創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(316)[ニューヨーカー・アーカイブ]によるビートル・シリーズ(2)


第2弾



まるで、カタログを雑誌広告にしたようなこれは、第1弾の広告から1週とばして、1959年の第3週号の『ニューヨーカー』誌に掲載されていました。
米国車が華々しく新車を発表する、ほぼ1ヶ月前でした。

しかも、米国VW社は、多くの受注残をかかえていたのてす。
3ヶ月待ち、4ヶ月待ちはふつうだったといいます。

「納車をお待ちになっているあいだ、これでも読んで、あなたがお待ちになっているのは、こういう車なのですから、自信を深めてください」といわんばかりの語りかけです。


フォルクスワーゲンは、納車に3ヶ月近くもかかるの、どうして?


その理由


(1) 凍結したりオーバーヒートしない空冷式エンジン
VWのエンジンは後部に搭載されています。普通じゃない? フォルクスワーゲンの特長の中では変わっていない部類の方だと考えている自動車専門家もいます。まず、空冷式であること。考えてみると、これはすごく有利ですよ。夏に沸騰したり、冬に凍ったりする水が不要です。不凍液も不要。ラジェターのごたごたもありません。
エンジンはアルミニウムとマグネシウム合金の精巧な鋳造で、とても軽くて頑丈な198ポンドです。摩擦が最少限になるようにきっちりつくられ、交換修理を要するような事態は起きないはずです。リア・エンジンだということは、車輪に動力を直接伝えることを意味します。これは、 (シャフトの重さと回転力のロスを省いた)もっとも経済的な設計で、トップ・スピード時でも巡航速度時でも同じように高能率を発揮します。VWは、1日中、ムリなく時速100kmで走りつづけられます。耐久性についてVWオーナーの方々から、 160,000kmを越えてなお、りっばに走っているとの報告をうけているほどです。


(2) 氷上や雪道でも操作がラク
エンジンが後部にあるということが、後車輪にすばらしい牽引力を与えます。ほかの車ならスキッドするようなぬかるみ、砂地、氷上、雪道などでもVWは走ります。
エンジンが後部にあるVWの利点をあなたは実感なさるはずです。
この車こそ、あなたの思いのままに動きます。混雑したところでも敏捷にすりぬけます。


(3) トーション-バー・サスペンションの接地性
私たちは、新しいトーション-バー・ライドに関する一流自動車メーカーの最近の広告をおもしろく読みました。 トーション-バー・サスペンションが現在、10,000ドルから15,000ドルもする輸入スポーツ・カーに採用されている、工学界の偉業の一つだ---といった調子で報告されてあったのです。
そのとおりです---が、一つだけ抜けています。フォルクスワーゲンは、独立懸架方式とトーション-バー・スプリングを採用しているのです。だから、デコボコ道でも(ガタン、バタン、ガタンがなくなって)神秘的な操縦性を発揮し、カーブ時の振動やフレがなく、それでいて、10,000ドルや15,000ドルものお金はいりません。たったの1,565ドルです。


(4) 不変のスタイル
写真の2台は同じ車に見えますか? 実際には '59年型VWは80ヶ所も改良されています。そう、フォルクスワーゲンは、たえず変化しています。ちょっと見ではその変化はわかりませんが---。
私たちは、前年の年式のものを流行おくれにするために車を変化させているのではなく、よりよくすることだけを考えています。
たとえば '59年型ではオイル・ドレイン・プラグに3ヶの永久磁石をつけてオイルの浄化をはかり、スチール・スプリングをクラッチ板にとりつけて変速をスムーズにしました。VWは、この10年間に心臓と外形のほかは、すっかり変わりました (白状しますと、スタイルは変えたくとも変えられなかったのです。2,3年前、私たちはこの件について、イタリアの有名なボディ・デザイナー某氏に相談したことがあるのです。
彼は検討を重ねた結果、「リア・ウインドゥを大きくしなさい」とだけいいました。私たちは、そうしました)。


(5) クラフトマンシップの真意
ベンジャミン・フランクリンは、あるとき、指物師がテーブルの装飾をしているのを見て、「どうして、そんなわずらわしいことを---そんな裏側が装飾してあろうとなかろうと、だれも気づくまいに---」といいました。するとその職人は、 「私が知っています」と答えたのです。
ウルフスブルグのフォルクスワーゲンの工場では、肉眼ではわからないほどの塗装のキズのために、毎日VWが捨てられています。ビジネスセンスが不必要と考えるかもしれないことをやるというクラフトマンシップに由来しているのです。たとえばVWは、必要以上の塗装をしています。すなわち、ラッカーの3重塗装をしていますが、それもたんにラッカーを吹きつけるだけではありません。まず、ペイントの中に沈めて、あなたが見ることのない内側の面が塗装されるまで浸します。それから入念に吹きつけ塗装されます。防蝕のためです。 (2,3の高級車だけがこのやり方でやっています)。
VWは許容量いっぱいにピッチリとつくられているので、ドアを閉めるためにはウインドゥを開けなければならないほどです。その気密さは、水に浮くほどです。あなたのお車でお試しになってごらんなさい。
ウォルフスブルクの工場では、各工程でVWを検査するというただ一つの作業のために3,000人以上もの検査員がいます(VWは日産2,500台。その台数よりも多い検査員がいる勘定です)。


(6) 1リットルあたり10.5km、すてきな運転感覚
フォルクスワーゲンが経済車だということは、もちろん、よく知られています。時速80kmで、レギュラー・ガソリン1リットルあたり、掛け値なしに10.5km走れます(他社のこの件に関する主張はプロのドライバーよるエコノミイ・ランの数字を基にしています。そういうやり方なら、フォルクスワーゲンは1リットルで16kmも伸びるんですよ。しかし毎日乗る分には10.6kmというのが掛け値のない線です)。
操縦しやすい車です。時代おくれのスティック・シフトを敬遠なさるご婦人でも、フォルクスワーゲンのギヤが軽くシフト・チェンジできるのには驚嘆なさるでしょう。ある評論家がVWのスティック・シフトの操作のしやすさ、スムーズさはくらべるものがないと発表しているほどです。
この車は、ほかの車がモタモタしているような道路や駐車場でも敏捷です。在来の車より4フィートも短かいのです。しかも5人の大人と多くの荷物が載ります (事実、フロント・シートのレッグ・ルームは大型車のより奥行きが深いくらいです)。
とくにあなたが運転好きの方ならこのプッシュ・ボタン時代になって、ほとんど失われてしまった自分で操縦するという楽しみを、VWが満足させてくれましょう。


(7) 早くて、安上がりで、どこででも受けられるサービス
自動車の神様、フェルディナンド・ポルシェ博士は、フォルクスワーゲンが長持ちするように設計しました。ほかの車にくらべてサービス工場入りすることが少なく、経費も少なくてすみます。新品のフロント・フェンダーは21.75ドル、新品のシリンダー・ヘッドは19.95ドル、エンジンの取り替えは90分間という合理的な設計です。
VWのサービスは国内50州はもとより、カナダ、メキシコでもご利用になれます。サービスは完ぺきです。技術員は全員、工場で教育を受けた者ばかりです。あなたの大切なVWを、未熟な技術員にまかすようなことは、指定サービス工場としてはいたしません。あなたがVWを見ただけで何年型かすぐに当てられるのでしたら、その古い年式のVWがいまなお新車と同様にごきげんに走るということを発見なさるでしょう。


(8) VWは完全装備で1,565ドル
白タイヤとラジオ、それにサイドミラーはオプションです。私たちには、1,565ドルのVWについている以外のものであなたがお望みになるものが想像できないのです。
これは正直な車です。私たちは、できる限りそうするようにつとめてきましたし、世界中でいちばんお買いどくな車だと思っています、百万長者も運転していますし、学生も労働者も乗っています。あなたもお気持ちしだいでファースト・カーにもセカンド・カーにもなります。セダンでもスライディング・サン・ルーフつきセダン(1,655ドル) でも、 コンバーチブル(2,055ドル)でもお選びになれます。
嬉しいことには、VWの中古車は新車とほとんど同様に売れるのです。お手許の電話帳にVWのディーラーが記載されています。みんないい人間ばかりです。
1948年には19,244台のVWがつくられました。1958年には553,399台つくりました。ことしはもっとふえるでしょう。なぜ、フォルクスワーゲンがいつも品不足なのでしょう?  もう、おわかりですね。


C/W ビル・バーンバック 
   ジュリアン・ケーニグ
A/D ヘルムート・クローン


”The NEWYORKER”  1959.08.15


【chuukyuu注】ビートルの広告目的の一つは、納車までの数ヶ月も待たされる購買者に、「いや、自分の決断は間違っていなかった。待つべきだ」と、変心防止のためと、DDBの担当者から聞いたことがあります。


明日につづく。




The beetle's ads series with "New Yorker's archive (2)


An advertisement made the second




Why are people buying
Volkswagens faster
than they can be made?


Here are some of the reasons:


(1) Air-cooled engine can't freeze or overheat
The VW engine is in the back. Unusual? One auto expert considers its location the least unorthodox feature. of the Volkswagen engine. To begin with, it is air-cooled, an astonishing advantage when you think about it. No water to boil over in summer, or to freeze in winter. No anti-freeze needed. No radiator problems.
The engine is ingeniously cast of aluminum and magnesium alloys, and is very light and powerful, tne toughest 198 lbs. going. It is beautifully machined for minimum friction: you will probably never need oil between changes. A rear engine, of course, means direct power to the wheels. It is the most economical design (no heavy, power consuming drive shaft), and so efficient that top and cruising speeds are the same.
Your VW runs at 70 mph all day without strain. As for endurance, we have heard from VW owners who are slill going strong at over 100,000 miles.


(2) Good control In Ice and snow
The engine in the back gives superior traction to the rear wheels. In mud, sand, ice, snow, where other cars skid, you go.
Naturally, with the engine in the rear, you fee1 the difference at the wheel of a VW. The car is sure and responsive. Very nimble in t(affic.


(3) Torsion-bar; suspension holds the road
We read with interest the recent advertisement of a major automotive firm regarding its new torsion-bar ride. It heralded torsion・bar suspension as one of the great engineering achievements --- available up to now in many $10,000 to $15,000 sports car imports.
All true --- with one omission. Volkswagen introduced torsion-bar springs with individual whee1 suspension. It gives uncanny control over rough roods (no bump-bump-bump), eliminates swing and sway on curves and needn't cost $10,000 to $15,000. Only $1565.


(4) Don't go out of style
Do the two cars below look. the same? Actually there are 80 changes in the '59 VW, for Volkswagen is changing continually. But they are not changes you merely see.
We have never believed in changing a car to make last yeor's obsolete, only to make it better.
In '59, for example, we put 3 automatic magnets in the oil drain plugs for purer filtering. Steel springs were added to the clutch plate to make shifting even smoother. The VW has changed completely over the past ten years, but not its heart or face. (Frankly, we couldn't change its looks if we wanted to. A few years ago we gave the problem to a great Italian body designer. He studied and studied and said, "Enlarge the rear window." We did.)


(5) The meaning of craftsmanship
Benjamin Franklin once watched a cabinetmaker decorating the inside of a table. "Why bother," asked Franklin, "no one will know it's there." "I will know," replied the cabinetmaker.
At Wolfsburg, at the Volkswagen factory, VWs are rejected every day because of surface scratches that are invisible to the naked eye. It stems from a tradition of craftsmanship that does things business sense might consider unnecessary. The VW, for exampl, has more color than it needs: three coats of lacquer are used, and the car is not merely sprayed. It is first submerged in paint, bathed in it until a coat builds up on inner surfaces you never see, and that spraying cannot" reach. It is a shield ogainst corrosion. (A few of the most expensive cars are also pointed this way.)
The VW is made with such close tolerances that it is airtight; you will open a window to shut the door.
So tight indeed that it floats on water. Try that on your present car.
There are more than 3000 men at Waitsburg with only one job: to inspect VWs at each stage of production.(2500 VWs are produced daily; there are more inspectors than cars.)


(6) 32 mpg and fun to drive
Volkswagen economy is, of course, well known. At 50 miles an hour you get an honest 32 miles to the gallon---regular gas. (Most mileage ciaims are based on economy runs by professional drivers. Under those conditions, you could get close to 50 mpg with Volkswagen. But 32 is a more accurate average for everyday use.)
It is a very easy car to handle. Women who shy away from the old-fashioned stick shift are surprised at the way Volkswagen floats from gear to gear. One critic considers the VW stick shift almost unparalleled in ease and smoothness.
The car is agile in traffic and parks where other cars can't fit. It is 4 feel shorter than conventional cars. It holds 5 adults (there is actually longer leg room in the fronf seat than in big cars) and a surprising amount of luggage.
Above all, if you like driving, the VW gives you a sense of personal control and pleasure that is almost lost in this push-button era.


(7) Service II fait, economical, everywhere
Dr. Ferdinand Porsche, the automotive genius, designed the Volkswagen to hold up. It needs less service on the average than other cars and costs are small. A new front fender is $21.75. A new cylinder head $19.95. The car is so well conceived, its engine can be removed and replaced in 90 minutes.
VW service is available in all 50 states, Canada and Mexico. It is excellent. All technicians are factorytrained; no amateurs work on your VW in an authorized service center. If you could tell how old a VW was just by looking at it, you'd find vintage VWs still rolling merrily along, good as new.


(8) The prlce of a VW II $1565. complete
White walls and radio are optional and so is a sid mirror. We can't think of anything else you might want that the VW doesn't deliver at $1565.
It is an honest car; we put as much as we can into it and we think it the best car for your money in the world. Millionaires drive it, so do colloge kids and working people. It is a second car and a first cor, depending on what you want. You can choose the sedan, sedan with sliding sun-roof ($1655) or the convertible ($2055).
The pleasant thing is, a used VW sells for almost as much as a new one. Your phone book lists your authorized VW dealers. Nice people all. In 1948, we produced 19,244 VWs. In 1958, 553,399.
This year, the total will be even higher. Why are people still buying Volkswagens faster than they can be made? Now you know.


C/W Bill Bernbach 
   Jullian Koenig
A/D Helmut Krone


”The NEWYORKER”  1959.08.15


It will continue tomorrow.