創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(488)ロッサー・リーブス、広告の不変の原則(5)

リーブス氏のインタヴューは、7日か8日までつづく見込みです。
そのあと2日間ほど、東京コピーライターズクラブの初代会長・上野壮夫さんが筆をとられた、リーブス氏の広告論の解説を予定しています。上野元会長のお嬢さんの転載許可をいただきました。
このシリーズは、多くの方々のご好意・ご支援によってつづけられています。  




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 あなたはクロード・ホプキンスの弟子だといいました。そこで影響についてうかがいたいのです。あなたは明らかにコピーライターとして成功した方です。
ホプキンスのほかに、だれが、またなにがあなたに影響をあたえましたか?


リーブス もういちど医学的な比喩を使いましょう。
医者へいったとき、なぜ、あなたのそのやり方で患者の診断をするのですか? だれの影響ですか?……と聞いてごらんなさい。
ハーペイの影響だ、ハーペイが血液の循環を発見したからだ、と答えるかもしません。
血液の循環の知識がなければ患者をあつかえませんからね。
その意味から、私はこのビジネスのパイオニアたちに影響されました。
ホプキンスやジョン・E・ケネディといった人が根本原理をうちたてましたし、それはなにが起ころうと変わりはしないのです。
いぜんとして血液は循環するでしょう。
骨格は肉体の内部にあ・って身体を支えるでしょう。
医者も外科医も、この原理からはなれてはあり得ません。これはまさに広告ビジネスにおいてもおなじことなのです。


 とくにコピ・ライティングにかぎって、いくつかうかがいたい。
40才以下で、経験をひとまとめにしたような広告を、よく見かけます。
コピーの制作能力は年とともに高まるか、弱まるか、どちらでしょうか?


リーブス よくいわれる質問ですが、インテリジェントな質問ではありません。
一般化できない事柄だから。
71歳で世界一といえる外科医のことを知っています。
彼のところへ世界中から人が集まってくる。
68歳のコピーライターが子どもといっしょには書けない。
子どものようにフレッシュでもない。
彼の広告はマジソン・アペニューの仲間が期待するほど新鮮でも熱烈でもないでしょう。
しかし、5倍の売上げをもたらす広告を書くでしょう。


 それはそうです。一般化するのではなく、あなたご自身について、もうすこし聞
かせてください。
あなたの能力と手腕は、年とともに高まってきましたか? 
それとも制作能力になんらかの減退を見いだされましたか?


リーブス それは、ほかの人に聞くべきです。
もし下り坂にあったとしても、自分で自分自身のことはわからないのです。
それに、下り坂にあれば、彼の判断も下り坂にあるのだから。


 では、どうやって、いつもシャープでいようとなさいますか? 
このテーブルの上にたくさん雑誌があります。
コピーが書けないときはなにをしますか? 
バッテリーの充電は、どうなさいますか?


リーブス ジャマイカヘ行き、海岸に寝そべる。
あるいはマンハッタン・チェス・クラブヘいき、チェスをする。
あるいは{クラブ21}(注:マンハッタン中心部のレストラン。広告界の重鎮たちが愛用) へ行き、スコッチ・ソーダを飲む。あるいは家で寝るか、ボートにのる。


 では、長くコピーを書いてらしたあいだには、とくに自慢したいもの、好きな広
告、かあると思います。
それはかならずしも、もっとも成功したもの、という意味ではありませんが……。


リーブス 私は広告についてよりも、キャンペーンについて考えます。
クライアントが問題をもってやってくると、私は彼のためにキャンペーンを準備します。
1枚の広告ではなく、キャンペーンのコンセプトです。
わがベイツ社は、おどろくべきことに、ことし25,000,000ドルの広告を扱おうとしています。


12月にわが社は25周年を迎えます。
この期間に、われわれが失ったアカウントはただ一つ。


われわれのクライアントは、広告という点においては、世界で最大で、もっともソフィストケイトな会社です。アメリカン・ホーム・プロダクト、スタンダード・ブランズ、ブリティッシュアメリカン・タバコ、コルゲート・パルモティブ、ウィルキンソン・スオード・ブレード……などです。


われわれは、この25年間に、世界第5位になり、もうすぐ第4位になります。
これはセールスマン・シップによってなされたのではありません。
パーソナリティによったものです。
われわのクライアントは、われわれが25年間、何十億ドルという広告費を使って、効く広告、売れる広告をつくる代理店であることを、知ってきたのです。


 さっき、あなたは混乱したとおっしやいましたが、こんどは私の方が混乱しました。
もし私かコピーライターだったら、あなたのような方が、どのようにコピー制作の手腕をのばしてきたかについて、ひじょうに興味をもつでしょう。
ところがおなたは、コピー制作のクラフトの面で、経験から学ぶものはないとお考えのようですが……。
とにかく、私は広告についてうかがっているのではなく、コピー・ライティングについて質問しているのです。(訳・岡田 耕




明日に、つづく。