創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(772)『アメリカのユダヤ人』を読む(23)

 

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参  加


地方人と世界人



 ユダヤ人の共同体生活は一見すごく生真面目である。
その組織も高邁で高尚な大目的のための組織ばかりのようである。
宗教的でも慈善的でもシオニスト的でもない、純粋に社交的な公的機関をユダヤ
人に求めるのは無理な相談だろうか? 
彼らとて上調子な社交生活を持っている。
だが彼らは社交的目的以上の目的のための「ユダヤ人」組織と思いたがるのであ
る。
そして、組織の総体的な目的が生真面目でありさえすれば、集会は存分に社交的
にやる。


 宗教的組織を除けばアメリカのユダヤ人は、こうした二重目的の組織に参加する
のが好きである。
シュテットルでは二重目的は必要なかった。
共同体生活と社交生活がうまく混ぜあわさっていたからである。
ローアー・イーストサイドヘやってきた時、新しい土地に昔ながらの社交形態の再現
をはかった。
そして同じシュテットル出身者だけのクラブ「ランズマンシャフテン」をつくった。
1、2週ごとの集会で金の使途や困窮会員への援助などを話しあったが、終わるとト
ランプに興じた。
集会は、今世紀初めにビジネス協会とか専門家協会とか労働者サークルに姿を変え、
いまでもそのまま存続している。
15年前にはニューヨーク地区だけでこの種の宝石商共済組合、劇場街クラブ、イー
スト・サイド・ミネラル・ウォーター販売店会などが2,000もあった(注1)。
ユダヤアメリカ人第2世代は社交的、経済的要素の濃い社交場をつくり出した。
そしてその社交場も一見してランズマンシャフテン的生真面目な目標を掲げていた。


 社会学者ダニエル・エラツァーはユダヤ人組織を地方的と全世界的の2タイプに分
類している。
前者は教区活動だけに従事して外界とほとんど関係がない。
後者は全国的組織に所属して全国的行事に寄与している。


 ハダサが極端な例である。
ハダサは公的には世界的なシオニズム運動を推進するための機関で、指導者連はシオ
ニズム運動やアメリカそのものに絶大な影響を与えていると主張している。
ハダサの代表は全米のユダヤ人諸機関の高度な政策会議にも出席して証言したり、イ
スラエルにとんで閣僚と打ち合わせもする。知的で教養もあり、彼女らなりの見解の
売り込みもかなりのものだと認められている。


 だがハダサは、ある点でシオユストーグループとは異なっている。
他の組織の会員数はこの20年間減りっぱなしなのに、ハダサは逆に増えている。
現在数は31万8.000人で、全米に1,300の支部があり、毎年1,000万ドル
以上の募金に成功している。
その秘密は、ハダサが早くからシオニスト組織であることをやめたことにある。


 会員は東欧系の保守的な中流階級の女性がほとんどで夫の年収は1万〜2万ドルで―
―慈善体制のお偉方には及ばないが、それでも全国平均以上の収入である。
イスラエルには同情的だが、それもアメリカのユダヤ人一般の考え方と変わりない。
イスラエルは好きだが住みたくはない――そして真正シオニストと違って、そういう考
えに良心の呵責を感じてもいない。
彼女たちがハダサ会員であるのは、そのシオニスト的な行事――討論会、イスラエル
講演者、ハダサ病院への募金――が、立食式昼食会やダンス・パーティ、カード・パーテ
ィやピンゴ・ゲーム、ボーリング大会のロ実を提供してくれるからである。


 ハダサに対応する男性側組織は、中流階級の統合組識………ブネイ・ブリスである。
ドイツ系ユダヤ人によって1843年に設立された。
最初はドイツ語名だったがすぐにヘブライ語の現在名に変えられた。
その意味は「神約の子」である。
今日アメリカには35万人の会員がいて、全世界に支部がある。
ブネイ・ブリスには初めから2重の目的があった。
アメリカ最古のサービス機関として、慈善行為と不幸にあったユダヤ人救助にあたった。
同時にもう一つの目的……アメリカのユダヤ人に独自の雰囲気の中でくつろげるクラブ
を提供した。
このため財政的にも社会的にもイデオロギー的にも会員規制を設けていない。
すべてのユダヤ人はブネイ・ブリス会員になれるという仮定に立って活動しており、会員
未納者もほとんどいない。


 ブネイ・ブリスが支援している諸活動は名誉毀損反対リーグ、ヒレル施設、成人学習計
画、養老院、プネイ・ブリス青年部などがあり、ユダヤ人共同体の中でも最重要なものの
中に入る。
こういった諸計画を管理するブネイ・プリスの全国指導力アメリカで最高のものであろ
う。
しかし指導者連は支部会議には出たがらない。
典型的な会議内容は真面目というよりは反ユダヤ主義の討論、バゲルとロックス(スモーク・サー
モン入りドーナツ型ロールパン)朝食や株式市況の分析なでだからである。
会員の属性の違いは無視されなければならないという前提が、極端な金持ちと貧乏人の入
金をしぶらせている。
また、会堂の会衆になったことのない者をもがっかりさせる。
支部には5,6人は会堂に加入していない者がいるが、疑惑の目で見られるのである。
知識人や理想主義者はブネイ・バピット(俗物的実業家共済組合)と蔑称している。
「あんなもの役に立つかね? パーティをやったりボーリングに行くだけじゃないか」と
あるユダヤ人指導者は言った。
 

これだけははっきりしている――ブネイ・ブリスが存在していなかったら、ユダヤアメリ
カ人の中流階級は改めてブライ・ブネスをつくり出しただろう。


 こうした中流階級の大組織にあたる上流、下流階級の組織がそれぞれある。
下層階級の婦人組織は「パイオニア婦人会」と「ミズラヒ」(「イスラエル礼拝の意」)である。
両方ともハダサと同じくシオニズムを説き、慈善性と社交性を兼ねそなえている。
上流階級の改革派婦人にはユダヤ人女性全国協議会がある。
これはユダヤ人女性団体中で大卒者の比率が最も高く、改革派への加入率も高い。
夫たちは大金を稼いでいる。
支部は地方共同体の奉仕活動に従事している。
年長者のためのゴールデンエイジ・クラブも最初に設立した。
会員は病院や盲唖・身障者施設で活躍しているほか、公民権運動も目立っている。
昼食会やパーティ、ダンス会ももちろん開催する。
社会的に恵まれているという甘い自覚が彼女たちの支えになっているようである。


 ユダヤ人女性全国協議会がハダサにみあう上流階級の組織なら、ユダヤ人在郷軍
人会がブネイ・ブリスの下層階級版である。
10万の会員がいるといわれ、ほとんどが東部の大都市居住者で、この組織だけに
限って活動をしており、他のユダヤ人組織には目もくれない。
小企業や小売商に従事している者が多く、一応正統派に属している。
大卒者はわずか1割で、40%は年収1万ドル以下である。
会費も10ドルと安く、値上げ案にはものすごい反対が集中する。
在郷軍入会にも真面目な公式目的がある。
ユダヤアメリカ人の軍事力」と称して、反ユダヤ主義と退役軍人の権利のため
の戦いに従事している。
ユダヤ人と非ユダヤ人の退役軍人が政府と交渉する場合の助けとなり、法廷で争う
時には弁護士を雇う。

海外勤務しているユダヤ人兵士に慰問袋を送ったり、会員の子弟に奨学金を出した
り、政治問題に大声をあげたりする。
しかし、支部は晩餐会を催したり、軍旗をかかげて野球大会をやる。


明日に、つづく。