(493)リーブスとUSP(下) 上野壮夫
きのう、上野壮夫・TCC初代会長が解説に引いていらっしゃったマーチン・メイヤー『これが広告だ』を捜しに資料庫へ入ったら、お目当ての本はなくて、クロード・ホプキンス『科学的広告法』(初版1923 再販1952 訳:坂本 登 誠文堂新光社 1966.10.5 580円) が見つかりました。おとといまでのロッサー・リーブス氏が繰り返し絶賛していた、まぼろしの名著です。もちろん、DDBのクリエイターたちもこれで学んだうえで、オリジナルに表現を展開させていました。ケースがすごく手あかで汚れている写真からみても、chuukyuu も一時期、座右からはなさなかったことがうかがえます。1960年代前後から華々しく活躍をはじめた村瀬 尚さんも、土屋くんも、梶くんも、田中一光さんもこの名著を踏み台にしていたはず。
訳者・坂本 登(ブレーン/アイデア編集長=当時)氏ときわめて親しくって、署名・献辞入りなので、よそへまわすわけにはいかない。要請が強ければ、翻訳権に触れない程度に、当ブログで片鱗を、いずれご紹介することになるでしょう。いや、ついでに何章かを拾い読みしてみたら、リーブス氏の絶賛の理由がわかりました。なにせ、実践的なのです。
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<USP>とは、Unique Selling Proposition の頭文字をとったものであるが、それについては、へたな解説をつけるより、かれ自身に語らせたほうがしいだろう。いうまでもなく、この理論はリーブスがつくったものだからだ。
かれはその著書の中で、つぎのようにいっている。
(1)どんな広告でも、かならず消費者にむかって、Propose(主張)するところのものがなければならぬ。
ただのことばのラレツでなく、またたんなるチョウチン持ちやショーウィンドウ的広告ではなく、かならず読者にこう呼びかけねばならぬ。
(2)その Proposition は、かならず、競争相手が提唱していないものか、あるいは提唱しようとしてもできないようなものでなければならぬ。
つまり、そのブランド自体がユニークであるとか、もしくは、その特定の分野の広告では、他にはなされていないようなユニークな訴えかけをしているとか、とにかくユニークでなければならぬ。
(3)そのProposition はひじょうに強力で、何百万という多くの人びとを勁かし、新しい消費者を自己製品の方へひきよせるものでなければならぬ。(箕浦弘二氏の訳より引用、以下同じ)
以上の三つを一つにまとめると、ユニークで、売りこみのきく、主張 Unique Selling Proposition となるわけである。
一見、似たりよったりの商品でも、よく分析研究してみると、それぞれ、多くの本質的な差異をもっているはずだ、それを発見せよ、とリーブスはいう。
そのために、デッド・ベーツ社はいかなる労力も惜しまない。
主として、薬品・食品・石鹸を扱っている同社では、それにふさわしく、医者をヘッドとする百数十人におよぶ製品研究機関を社
の内外にもっていて、その研究結果をもとに、専門家とコピーライターが討論して、USPを発見し、一つの決定的なアイデアを生みだす、という方法をとっている。
そして決定的な<USP>ができたら、それをあくまでもつづけていく、という態度である。
しかし、こうして努力しても、ときには期待したほどの Proposition が発見できないこともある。
商品が見かけだけでなく、本質的に類似しているばおいである。その場合は-----
「広告代理店は広告主に、その商品を少し変え、改良するようすすめることもできる。
これまでに、われわれがそうした例はずいぶんある」
「もし、商品を改めることができず、しかもなお、他社製品と類似していて特長がないならば、そのときには、なにかその商品について、これまで、一度も明らかにされていないような点を、大衆に示すがよい。
商品自体がユニークであるわけではないが、しかし、訴えかけをユニークに見せ、ユニークらしく装うことはできる」
こういっているとき、リーブスはシュリッツ・ビールにおけるホプキンスの有名なヘッドライン、「わが社のビンは蒸気消毒してあります」を思いだしているのである。
どのビール工場でも蒸気消毒はやっている。
しかし、これを訴えた広告は、それまで一つもなかったのだ。
製品の同一性という困難を解決するカギはこのへんにある、というのである。
リーブスがみずから、ホプキンスの弟子であり、しんからのセールスマンだと自認しているように、Realiey in Advertising は、ホプキンス以来の基本的な、たくさんの教訓にみちみちている。S・ベイカーもいうように、「これまで世に出た広告の本の中で、もっともすばらしいものの一つであり」、「ひじょうに論理的でしっかりしているので、それに従わないわけにはいかない」といったものだ。
しかし、リーブスとベイツ社の理論は、クリエイティビティをうたい文句にしている代理店にとっては、気にくわない点がいろいろあるようである。とくに、「ショーウィンドウ広告」というリーブスの指摘は、多くのアートディレクターにとっては、やはりカンにさわるらしい。
「広告について浅い理解しかもたない多くの読者は、グラフィックを無視することによって、販売に成功できると考えるかも知れない」というフシが、ないでもないからだ。クリエイティブな仕事を志向するマジソン・アベニューの人たちにとって、DDBがその番付のトップにあるとするなら、デッド・ベイツはもう一つの端にある、と考えられている。
DDBはクリエイティブ探検隊による大陸発見によって名を成したが、デッド・ベイツは、数十年も前から知られている広告方式にくいついて離れないように見えるからだ。
しかし皮肉なことには、このような広告でベイツ社は今日のすばらしい成功をきずき上げたのである。
またりリーブスも、グラフィックをまったく否定しているわけではない。
ただ、よい広告とは、グラフィック面における外見のはなやかさにあるのではなく、製品のユニークなセリングプロポジションにあるのだ、ということをいっているのだ。
USPのない、外見のはなやかさは、広告においては無意味だ、といっているのでる。
かれがTVの映像についていっている、「USPをうまく表わすような、特別な映像をさがし出せ」という言葉は、そのへんのことをハッキリ物語っている。これは日本のTVコマーシャルだけではなく、つい数年前までの日本の広告についても、そのまま、あてはまることばではないだろうか。
明日からは、秦 順士氏訳によるジョージ・グリビン氏のインタビュー。
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『5人の広告作家』の原文をテキストに勉強会をしていたTCCの若手---AWAの会の人びと。
(AWAの会のメンバー(当時) 50音順・敬称略)
赤井恒和、秋山晶、秋山好朗、朝倉勇、糸田時夫、岡田耕、柿沼利招、梶原正弘、金内一郎、木本和秀、国枝卓、久保丹、栗田晃、小池一子、小島厚生、清水啓一郎、鈴木康行、田中亨、中島啓雄、西部山敏子、浜本正信、星谷明、八木一郎、吉山晴康、渡辺蔚。(その他の協力者)菊川淳子、高見俊一、滝川嘉子、秦順士
【示唆】土屋耕一君の[東京コピーライターズクラブ設立への道]←クリック
『5人の広告作家』より
インタヴューの末尾につけた解説
バーンバックさんとDDB 西尾 忠久
『5人の広告作家』より
ダヴィッド・オグルビー氏のインタビュー←クリック