


明日につづく




chuukyuu補】最近のことです。
”Helmut Krone. The book.
Graphic Design and Art
Direction (concept, from and
meaning) after advertising's
Creative Revolution."

とおそろしく長々と題した本を手にいれました。
サイズ:35cm×24cm 厚さ268ページ 
万に近い値段でしたが、旧友の消息を聞いたような感じで購入しました(広告関連のものはすべて美大の図書館へ寄贈したのに---)。
クローン氏(1925〜1996)は、フォルクスワーゲン・ビートルの記事ページ・スタイルの有名なレイアウト・フォーマットを作ったDDBの幹部アートディレクターです。

「このフォルクスワーゲンは船積みされませんでした」をへッドライン(見出し)にしたラフスケッチを個室の壁ボードに掲示して眺めていました。
そこへ、旧友の女性コピーライター---ミズ・リタ・ワーグナーが入ってきて、壁を一瞥、
「あら。レモンね」
って呟いたのです。
クローン氏はとびあがって喜びました。
新しいヘッドラインが生まれたのです。短くて、パンチがきいてて、記憶に残るへッドラインの誕生です。
記憶に残る---といいましたが、広告史上、記録に残るヘッドラインでもあります。
46年後のいまだからいえるのでが、それまでの名ヘッドライン(キャッチ・フレイズ)とされていたものは、ほとんど、Why, Who, When, Where, How---で始まっていました。いわゆる、通信販売用のヘッドラインです。

それが、たった1語の「Lemon」ですからね。
46年後のいま、ぼくは「コピー作法」に「シンプル・フレイズ」という1章を加えるべきだったと後悔しています。「不良品」を見ていて、気がつかなかったのです---「若書き」の失敗例です。
もっとも、「若い時の恥は、恥じゃない」ともいいますが。「人は、失敗から学んで成長する」とも。「後悔から学んで---」だったかな?


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