創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(533)ジャック・ディロン氏、小説とコピー作法を語る(了)

                  DDB 副社長兼コピー・スーパバイザー ジャツク・ディロン

(『DDBニュース』1969年2月号から許可を得て拙訳・編『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 1979.11.10に収録))



広告人の仕事は、商品・サービスを売ること


「本質的には、まず自分の構想を紙に書いて、それから、文体などに手を入れるわけです
ね」


ディロン「そうですねぇ、私は、前もって、話の構想を練るようなことはしません。
その登場人物が、行こうとするままに、進みます。そして途中、真ん中へんでどう進むべきかを考えます。

小説の場合、文体は自然に決まります。
けれども、コピーの場合は、そうですね。
非論理的に書かれていても、省略できない、すばらしいコピーを書くことができます。
また大変論理的に書かれてはいるけれども、どうしようもない部分もあれば、省略してしまえるようなコピーもあります」


VWドイツ本社のノルトホフ社長(当時)から、ビートルが生産500万台に達したことを『ライフ』誌の米国内版および国際版で伝える広告を依頼されて、A/Dヘルムート・クローン氏と創った広告だが、これでおもわぬトラブルが出来した。詳しくは、クリックVWの広告(86,87)




5,000,000台目のフォルクスワーゲンをご覧に入れようと思ったのですが---売れてしまったのです。


申しわけありません。
ある方が、まんまとその車をさらってしまわれたのです。
(でも、それが何に似ていたか、あなたならご存じでしょう、そう、かぶと虫に似ていました。)
5,000,000という数字は、私たちの地味な車にしてはたいへんなものだとお思いになるかも知れません。
しかし、VWの理想とするところはすべて、地味さの中で完ぺきにするところにあるのです。
私たちは、車から除けるものはとり除き、その代わりさらに良質のものを加えるようにしてきました。この数年のうち、私たちはフェル・ゲージまでとり除きました。
一方では、最高のサスペンションとトランスミッションをつけました。
またあなたは、VWエンジンについてご存じでしたね、グラン・プリ・レースでは、あなたは1日中いちばんビリで走ることになるかも知れません。その代わり、修理店に入るのも、いちばんあとでしょう。
このおかしな格好の車が、すっかり姿を消してしまったら、そのときこそ、VW1500が登場するんだね、と質問なさる方が、まだいらっしゃいます。
ノーです。
これは、世界で3番めによく売れている車なのです。


A/D Helmut Krone


「小説とコピーを書くにあたって、その方法は別として、各々の仕事に対する姿勢に違いはありますか?」


ディロン「はい。広告の仕事をしている私たちは、クライアントの提案を人々に伝えるのを助ける広告やコマーシャルを書くために、DDBにいるのです。
クライアントはその提案を、人々に伝えるために費用をかけているのです。

私たちの仕事は、その提案・主張が、公衆からできるだけよい反応を得るために、私たちに可能なかぎりの芸術性を与えることなのです。
公衆からの最大の反応を獲得するためのキー・ワードが存在すると私は思います。
私たちがDDBにいるのは、芸術家、あるいは作家としているのではありません。
私たちは、広告人としてDDBにいるのです。
自分たちの才能---もしあなたの気に入るのなら、アート---をビジネス・プロポジショのために使うのです。
人がそれを見て、笑ったりそれについて話したりする芸術作品だけをつくるのは、私たちの仕事ではないのです。
私たちの仕事は、クライアントの商品、サービスを売れるようにすることなのです。

私たちには「わが道を行く」画家や作家、作曲家の持っている自由はないのです」


広告主に対して大衆の代表となれ


「広告人は、クライアント志向になるべきだとお考えですか?」


ディロン「そうではありません。広告をもう少し読者向けに、そしてもう少し、クライアント向けでないよ5にしようと、私たちは努力しています。
私たちは公衆に対してクライアントの代表となり、どちらかといえばクライアントに対して公衆の代表となるのが仕事だと思います。

言い換えれば、クライアントに、公衆は何に対して反応するのかを告げるのです。
クライアントには、それを理解するのがチョットむずかしいという時もあるのです。
なぜなら商品を変えるということは、それがホンの些細な変化でも、クライアントにとっては重大なことなのです。

世間が、その変化について、何か教えられるのを、待ち望んでいるとはかぎらないのですから。
 
コピーを売るためのライターの市場、つまりクライアントは、ライター自身のために書くことには、関心を持ってはいません。
彼の仕事は一輪手押車を売ることなのです。

広告を書くことの強みは、その広告のできがよい悪いかを見るのに、1年も2年も待たずにすむことです。
一冊の本を書くのに15ヶ月も費やして、そのあげくに、その出来がまずかったなどと考えてもみてください。
それに、クライアントが、コピーを書き直すように要求しても、それほど傷つかずにすみますからね」(了)

ジャック・ディロン氏とのインタビュー
(1234567了)