創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(531)ジャック・ディロン氏、小説とコピー作法を語る(1)

小説と広告コピーの作法の違い

(『DDBニュース』1969年2月号から許可を得て拙訳・編『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 1979.11.10に収録))


DDB 副社長兼コピー・スーパバイザー ジャック・ディロン


「幾つかの小説と、多くの短編を出版なさっていますが、広告の仕事を始める前は、小説家だったのですか?」


ディロン「出版する作家ではありませんでした。違います。15歳の時から短編を書いていますが、33歳になるまで、一つも売りませんでした。小説書きは、完全に副業でした」


「小説を書くことと、コピーを書くことと、どちらがむずかしいでしょう?」


ディロン「小説を書くほうが、コピーを書くよりむずかしいですね。小説を書くということは、見せかけですから。
ほかの人々が読みたいと思うような人間を設定し、話をつくり上げなければならないのですから。筋書きを工夫し、その話を面白くする方法を考え、すてきな結末へ導かなければならないのです。探偵小説のように定石のあるものを書こうというのでなければ、これは、大変きつい仕事です。

コピーを書くのは、ずっと簡単です。というのは、どういうやり方でやるとしても、自分がどこへ行こうとしているのか、それだけは、わかっていますからね。

筋書きは、クライアントが、読者に印象づけたいと望んでいる商品です。どういうふうに書くかは、自分の責任としても、少なくとも、仕事の中の一つは自分の手を、わずらわさなくて済むのです」


「小説を書くということが、コピーライターとしてのあなたに、影響を与えたものは?」


ディロン「まず覚えておかなければならないのは、二つとも、大変種類の異なった、書きものであるということです。長い間、コピー・ライティングのモデルは、VWのコピーだと考えられていました。型の決まったものとして……。
コピーは、1ページの3分の1のスペースに、非常に効果的に入れられています。しかし、VWのコピーが200ページも続いたら、読み手は窮地に追い込まれてしまうでしょう。

共通点もありますね。たとえば、短い文、短い文節を使えば、読みやすくなります。
そして読む前から魅力的な感じを与えます。というのは、未亡人(日本でいうクワタ。文節の終わりの余白)が、読みやすそうだという印象を与えるからです」


「コピーを書くことは、小説を書くことに影響を与えましたか?」


ディロン「ええ、コピーを書くせいで、私の小説は、ずっと引きしまったものになりました。前に、一人称で、西部劇を書いたことがあります。出版社は、長すぎるといい、そして長い小説は、彼の利益にくい込んでくるから刈り込むつもりだといいました。本が出てから、彼に、どのくらい力ットしたのかと尋ねたところ、6語、と答えました。
『さあて』という言葉でした。登場人物の一人がいつも『さあて』で話を始めていたのです」


新しみを加える広告文の中の独白


「あなたのコピーが簡潔に見えない時は……?」


ディロン「会社が、計算機ではなく人間の手によって経営されているという事実を消賞者に納得してもらうために、私は時として、広告主の親しみやすい独白を用います。VWもやっていますね。すごく上手に。
でも彼らの専売ではありませんよね。
私もアメリカン航空の広告で時々やりました。
アメリカン航空は、それにぴったりのクライアントでした。
彼らが、異議を申し立ててきたのは、私たちが、前置詞で、文を終わらせた時でした。
コピーを提出したら、『文を前置詞で終わらせないように』という注意書きが添えられて返されてきました。
そこで、私たちは、前置詞で文を終わらせてもおかしくないということを証明するのにファウラーから切ったページを送りました。
すると、再び『それはそれとして、文章は、前置詞で終わってはいけないのだ』といってきました。
この2、3年間、ずっとこのことで論争してきました。
しかし、最後には、彼らを、打ち負かすことができると、考えています」

サクソン氏のマンガ・イラストを起用したアメリカン航空のシリーズ


わが社のスチュワーデスは盗まれっぱなしです。


わが社のほとんどのスチュワーデスは、2年とたたないうちに、辞めて、ほかの男性のもとに走って行ってしまうのです。
驚くほうがどうかしているんですね、きっと。だって、5時間半もほほえみを浮かべていられる若い女性なんて、そうザラにはいませんからね。
申し上げるまでもないことですが、124人もの人たちが夕食に何を食べたがっているかを覚えていられる細君をみつけることもね(その上、お望みとあれば、気象現況やジェット機のことについてもお話しできるんですよ、彼女は---)。
でも、私たちが問題にしているのは、 こういったことではありません。問題はどういう女性を私たちが雇っているか、です。美人というだけではダメなんです。いいえ、それが重要じゃないと申し上げるわけじゃありませんよ。ただ美人というだけでは十分じゃないってことなんです。
つまり、私たちが求めているのは、そう、親しみのある女性です。
彼女たちはすべての乗客に親しくしすぎる、とおっしゃるあなたのほうがムリというものです。
ご自分だけ---をお望みなら、スチュワーデス養成所時代の彼女をおさらいになるんですね。


A/D Bob Gage
The New Yorker, May 22, 1965

明日につづく

ジャック・ディロン氏とのインタビュー
(1234567了)




from "DDB NEWS" Februry issue,1969