創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

01-07 型にはまった人間ががまんできない

ファンジェは『創造性の開発』で、創造性を妨げるものとして、「意識していようといまいと日常生活の一部となっている習慣と伝統とは、ほとんどあらゆる場合にわれわれを縛っている。
そのうえ、与えられたグループの一員として(やはり、意識していようといまいと)そのグループの態度と行動とを、きびしく支配している不文律に順応する精神的な<仕掛け>がいつの間にかでき」るといって、習慣、機能の固定をヤリ玉にあげています。

エジプトのパロ王の重圧の下で苦役に励んでいたイスラエルの子孫たちが、モーゼのカナンへの脱出のすすめにもかかわらず、彼らは最初「心の傷(いた)めると役事(はたらき)の苦しきとのためにモーゼに聴(き)かざりき」(出エジプト記第6章)であったのも、人間というものは習慣と現在の環境を疑うことがいかに困難であるかを示しています。

モーゼに擬するつもりはありませんが、
「私は、自分のコピー部門の中に型にはまった人間がいるのはがまんができませんでした。私は、そういう人を今までやっていた一切のことから引き離しました。そうすることによって、新鮮な見方、外側からの見方ができるようになると考えたからです」
というバーンバック氏は、自分一人が創造的な考え方に従ったというだけでなく、人々にカナンの地を示したのです。

具体的にそれがどんなふうであったか、後にバーンバック氏の片腕となった(フィリス)ロビンソン夫人によれば、
「ビル・バーンバックは、グレイ社(広告代理店)時代に私の上司でした。彼はいつも、私の書いたものを引き締め、そしてより生き生きとした文章になるよう直接指導してくれました」
ということです。彼女の場合は、すでに彼女自身が新鮮な見方を身につけていたので、作文上の指導にとどまったのではないかと思えます。