創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(632)[ニューヨーカー・アーカイブ]を基にエイビス・シリーズ(24)


これは、実話なんです。


代わったばかりのコピーライターのハーツブロン氏とアートディレクターのクローン氏が、エイビスの最高責任者であるタウンゼント氏に会うので、ロング・アイランドのガーデン・シティにあるエイビス本社へ行くために借りた車の灰皿は、吸殻でいっぱいだったのです。


その吸殻を封筒に保管し、下の広告を試作、タウンゼント氏に提案しました。
「汚れた灰皿の車はお貸ししません、と約束しているのに、これは、どういうことですか?」


驚いたタウンゼント氏は、憮然とした面持ちで逆に問いかけました。
「まさか、本気で掲載するつもりではないんでしょう?」


「私たちは、実際に掲載すべきだと確信しているんです。私ひとりではなく、私たちです。私たちは広告をつくることに生活をかけてはいますが、ウソの広告はつくれません」


後日、クローン氏は「ハーツブロンをそそのかしたのは、じつはぼくなんだよ」と、後継のライターに洩らしたそうです。


そういえば、クローン氏の墓碑には「VWの広告の正直さを、すべての制作物にも」と刻まれているとか。



この広告の作者が、最近、
エイビスの車を借りて、
そこで見たものは---


私は、生活のためにエイビスの広告を書いています。しかし、私は金もうけの嘘つきになったことはありません。
あなたがエイビスに最低限期待できるのは、あらゆる点で申し分のないきれいなブリマスだと私が保証しても、エイビスはけっして私を裏切らないと信じていられます。
吸ガラでいっぱいの灰皿があるなんて、思いもよりませんでした。
あの会社は、上は社長から、全員が一所懸命やっていることは、私もこの目で確かめて知っています。
「私たちは一生懸命やります」というのは向こうのアイデアで、私がつくったものではありません。
ですから、困ったのは向こうで、私ではありません。
もし、私に、今後もエイビスの広告を書かせるのなら、そのとおりにやってもらわなければなりません。そうでなければ、別の人をやとってもらいましょう。
まさか、この広告は、使わないだろうな。


(写真キャプション:「たばこの吸ガラが灰皿にいっぱい」)


C/W ダヴィッド・ハーツブロン David Herzbron
A/D ヘルムート・クローン Helmut Krone
"The NEWYORKER" 1965.10.02