創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(597)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(7)


ビルの安全運転キャンペーンの昨日のつづき】


あなたがドライブしているときの、精神状態は、
こんな感じと。


「ひどく緊張した時、ドライブがほぐしてくれます」



どれほど多くのドライバーが、その緊張ほぐしとやらのために毎日死亡しているか、誰も知りません。緊張は血圧の検査でわかるのですが、死亡してしまったドライバーの血圧は計りようがありません。また、死亡したドライバーの呼吸からでは緊張の有無を調べることもできません。
ですから、緊張による自動車事故はほかの原因による事故よりも多くのドライバーが死亡したり、不具になったりする<不法運転>という名の下に埋葬されなければなりません。
(1965年にはドライバーだけでなく5,000人以上の子供が自動卓事故で死亡しました)
そして、この自動車事故の最も悲しむべき要素は、2トン分のトランキライザー代わりに自動車をお使いになるということです。まったく効き目がないことなのに。
それは、あなたの紫張を引き延ばすだけなのです。肉体を使う運動の方がドライブより早く緊張をやわらげてくれます。その効果も長続きします。


長めの散歩をなさってごらんなさい。子どもの自転車を修理してごらんなさい。地下室を掃除してごらんなさい。車を洗ってごらんなさい。芝を刈ってごらんなさい。奥さんと一緒にくつろいでごらんなさい。


これらの運動やその他もろもろの運動の方がドライブよりも効果が高く、しかも効き目が早いのです。なかには、もっと楽しいものもあります。
とにかく、すべてドライブより安全です。
もちろん、あなたが緊張していてドライブを差し控えている時はわれわれモービルとしても、いつもより少な目のガソリンとオイルをお頒けすることにします。ですから、お互いに常に明日があるということになります。
明日も、その次も---


ビルはあなたに生きていていただきたいのです。


これが、運転しているときの本当の、あなたです。



運転している時のあなたが、本当のあなたです。


10分間、ある男の後について走れば、あなたは恐らくその男を雇うか、首にするか、その男と結婚するか、離婚するか、あるいは、そのまま続けるかということについて決定がくだせる筈です。
そして、あなたの後について走っている男についても、同様のことがいえるのです。
運転は私たちの中にある最上のものよりも最悪のものを明らかにするようです。
私たちは親友にさえ言えないような秘密を見知らぬ人に暴露していることに怒るのです。あるいは私たち自身で認めているのです。
それがまず第一の段階ですね?
私たちはキーを入れる前に、自分自身をよく見つめて、もっと良くなれるんだということを認めるべきです。
ドライバーとしてだけではなく、人間として。
私たちは、変質者や精神異常者のことを話しているのではありません。ふだん車にのっている普通の人の話をしているのです。
あなたは、事故の大部分が、今まで事故を起こしたこともなく、ひかえ目なスピードで走っている、慣れたドライバーに起こるということを知るべきです。
事実、死亡者をだした事故のうち3/4以上は、家から10km以内の乾いた良い道路で起こっているのです。
前月この種の事故で、37,000人以上もの死者を出しました。57,000余の多くの死者は、自分勝手なドライバーによって死なされたのでしょうか? それとも無作法なドライバーによって? あるいは、エレベーターやスーパーマーケットの中で人を押しのけたりするドライバーによって?  あるいは、ドアを大きな音をさせて閉めたり、人の顔にたばこの煙を吹きかけるようなドライバーによってでしょうか?
わかりません。実地検証では、平常の礼儀作法のことには一言もふれませんから。


ビルは、あなたに生きていていただきたい。


ハイウェイでの睡魔、居眠りと戦う方法。



ハイウェイ
睡魔
それを覚ます方法


ハイウェイの最悪事態はなにも事件がおきないということ。クルマで走って走って、走り続けているうちに、放心状態に陥っていく。なにも注意する必要がなさそうなのでつい気を許してしまう。
こんな----事故のない時こそ事故は起きやすいのです。
困ったことは、頭をはっきりさせておくのがとても難しいということ。それだけになお頭をはっきりさせておくことは大事ともいえます。17の簡単な方法を以下に。
1. 窓を開けはなして、新鮮な空気を顔に当てる方法。爽快です。
2. 最低2時間に1回、クルマを駐車場に寄せて止まる方法。ただし、ごまかしはダメ。クルマから出て(たとえ雨でもです)クルマの周囲を2、3回まわりましょう。
3. ラジオで嫌いな音楽を聴く方法。オペラ・ファンならロックンロールを。逆ならそのように。それも少しうるさ目にかける。
4. なにかを気に病む方法。交通事故よりはガンの方がいいでしょう。
5. コーヒー沸かしを携帯する方法。クルマを止めても飲めない場合を考えて。
6. 百万ドルの使い道を考える方法。
7. 時々座り直す方法。上下、または前後に。
8. ポテト・チップスかプレッツェルみたいな音のする食べ物を買って、バリバリやる方法
9. 1時間ぐらいスーパー・ハイウェイを外れてわき道をゆく方法。美しい田園風景がひろがっています。それにうまくいけば通行料金を払わなくてすむかもしれない。
10. ちっぽけな料金受取所が集める金額を数えあげて怒る方法。
11. 独立宣言書をどの程度暗誦できるか、大声でやってみる方法。
12. 雨なら、ラジオがコマーシャルを流すたびにワイパーのスピードを変える方法。忙しすぎますか? それでは一度おきに。
13. 前を行くクルマが急停車したり、タイヤがパンクしたらどうするか? 自分のクルマがパンクしたら? と考える方法。役に立ちます。
14. ガソリン・スタンドに寄って、スタンドマンに話しかけてもらう方法。日を覚ましたいんだといって。
15. 棒チョコをポリポリやる方法。ウエストが気にならなければ2本どうぞ。
16. 警笛を鳴らす方法。本気で、時に冗談で。騒音は効き目があります。
17. もう17条ぐらい目覚まし法を考えて、ご自分で試してみなさい。


モービル(住所略)にお知らせ下さってもけっこうです。それをテーマに別の広告を出しますから。モービルがこうした広告を出す理由はいくつかあります。
一つには、みなさんに全国27,000店のモービル・スタンドに立ち寄って、ガソリンやオイルを買ってもらいたいということ。
当社の製品と従業員にはきっとご満足がいくはずです。しかし、いまは、みなさんがガソリンやオイルをお買い上げになろうとなるまいと、とにかくみなさんのお役に立ちたいのです。


ビルはあなたに生きていていただきたい


アメリカ式ルーレットという追い越しの無謀さ。
その死亡率のことを言っています。



アメリカン・ルーレット(米国的賭け)


あなたをアメリカ式ルーレットに引きこむのは、それがとてもポーカー的だからです。
勝ち目を見るまで、やめられない。
あなたが今、40歳なら、あと人生はまだ31年あります。 31年というのは1,600万分にあたります。
だから、1分の勝ちをとるために、あなたの命をかけるとすると、あなたは実際には、1,600万に一つの勝ち目を待っていることになるのです。
お金を張ったら、そんな賭けをするでしょうか?
もちろん、アメリカ式ルーレットにはここで1分、あそこで1分というほかに、おいしいこともあるでしょう。
下にその特典を2、3あげてみました。得られるものと失うものとを比べてみてください。そうすれば、この魅力あるゲームが実際にはどんなものであるかがおわかりになるでしょう。


賭け 得点 負け
いちゃつきながら運転 スリルは増大 命がけ
飲酒運転 気持リラックス 命がけ
眠いまま運転 男らしさ証明 命がけ
信号待ちの後
真先にとび出す
勝利感 命がけ
センター・ラインを
はみ出ての追い越し
道路の王様気分 命がけ
坊主タイヤで
あと1ヶ月走行
得るものなし 命がけ


さあ、このゲームを続ける理由が見つかりましたか? これは、あなたがせっかく得たものをとっておくことすらできないゲームなんですよ。あなたは一度その賭けにノックアウトされた瞬間、たった一つのものを永遠に失わなければならないのです。
あなたにギャンブルの習慣があることと、私たちのビジネスとは無縁ともいえましょう。しかし、モービルでは、あなたに生きていていただくためにガソリンとオイルをお売りしているのです。そして、アメリカン・ルーレットのような良くないもののためにお客さまがいなくなるのを、ただと立って見ているというのは難しいことです。少なくとも、そのゲームを壊そうともしないで、はね。

ビル  あなたに生きていていただきたい。 


運転中に子供を黙らす8つの方法。
ずっと8つ挙げているんです。


運転中に子どもの口をふさぐ、八つの安あがり法


子どもづれの運転は、そっちに気をとられがちです。
ひどいときには溝に落っこちたり、木やほかの車につっこんだりします。
対策を講ずるなら出発前です。出発してからでは手遅れです。
以下は簡単にできる8つの方法です-----


(1) 出発前に10セント・ストアーへ行って手軽なおもちゃ、絵本、マジック板、ゲームかパズルなどを買ってきます。それを別々に包んで順々に渡してやるんですね。
(2) いちばん大きい子をナビゲーターに仕立てるんです。いっしょに地図をあたったり、ルートをマークさせたり、道路標識や町名、川やおもしろそうなところを確認させましょう(あなたが方向オンチなら、とくに上策ですね)。
(3) 旅行のスクラップ・ブック係に子どもを任命しなさい。車を停めたら絵はがき、マッチ、メニュー、そのほか記念になるものを集めさせましょう。車に帰ってきた子どもたちに、それらをスクラップブックに整理させるのです。
(4) 「ガタン数え」というゲームをさせます。子どもたちに目をつむらせ、車が穴ぼこにガタンとおちる回数を勘定させるんです。(声を出して数えたら反則。口の中で勘定することと決めておきましょう)。
(5) 「ガタン数え」にあきたら、ほかのものを数えさせましょう。なんだってかまいません。赤い車、青いの、パトカー、乗用車、女性が運転しているの---。適当にみつけてやらせるんですね。
(6) バスケットを持っていく法。靴の箱でもいいでしょう。中は糸巻き、ひも、虫めがね、パイプそうじやなんか、がらくたをつめておくんです。遊び方は、子どものほうで勝手に考えだしてくれますよ。
(7) 後部席に仮眠用のべットをつくってやりましょう。スーツケースを床に置いてシートと同じ高さにすれば、簡単につくれます。ともあれいつも使っている毛布とまくらだけは忘れないこと。
(8) だんまりっこ競争。だれがいちばん長く黙ってられるかを競います。


ほかに妙案がありましたら、教えてください。
(子どもを家に残しておくというのはダメ)ニューヨーク市42丁目東150番地、モービルあてに送ってください。つぎの広告で紹介させていただきましょう。
話はかわりますが、私たち、モービルの本業は、ガソリンとオイルを売ること。しかも今後ともずっとそうであるつもりです。
私たちが、あなたのお子さんにガソリンやオイルをお売りするようになるまで。


ビルは、あなたに生きていただきたい。


スリップしても助かったことを人に話すには---。


スリップ(スキッド)しながら、生き残って体験談を語るには---


サア大変 危機一髪!
この写其のようにクルマをころがしている時危いことになったら、切り抜ける方策はこう。
(1) ブレーキから足を離す。
(2) アクセルから足を離す。ただしゆっくりと。
(3) さて、次が肝心なところ。ハンドルを少し右に切る。つまり、クルマがスリップする前に向かっていた方向に切るのです。
ア、ダメダメ。少し切りすぎです。ほんの気持半分で十分。それくらい。さあクルマは元の状態に戻りかけています。
でもこんどは反対側にカーブしかけた。大丈夫。気を楽に。クルマを行きたい方向に戻しなさい。
まったく理屈通りのことです。
スリップしている間はクルマのハンドルを行きたい方向に切っていればよいのです。しかし、ゆっくりと。
とかく急激な動作は悪い結果を招きます。
以上の事さえ知っていれば、どんな危険に出会っても大丈夫かというと、残念ながらそうではありません。
ただ、苦境を脱することはできます。スリップだけで済み、それから起きる事故には見まわれずに済みます。
さあ、もう一度やってみて、身体を使って、まわりを気にしないで今すぐに。気が狂っていると思われたってかまいません。
(1) ブレーキから足を離す。
(2) アクセルから足を離す。
(3) 目的の方向にクルマのハンドルを切る。ゆっくりと。この辺のカンをよく呑みこむこと。もし、クルマの車首が左に曲りかけたら、ハンドルを心持ち右に切る。逆も同じ。これをクルマが元に戻るまで続けます。
モービル社がお願いしたのは、どうか天気の悪い日に、先ず、スリップしないように気をつけて運転して下さいということです。
しかし、クルマはスリップするもの、それならスリップを無事に切リ抜ける方法を心得ておくことです。
当社の製品を試す機会がなければ、永遠にその優秀性は分らず終わりになってしまうでしょうから。


ビル あなたに生きていていただきたい


死が2人を分かつまで、引き裂くまで。
つづいて、コマーシャルが入ります。


死が2人を引き裂くまで


詩の中でなら、愛のために死ぬのは美しいことかも知れません。
しかし、車の中で愛のために死ぬのは、醜く愚かしいことなのです。
それなのに、車に乗ること自体にではなく、車の中での恋に夢中になっているカップルを、あなたはどれだけ多く見てきたことか? あるいはあなた自身が恋を楽しんできたことか? 死と肩を並べている生活に馴れっこになってしまったからでしょうか?
私たちは、若者を鋼鉄の山の中に埋葬することを暗黙のうちに認めている国民なのです。しかも、向こう見ずな若者だけでなく、純粋無垢な子どもたちまで。
だれもがこの事実に驚くばかりで、どうしていいか分からないでいるのです、しかも信じる信じないはともかく、15歳から25歳までの若者の死の筆頭は、自動車事故だというのに。
親たちは心配して、強引に車のキーを採り上げます。保険会社も警戒し、高い保険料率を設定します。運転者のだれひとりとして思い止どまらせることができないのです。
(冷静な心をもった)統計学者でさえ、1970年には、毎年14,450人の若者が車の中で死んでいくという数字を明らかにして警告を発しています。
もし、 毎年14,450人にのぼる若者が交通事故で死んでいくとしたら、これはベトナムでの若い犠牲者数をはるかに上回ることになるのです。
私たちが国に納めている税金は、小児マヒ一掃のためだけにしか使われていないということなのでしょう?
あるいはジフテリア天然痘を根絶するための医学のためだけに?
ハイウェイでの若い犠牲者を出さない社会とは、いったいどんなものなのでしょうか?
これこそ現在の米国がかかえている大きな問題なのです。
信じられないことですが。
若者はベスト・ドライバーであるべきです。悪質ドライバーではなく。
彼らは、鋭い視覚、すばやい反射神経をもち、細かく神経を配れるのです。多分、車の性能にも、より精通してるはずです。
だからなんだというのです。
彼らは大パカ者で勉強できないというのですか? 利口すぎて、分かりきったルールに従うことなどできないというのですか? 自信過剰になるのでしょうか? なさすぎるのでしょうか? あるいは、単に未熟な若者だからなのでしょうか?
手遅れの事態を招く前に、思慮分別をわきまえた若者になってもらうにはどうすればいいのでしょうか?
よりよい運転者になってもらうために、学校に講座を設けてみっちりと教育するというのも一つの方法です。放課後でも、作業が終わってからでも、夏休みでもいいのです。
免許交付をきびしくする。悪質な運転者を罰するかわりに優良な運転者を表彰する。交通法規を全国統一する(現在は州によって異なっています)、ラジオ、テレビ、新聞を通じて交通問題をとりあげさる。独りよがりを少なくする。
以上は、私たちが提案するさほど厳しくない解決策の一例です。
若者に運転を止めさせることはできませんし、そうすべきでもありません。
安全運転技術を身につけた運転者という仮定の上に立って彼らを教えれば、それだけで彼らはそうなろうとするのです(この教え方は医学や法学に用いられているのに、なぜ、運転者教育には適用しないのでしょうか)。
私たちモービルは、宣教師でも教師でもありません。私たちは生活に必要なガソリンとオイルを売っています。私たちは、あなたに可能性あるお客さまになっていただきたいのです。
今日のお客さまではなく、あすのお客さまに---。
私たちは、若者からお年寄りまですべての方々に、万人平等に与えられた明日を自分のものにしていただきたいだけなのです。


ビル あなたに生きていていただきたい。


私たちは、ガソリンとオイルを売るのが商売で、恋に反対しているのではありませんが、ドライブのときには同時になさらないでください。

私たちは、あなたに生きていていただきたいのです。


この一連は、もっともっとあるんですが、
きょうは10個ほどしかもってきていません。


親友に警視総監をやったのがいまして。
警視総監から宮内庁長官になったんですが、
そのあと、交通安全協会の会長になりました。


アメリカではこの新聞広告を無料で載っけたいという地方紙もあれば、
コマーシャルをタダで流したいというテレビ局も出てきたわけです。


そういうことがアメリカではあったから、
いま挙げたのをもうちょっと増やすから、
日本の交通安全協会の偉いさんなり誰かに、
あるいは警視庁の交通課の人なりに、あなたから、
言ってくれないか。
そういう言い方でCDを渡したんです。


そしたら電話があって、
「chuukyuu君、あれは駄目だよ」と言うんです。
「何で」
「あれは交通安全になっておらんよ。
大体、ビルから落とすなんていうのは非常識だよ」
はー、そうかなと。
それで引き下がりましたけどね。


日本の交通安全というのは
歩行者をどう守るかだけのことなんですね。
車を持っている人間をどうやって事故なく
命を永らえさすかを考えていないんです。
交通安全の発想がまったく違うということが、
分かりましてね。


発想が違うんですね。40年前、アメリカは車社会だったんです。
日本もいまはもう車社会になっているのに、警察は相変わらず
黄色い旗をやるしか考えておらんのです。


車の事故による死亡者や負傷者のほうが多いんではないかと、
思うんですけども。



>>明日に続く