創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(580)ハーベイ・プロバーの椅子


[ニューヨーカー・アーカイブ]より




ハーベイ・プロバーの椅子がガタガタするようなら、お宅の床のほうを削ってください。


マサチューセッツのフォールリバーの工場でつくっているハーベイ・プロバーの家具はすべて、テスト台に乗せて水10年間変わることなく平かどうかを確かめます。もし、あなたもお求めになったのなら、正しくこの合格品です。このために、プロバー氏はたくさんの家具をムダにしているんです。プロバー氏の家具は、サテンのように光るまで磨かれます。人間の手と呼ばれる5本の指をもったすばらしい機械で仕上げられるのです。こうした仕上げっぷりは、つくるには時間をくうけれど、使うには長もちします。ごらんの魅力的な椅子は、14本もの合わせ釘や2ヤードもの布を使わなくても、そしてもっと薄い木材なんかでもつくられましょうが、ハーベイ・プロバーは知っています。もちろん、2,3年もたたないうちに、あなたも思い知らされるでしょうが。




If your Harvey Probber chair wobbles, straighten your floor.


Every piece of furniture Harvey Probber makes at Fall River, Mass., is placed on a test platform to make sure it's on the level. If you get it, it is. Mr. Probber loses a lot of furniture this way.
Mr. Probber's furniture hasan almost luminoussatinfinish.ltis produced by a unique machine that has 5 fingers and is called the human hand. ---Ibis luminous finish takes a long time to achieve, but it lasts a long time.
The lovely chair above could be made with 14 less dowels, 2 yards less webbing, thinner woods and so forth. You wouldn't know the difference, but Harvey Probber would. Of course, in a few years you would know too.


10年間変わることなく、ハーベイ・プロパーは、シェイズ・ラウンドをご紹介します。


さあ、おかけください。スラヤさん、メイ・リンさん、イゾルデさんにお会わせしたいのです。シェイズ・ラウンドは、ニュージャージーのモンクールやイリノイのオーク・パークのように、世界中からお客さまをひき寄せます。直径5フィート、クッションはすばらしく、脚は黒檀で先に真鍮がはめてあり、お話は尽きません。この10年間というもの、ハーベイ・プロパーは、毎年はなばなしくシェイズ・ラウンドをご紹介してきました。オリジナル・デザインほど、いつも新鮮なものはありません。ときに、話はかわりますが、シェイズ・ラウンドがどのくらい長もちするのか、だれにもわかりません。第1号がまだ快適にすわれるのです。プロパー氏のソファ・テーブル、椅子。キャビネット類も同様です。


「ニューヨーカー」 1961年10月21日号




For the tenth year in a row, Harvey Probber introduce. the Chaise Round.


(Do sit down. I'd like you to meet Isolde. Mei-ling. And Suraya.) The Chaise Round attracts visitors from the ends of the earth, as well as Montclair, N.J. and Oak Park, Ill. It is five feet in diameter; the cushioning is delectable, the legs are brass-tipped ebony, the conversations, endless. Each year. for the past ten, Harevey Probber has introduced the Chaise Round to great eclat; nothing stays as fresh as original design. Incidentally. no one knows how long a Chaise Round lasts. The first one
made is still sitting pretty. Ditto for Mr. Probber's sofas. Tables. Chairs. And cabinets.


"The New Yorker" Octobet 21st, 1961


2100ドル? たいしたご婦人だね。


モジリアIの折板箱を開けた運搬人の話をお開きになるとよかった。ほんとに・・・。この低価格のプロパーのテーブルは、40×80インチのローズウッドを合わせた厚板でできています。2枚の16インチの薄板その他を入れてありますが、木目は完全に合っています。ちょっと見たのでは、合わせたものだということはわかりません。木をサテンのように光らせるのに、ハーベイ・ブロバーは、人間の手と呼ばれるすぼらしい機械で、ヤスリをかけたり、ゴシゴシ洗ったり、こすったり、10日間もやります。このテープルの台は裏鉄真鍮とマホガニー、背が籐張りの脇椅子は黒檀仕上げのマホガニー。布張りの主椅子は純マホガニー、そして値札は紙。壁にそえるキャビネット、ブレイクフロント、タンスも揃いでおります。すべてすばらしい出来なので、あなたは、お孫さんの代まで傷つかずに残せるほどです。もっとも、彼らは現金のほうを選ぶでしょうがね。


【解説】拙編著『アンチ・マジソン街の広告代理店PKL』(ブレーン別冊 誠文堂新光社 1967年7月20日)より


過去15年間にわたって、非常に独創的なデザインの家具を製作・販売していたプロバー氏の名前は、この業界の人びとにとっては相当におなじみのものではありましたが、プロパー社は、業界誌に小さな製品広告を載せているにすぎませんでした。
それらの小広告について、同社の取締役副社長であるR・ヤング氏は語っています。
「これらの小広告は、インパクトももっていなかったし、私たちの少ない予算から最大の効果を得るために必要とした支えの力ももっていなかった。そして私たちは、よく見かける俗っぽいタイプの家具広告から抜けだしたいと望んでいた。私たちの目的は、ハーベイ・プロパーの家具の、品質とスタイリング、それに飽きがこないということを確立することにあった。私たちは、家具業界を支配し性格づけている重苦しい広告はもうたくさんだと思っていた」
ヤング氏は。広告を変えようと考えたとき、「ありきたりでないアイデアをもった、小さくて非常に活気のあるグルーブを長いあいださがして」ようやく、PKLをみつけたといいます。


一方、PKLのほうでは、アカウント・スーパパイザーのカール・アリー氏とAEのJ・カーナット氏が、プロパー社の家具はおもしろいコピー・ポイントをもっていると考えました。カーナット氏の言葉を借りれば、「ハーベイ・プロパーを薄暗がりの中から前面に連れだす」ことに決定したのです。
プロバ-社のキャンべーンを引きうけるにあたって、PKLは、小さな製品広告をやめて、その予算をもっと回数は少なくてもよいから目立つ広告に集中するように示唆しました。
「なぜなら、プロパー家具は室内装飾家だけに売れればよいからである。私たちはホーム・デコレイターたちを教育したかったのだ」
とカーナット氏は説明しています。
「私たちは、ホ−ム・デコレイターたちに、ハーベイ・プロパーとは何者か、どこにいるのか、何をするのかということを知ってほしかったのだ。私たちは、ホーム・デコレイターたちがお客に家具をすすめるときに、彼の心に、まっ先にハーベイ・プロパーの名が浮かぶようにしたかったのだ」
さて、こうして創造されたブロバーの家具のキャンペーンは、効果があったでしょうか。


「私たちが、この広告計画に着手して以来、私たちのショールームへの客の出入りが明らかに増加している」とハーベイ・プロバー社長は認めています。確かに、全米9都市にあるハーベイ・プロパーのショールームにはかつてなかったほどの数の人びとが足を運んだのです。
そしてまた、広告の最下部に小さな活字で出ている「ハーベイ・デザイン・ブック」に、新しいキャンヘーン以来、それ以前にまして多くの反応があるといいます。
しかし、プロパーのキャンペーンの成功は、知識過剰のウルサ型の多い室内装飾界をかきまわし、「すぐれた家具広告は、必ずしも退屈なものではないということがよくわかった」と、このキャンペーンを見たあとで、しみじみ告白した友人である家具会社の幹部の言葉に要約されると思います。