創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(531)ジャック・ディロン氏、小説とコピー作法を語る(2)

               DDB 副社長兼コピー・スーパバイザー ジャック・ディロン

(『DDBニュース』1969年2月号から許可を得て拙訳・編『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 1979.11.10に収録))


1時間で広告をつくるコツ


「DDBの前は、どこで?」


ディロン「10年と半年、フラー・スミス&ロスにいました。そこは、クリエイティブな代理店ではありませんでした。
しかし、コピーのルールとその書き方に関しては、たくさんのことを学びました。
1時間のうちに広告原稿が必要だといわれた時に、間に合わせる多くの方法も含めて。

そんな時には本を使うんですよ」


「1時間で広告を一つですか? 使うって、どんな本を---?」


ディロン「コピーの書き方の基本的ルールは、もう10冊以上も書かれていますよ。それらは今でも正しいものなのです。
消費者に利便を与えてその注意を引け---。


コピーの冒頭でその利便を繰り返して、それを少し発展させ、その利便が、どうしたら現われるかを説明するのです。
もし時間があれば、この利便なしだと消費者が受けなければならない損失をあげ、その利便を繰り返し、購入をうながすのです。
これは、ごくごくありふれたやり方であって、これから離れることもよくあります。


しかし、こういう物があるということを知っているのは大変よいことなのです。
そのルールがどんなものであるのか、投げ捨てる前に、わかっていなければなりません」


ユーモアの使い方


「それはコピーのルールですね。あなたは、この条件を満たす時にどういうやり方でやるのですか?」


ディロン「ある広告を一つ書くために机の前にすわっても、どこから始めてよいのか、まるでわからない時には、まず、10から15のへッドライン・アプローチを、それを私の頭の中から追い払うか、または、その中の一つが当面の問題に使えるのかどうかためすかするためにつくってみます。

もしも、適当なアプローチが見つかったなら、もう一度元へ戻って、そのアプローチを、もっと独特なものに、もっとドラマティックなものにする方法を捜します。

ビュイックの新車の5割値引きといったようなニュースとして価値のある、強い主張があるのなら、読者に影響を与えるのを妨げるよ5なものを入れてはいけません。
ほかのつまらないことを持ち出しても、読者にとっては割引きのニュースが最も重要なのです。

次に、それを伝えるのにもっとうまい言い回しを考えます。
たとえば『かすかな傷のあるビュイックを5割値引き』、これは、広告に、別な何かを付け加えます。読者に、の広告を信用する根拠を与えるのです。
もしも、しっかりした信頼するに足るニュースがあるのなら、あなたのつくる広告は、こうでなければならないのです。

クライアントがプロモートしようと主張する商品、サービスが弱い場合には、ユーモアを使うこと、その弱さが読者には、はっきりとわからずに、うまくやれることが、よくあります。
そして、それはあなたに、広告主に対する好意というおまけまでくれます」


「それが、アメリカン航空のためのサクソンの漫画によるキャンペーンの理論的根拠なのですか?」


ディロン「いえ、アメリカン航空は伝えるべきことをたくさん持っていました。が、底を流れる基盤となるようなテーマはありませんでした。
サクソンの漫画、外観、声の調子、すべてが、広告を一つのものにまとめ上げたのです」



「アリスじゃないじゃないか!」


そう、彼女はアリスじゃありません。アリスは辞めたんです。
彼女が乗務する路線の〔ご常連の方々に〕とって、彼女がいないことが、どんなに悲しいことか---ご同情申し上げます。
アリスときたら、一度ご同乗なさったあなたのお顔を、次にお乗りなるまで覚えていたんですからね。三度目はお名前までも---。
こうなれば、サッカリン入りのコーヒーを出されても、あなたはご満足なさったわけです。
アリスはどうしたのか、ですって?
お知りになりたい? 彼女は、お客さまのひとりと結婚したんです。
じつのところ、私たちが養成したスチュワーデスのほとんどが、お客さまと結婚してしまうのですよ。
(わが社のスチュワーデスときたら、2年ともたないんですからね)。
アリス嬢がいないとしても、私たちをそんなふうに見ないでください。
(ドリーか、ノーラか「可愛い赤毛のナントカちゃん」がいなかったとしても)。
彼女たちをどんどん引っこ抜いておいて、一方では飛行機の中で出会いたいなんて、ちょっと---ね。


若いコピーライターヘの助言


「ルールを知ることとその方法を持つことは別として、若いライターが、コピーを書くにあたって、知っておかなければならないことが、ほかにありますか?」


ディロン「この仕事にはいってくる若いコピーライターが初めになすべきことは、ライティングを忘れ、できるだけ早く広告を書くことです。
どういうふうに書かれたかということは忘れ、ただ思考の過程を紙の上に書き記すのです。
その使った言葉が、よいか悪いかということも忘れるのです。
やり終わった時には、すばらしいコピーを見つけて、彼は自分でも、驚くかもしれません。


まず、初めの文にひっかかり、次には、二番目の文が、初めの文ときれいにつながるかどうかにかかりっきりになってしまうことは、大変よくあることです。
その結果、文章をきれいに編み上げるのに忙しくなって、効果的なコピーを書くことができなくなってしまいます。


小説についても同じことがいえます。第一ページを書き直してばかりいて、結局、一冊も出来上がらないことになります。
ある程度までは、これは、コピーを書く時にも真実であると思います。仕事を得たら、まずすわってストレートなコピーを書いて、それがどういう感じであるかは考えないことです。
思考の過程を整理するのです。
イデアが一つも浮かばない時には、正真正銘の基礎から出発して考えるのです」


明日も、このつづき。


ジャック・ディロン氏とのインタビュー
(1234567了)