創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(3)ベター・ヴィジョン協会キャンペーンの追補

6分間は5分より長く、10分より短い、1時間の10分の1です、読むのは6分。しかしいつか、この道草について60分考えることになります。あるいは6日間…


[DDBの広告]ベター・ビジョン協会、で紹介した、ベター・ヴィジョン協会のキャンペーンについて、『DDBニュース』1968年5月号で、アートディレクターだったレン・シローイッツ氏が、事情を話しているので、2点の広告とともに転載(なおこの記事は、編著『DDBドキュメント』に収録したものの抜粋です)。

問い「あなたがこれまで手がけたお仕事の中で、きわ立ったキャンペーンであるモービルとかベター・ヴィジョン協会などは商品広告以上のものをセールスしていますね。ベター・ヴィジョンは視力検査をすすめているし、モービルは安全な運転というコンセプトをセールスしているし…」


シローイッツ「いいえ、実際にはベター・ビジョン協会の広告の目的は、眼鏡を売ることでした。モービルの広告目的は、長期にわたってガソリンを売らなければならない偉大な理想の実現でした。

ただ、私たちは変わった方法を使ってやっただけのことです。両方とも、読者にサーヴィスをしたのです。


【訳文】
5分間こうやってごらんなさい。それが永遠だったら?
あなたはたった一組の目しかお持ちじゃないのですよ。
最後に検眼なさつたのはいつですか?

つまり、読者のためになるようなことをやったのです。そういうものを私たちが読者にしてあげたので、読者も反応を示してくれたのです。
実際すぐれたキャンペーンというものは、商品を売るという射程の短い目的のほかに、広告主のために射程の長い企業的な効果を持ったキャンペーンでもあるべきです。読者が興味を持つようなものを提供すれば、そのお返しに広告主に興味を持ってくれるものです。あなたが人びとに関心を寄せていることを示せば、人びともあなたに関心を寄せてくれるものです」

さらに、以下の文章は、1967年春、チューリッヒに招かれたシローイッツ氏の講演の一部です。

ベター・ヴィジョン協会が、約4年ほど前にDDBの新しいアカウントになりました。 私は、本能的に、これがすばらしい可能性を持つものであると感じました。この協会は、ほかの広告代理店のもとで6年間、それ以前にも10年間ほど広告を出していました。その間、このアカウントに関する目につくような広告は何一つ行われていませんでした。

私は、このアカウントがDDBへ来たことを知ると同時に、ボブ・ゲイジのもとへ行っていいました。

「ボブ、私がその仕事をしたいと思っている新しい、そしてすばらしいアカウントが来たようだね。ベター・ヴィジョン協会っていう名だ」
「どんな会社だい? 聞いたこともないね」
と、ボブは答えました。(これが15年間、広告費を使っていたあとでの出来事です)。

(この講演の一部は、02-01興味があれば申し出る、に引用済み。)

「とにかく、私をそのアカウントの担当にしてくださいよ」
といい、彼も承諾しました。

私がアートディレクターとして、レオン・メドウがコピーライターと決まりました。レオンと私は、それ以来、ベター・ヴィジョン協会のすべての広告に携わっています。

私たちは協会へ出かけ、そこの人たちと話し合いました。彼らがかかえているすべての問題について検討しました。何がベター・ヴィジョン協会をつくりあげているかを知るためのすべてについて学びました。驚いたことは、そして皆さんも驚かれると思いますが、私たちがベター・ヴィジョン協会と呼んでいるものは利潤追求のための組織だったのです。

協会は、光学レンズ・メーカー(主としてバウフェ&ラムボシュ=ロム社とアメリカン光学社)、眼鏡フレームの製造業者、その販売業者と検眼士で成り立っています。

彼らは、米国における眼鏡の販売を増進するために、協会にお金をプールしているのです。これは、共同広告の典型的な例です。その運営費はたいして多くはありません。年間100万ドル以下でしょう。

DDBでは、年間60万ドルの扱い高からはじめ、現在でも80万ドル程度です。米国では小さいほうのアカウントです。

私たちは、眼鏡、フレーム、検眼などを直接売り込んではならないという結論に達しました。それが本当に公衆のためになるような、「パブリック・サーヴィス・キャンペーン」を行うことが、お金をもっとも有効に使うことであり、そしてまた、協会の利益にもつながるとの考えました。


【訳文】
ほんの一例にすぎません。
慎重に運転してください。
そして1年に1回は検眼を
してください。     


それゆえ、あらゆる要望にもかかわらず、この基本線から外れたことはありません。そもそもの最初から、人びとに検眼してみようと思わせる最良の方法は、彼らに目についての関心を持たせること…目の重要さについて認識させることであると、私たちは考えました。

時には不安からのこともあるでしょうが、基本的には、人が持つもっとも貴重な感覚の一つに対して興味を持たすこと、そこから私たちの広告がはじまりました。

私が大変に誇りにしていることは、このキャンペーンの開始以来、米国での眼鏡の販売高が33%増加したことです。

これは一つには眼鏡のデザインの進歩に(私たちはこれをヨーロッパから学びました)、そしていま一つは、私たちのキャンペーンに帰することができると考えています。

>>[DDBの広告]ベター・ビジョン協会