創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(598)東京コピーライターズクラブ・ハウスでのスピーチ(8)

【4月16日分の前書きを再録】


2009年10月20日に開かれた、西尾忠久さんを囲む会。
DDBの黄金期をリアルタイムで体験した世代の方から、
いまなお色あせないクリエイティブ作法を学ぼうという若手の方まで、
たくさんの人で会場はにぎわいました。
梶原正弘さんを聞き手として、クリエイティブの枠を超えて、
広告ビジネスについて実に多くのことを西尾さんは語られました。
その模様をご報告します。
まずはじめに、おすすめの本と、これからのコピーライターに
求められることについて…。



広告表現のタブーを次々と破っていったソニーの広告


ソニーです。
サン・ラバー、太陽の好きな、
日光の好きな人のためのテレビですって。


日光愛好家たちのソニー


真っ青に晴れた日に、テレビを見ながら屋内にじっとしているのがお嫌いなら、私たちはあなたにぴったりのセットをお届けします。ピーかんの日、オールー・トランジスタソニーSun Setを持って出て、戸外でテレビを観ましょう。
秘密はスクリーンです。従来の白いスクリーンに替え、Sun Setは、ギラギラと眩しい光を遮断する特殊なブラック・スクリーンなのです。 つまり、陽の下でも画面の鮮度が落ちません。そして、AC電源と同様な働きをする充電可能な電池で、陽が落ちた(sun set)後の戸外でも楽しめるのです。The Sun Set


C/W Evan Stark
A/D Frank Camaddella


この広告の掲載を『ニューヨーク・タイムス』が拒否したんです。
いまから42年前ですから、
当時はこれくらいの裸でもいかんということだったのです。
おっぱいが出ているというから、
修整したらしいのですが、やはり「ノー」。


乳房はおろか、ヘアまで「O.K.」の
いまの人には想像もつかないでしょう。


制作された広告に「ノー」をいうのは、
アカウント・エグゼクティブやクライアントばかりとはかぎりません。
メディアも「ノー」という権限をもっている。


『ニューヨーカー』が載っけたんです。
それをスクラップして持っていたから
こうしてお目にかけられ、歴史的な証言が出せる。


ソニー側は、もちろん、
"client loved the ad."と『DDBニュース』は
書いています。


参照『エロス』誌裁判をめぐる、ハーブ・ルバーリン氏とのインタヴュー ←クリック


これも刑務所の中で見る、塀の内側の人のテレビ。


塀の内側の人のためのサン・セット


外へ出ることを許されない人たちでも、サン・セットを愛することはできます。ブラック・スクーンは、屋外・屋内を問わず、同じようなシャープなコントラストを見せてくれます。黒はより黒く、白はより白い。交流(電灯線)でも直流(充電可能バッテリー)でも、同じように見ることができます。ですから、お出かけのときは、どこでもサン・セットをお持ちになれます。もちろん、あなたのサン・セットであることを確かめた上でのことにしてくださいね。ソニー


"The NEWYORKER" 1968.03.02


ヌードにしても、この画面も絶対に日本じゃ通らないですね。
いわゆるタブーを全部壊している。
よくまあアメリカのソニーがオーケーしたなと。
これは盛田さんがDDBを選んでいますから。
だから下は文句言えないわけ。
当時アメリカに行っていたソニーの盛田副社長を
ワーゲンのデストリビューターの誰かが紹介して
バーンバックさんとランチで会わせたんです。


盛田さんもDDBの広告を見ていますから、
「うちのやってもらえますか?」と聞いたら、
バーンバックさんが、
「いや、お宅の予算はうちの基準に合いませんから」。
うちの基準より広告費がうんと低いと。
だけども社へ帰ってやりたい者がおるか聞いてみますと、
シローイッツとローゼンフェルドが手を挙げたんです。
変わったテレビだからと。
「膝っこテレビ」というのがある。



ちびっこティーヴィー


おひざへおいで、ソニー坊や。4インチちびっこソニーティー・ヴィー---別の呼び名・ちびっこティー・ヴィーとして知られています(たったの6ポンドだから、ひざに乗っけて長く観ていても、ひざがしびれることはありません)。ひざに乗っけて観る人のためには、充電用のバッテリー・パックが用意されています。非歪ブラウン管と回転式アンテナのおかげで、ロッキング・チェアに座って観ても画像が乱れません。ちゃんと座って観る時にはAC電源に。しかも深夜番組になってきたら、ベッドのナイト・テーブルへ置いて観られるのもすてきな点です。4インチ・ソニー・テレビ


ローゼンフェルド氏に昼飯をおごってもらったとき、
シローイッツ氏もいっしょにきました。
そこでローゼンフェルドが訴えました。
「へッドラインは、
Pee Wee Nee Tee Vee
だった。
chuukyuはコピーライターだからわかるだろう?」
シローイッツ氏が一言のもとに、
「Nee がなくっても、写真みりゃあ、わかるじゃん」


真夜中の、つまり鬼婆、魔女ばっかりのための、
深夜族のためのテレビ。


夜行族のための"サンセット"


サン・セット(TVセット)は、太陽の光が降りそそぐ昼間のためだけのものではありません。月の光のやわらかい夜のためのものでもあるのです。ブラック・スクリーンは、黒はより黒らしく、白はより白らしく、いかなる光線のもとでもシャープな映像をつくりだします。それに、電灯線、充電可能なバッテリー両用なので、夜、部屋の中にすわってテレビを見なくてもよいのです。屋外に出て、”サン・セット”をご覧になれます。 ソニー


C/W ペギー・コートネイ
A/D フランク・カマーデラ


ドライブイン・シアター。
セックスの場所。




ドライヴ・イン テレビ


キス・シーンを観るもよし、演ずるもよし、5インチ・ソニーは車内をほどよい明るさにします。充電可能なバッテリーも利用でき、走らないで抱きあってばかりいるドライバーのためにはAC電源プラグもあります。で、映像は? だいじょうぶ。寿命が永く非帯熱のソニートランジスタ24石と43インチのアンテナと非歪ブラウン管のおかげで、すばらしく鮮明に受像します。警官にライトで照らされてもだいじょうぶ。それより、つぎの点を考えてください。テレビに堪能したら、グラブ・コンパートメントに入れてしまえばいいって点を---。
5インチ どこででも ソニーテレビ


中年男とおばさんだったら、まあやってもいいんじゃないかと。


行儀が悪いってこう言われそう。



ソニー・サイド・ショウ


私たちの5インチTVは、横にしてもひっくり返しても、観たいとおもう方向に向けて観ることができるんです(どんなふうにして観ても画像は鮮明)。ソニーのソリッド・ステート回路のおかげでテレビをどんなふうに置いても画面はゆれません(ただ、修理店で背中を見せてうつ伏せになっているソニー---なんて図は、めったにありませんよ)。AC電源プラグと嵌め込み式のバッテリー・パックの両用。非帯熱トランジスタ24石と非歪ブラウン管のおかげて、どんな位置でも完全な画面を観ることができるのです。ここにこのテレビの美点があります。1日中、何もしないであおむけに寝ているのに飽きたら、小さなソニーを横にして観ては---。5インチどんな向きでも観られるソニーTV


ローゼンフェルドという非常に音感の
発達しているコピーライターがDDBにいましてね。
彼の英文というのはすごいとみんなが言うんです。
シローイッツというアートディレクターがときどき
組んでやっているんです、
これもそう



たとえ好きな人といっしょの場合でも
孤独になりたいと思う時が、人生には、あるものです。


そういう時のために、ソニー・パーソナル・テレビを2台ほど用意しておいてください。
スクリーンはちょうど1人で見るのによい大きさ。1人でも2人でもおのおの自分だけ楽しさを味わせてくれるのはイヤホーン。
また、避暑先のキャンプで、あなたのお気に入りの番組が、他の人の見たい番組とぶつかるようだったら、すぐ充電ができるバッテリーをご用意ください。画面が光らないように工夫された黒いスクリーンのことは、いまさら申しあげるまでもないでしょう。
ソニー500-Uテレビ。どこのご家庭にも2台は備えていただきたいものです。
ソニー・パーソナル・テレビ


"The NEWYORKER" 1968.06.08



はい、ファミリー・サイズのソニー登場


ソニーの前にみんなが集まって、いっしょにテレビの深夜番組が観られるようになりました。
家族全員で見るのに最適な大きさのポータブル・テレビが登場したからです。
画面は対角線が11インチと大きいのです。
でも、どこへでも片手で下げていって観られる大きさです。室内なら差し込み口のある場所へ。ご希望なら、再充電できるバッテリー・パックが別売りでありますから、裏庭でもご覧になれます。
そう、ハンモックに寝たままで球技を観戦するとか、子どもたちなら新鮮な大気の中でアニメ番組を楽しむとか。
サングラス・フィルターが、鮮明な画像を約束しています。
それほど大きくはない、と思われるかも知れませんが、市販されているポータブル・テレビの中ではもっとも大きなものであることは確かです。
残念ながら、コマーシャルも例にもれず大きく映ってしまいますが---。 ま、世の中に完ペキなものなんてあるはずないでしょう?
110U-TV 最新・最大の小型テレビ


"The NEWYORKER" 1969.06.14


>>明日に続く