創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(776)アメリカのユダヤ人』を読む(26)

 

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権力争い  昨日のつづき






 戦いに勝つのはどちらだろう? いままでのところでは、非宗教体制側に分
がある。
連合体側には金があるし、アメリカー般社会と同様、ユダヤ人社会でも何かに
つけて金がものを言う。
宗教体制側にはその効力が予想できない一つの武器がある。
アメリカの宗教的多元性――教会加入を通じて各人がその存在を正当化する制
度――がラビに巨大な象徴的権力を与えている。
ラピは個人としてはなんの意味も持たないが、体制側の代表としての立場は重
い。
ラビ組織、特に保守派ラピ集会はこの立場を認識しはじめている。
最近ではラピ組織が宗教的権力に比重を置き連合体側権力に逆らうようにラビ
たちをせきたてている。
大都市で行なわれる募金運動は、その地区のラビが協力を拒否するとはかどらな
い。
防衛機関もラビが会衆の金持連中の前で演壇から非難攻撃すると、支援を受けら
れなくなる。


 実際にこうした試みが多くの地区で実行されている。
数年前ニューイングランド会堂連合は、ボストン共同体関係協議会に送りこむ代表
者の数が少なすぎると感じた。
そこでユダヤ人会衆連合と力を合わせて、それからラビが連合体への大口寄付者で
もある会衆の個々をせきたてて、不満の手紙を書かせた。
手紙はたいていラピが書いて、金持ちは署名するだけだった。
まもなく会堂と会衆連合は、ポストン共同体関係協議会にさらに4人の代表者を送り
こめるようになった(注3)


 この戦いにどちらが勝つかは誰にも予測できない。
しかし一つだけ確かなことがある。――宗教体制側が牛耳ることになれば、アメリ
ユダヤ教に大幅な変化が起こるということである。
ラピたちは権力を求めて全ユダヤアメリカ人に厳しく要求している。
加入だけ――と彼らは言う――が一体感の受け入れ得る形である。
数年前のラビ集会の機関誌で、ジヤコブ・ニュスナーがこの要求を明らかにした。
すべての組織が「宗教的な組織以外のユダヤ人グループを不朽なものにしようとして
いる」といって責めた(注4)


 ある意味では、ラピのこうした要求も責められない。
彼らは非宗教体制側があまりにも長年にわたって彼らに対して冷たかったと感じている
のである。
しかし復讐に大童になって、彼らは大きな危険を冒している。
共同体では非常に活動的であるが会堂にはあまり興味のない多くのユダヤアメリカ人
が完全に追いたてられてしまうことになる。
ユダヤ人共同センターも防衛機関もブネイ・プリスも会堂の賛同なしの募金運動もなくな
ってしまったら、非宗教的なユダヤ人はどこに忠誠心のはけ口を見つけたらよいのか?


 宗教体制側はユダヤ人の性格に逆らおうとしているように私には見える。
ユダヤ教と会堂を同じものとすることによって定義づけできないものを定義し、本来とら
えがたく神秘的なもののまわりにはっきりとした境界線を引こうとしているのである。
この試みが失敗に終わるとしたら、一般のユダヤ人がラピ以上に本能的に、自分にとって
どんな環境が一番幸福かを知っているからに違いない。


 本当のところ、一般のユダヤアメリカ人はこうした組織闘争とは無関係で、存続とか
一体感とか畏れ多い抽象的なことには無関心なのである。
宗教的であれ非宗教的であれ、会員資格とか加入などより、仕事や政治的意見や正邪観や
家族のことのほうがずっと重要である。



注1 Rabbi Jack Schechter, "Primer for Revolution: Conservative Judaism, Winter, 1966.
  2 "Jewish. Communal Services : Programs and Finances," The Council of Jewish Federations and Welfare Funds, June,    1966.
 3 Schechter, op. cit.
  4 Jacob Neusner, "Conservative Judaism "in a Divided


この章、完。
次回は、■生 活 最高の商品 7月8日(土),9日(日)