(489)ロッサー・リーブス、広告の不変の原則(6)
旧知の小玉 武(元サントリー広報部長)さんから大著[『洋酒天国』とその時代](筑摩書房 2007.5.30 2400+税)をいただいた。第4刷(2008.4.20)だから、多くの人が読んでいることを想像、とりあえず---といっては小玉さんに失礼だけど、電話で「記述に遺漏はないか」といわれた「開高 健の<雑誌狂>時代」---とくに同人誌「えんぴつ」当時のことを注意して読んだ。
「遺漏はないか」というのは、小玉さんの謙虚な問いかけで、いや、知らなかった寿屋(サントリーと改名前)時代の開高くんの職場での活躍が活写されており、若いころの開高くんの記憶力と饒舌には舌をまいていたものだが、小玉さんのメモ魔的な記録術と語りのおもしろさも堪能した。
『洋酒天国』時代といえば、ちょうど、ぼくがDDBおよびその息子たちに凝っていたころと重なるし、開高くんたちが参考にしていた『ニューヨーカー』を、いま、広告ページからアプローチしているので、一層興味深く読み進み、周辺の章へ達している。
クリエイティブな環境に興味のある方々なら、興奮につぐ興奮、いたく触発されること、疑いなし。
★ ★ ★
問 さっき、あなたは混乱したとおっしやいましたが、こんどは私の方が混乱しました。
もし私かコピーライターだったら、あなたのような方が、どのようにコピー制作の手腕をのばしてきたかについて、ひじょうに興味をもつでしょう。
ところがおなたは、コピー制作のクラフトの面で、経験から学ぶものはないとお考えのようですが……。
とにかく、私は広告についてうかがっているのではなく、コピー・ライティングについて質問しているのです。
リーブス まったく同意できないことだ。
このニューヨーク・オフィスのクリエイティブ部門は、年間約550万ドルを得ているのです。われわれは、フランスや、ドイツ、イギリス、日本からきた多数の実習生をもっています。
われわれのコピー・グループには、彼らが1人か2人ずつ配置されています。(リーブスはかなりひどい喫煙家らしく、3本目の葉巻に火をつけた)
優秀なラドクリフ(注・有名な女子大)卒業生が、もうすぐはいってきて、テレビ・コマーシャルを書きはじめるでしょう。
先週見たテレビー・コマーシャルは、ひじょうに有名な文章ではじまっていました。(リーブスは思いだしながら引用した……)
"一点の雲もない、星のきらめく夜の美しさの中を彼女は歩く
そしてそれは、彼女の容貌や目に映る、すべての明暗の最高のもの……″
これは臭気止めのコマーシャルです。
これを書いたあとすぐに、彼女は、このコマーシャルがよくないことに気がついた。
彼女のコマーシャルは間違っていた。
コピーライターのヘッドが、そのコマーシャルを壁からはぎとり、そしていいました。
「君は、自分のしていることを分かってないのだ」
しかし彼女は、1年か、1年半のうちに、よいコピーを書くようになるでしょう。
このようなコマーシャルをまた書くことは、夢にも考えないでしょう。
なぜなら、これはプロフェショナルなものではないことを知るだろうから。
われわれは彼らを、こういうふうに訓練し、徹底的に訓練します。
彼らはそれを実践学んでいくでしょう。
われわれはコピーライターをそのように訓練し、幾人ものコピーライターを誕生させているのです。
問 アートっぽいクラフトを嫌悪されていらっしやる。
よいコピーが書けるように訓練するのは、長く、しかも退屈な仕事だと感じていらっしやる。
それは実践しながら学ぶという方法のようです。
そして、この仕事に30年たずさわった後で、一般的な結論はひきだせないとお考えのようですね。
リーブス 結論がないとはいいませんでした。
結論が集められた百科辞典を申しあげることはできます。
しかし、ここに坐って、成功する広告の書き方122例を述べたりして、あなたや、あなたの読者を退屈させたくないのです。
あなたは、そんなことのために、ここにきたのではないのですから。
問 いいえ、私はたとえば、印刷媒体で上手に書ける人は、テレビでも上手に書けるとお考えかどうかを聞きにきました。
コピー・ビジネスにたずさわっている人がひとつのメディアに集中すべきかどうか、その点はどうですか?
リーブス よいコピーライターは、プリント、TV、ラジオ、いずれにも書ける。
もし彼がプロフェショナルなら……。
問 おきまりの質問をさせてください。
コピーを書きはじめた若い人に、助言を与えなければならないとしたら、それはどんなことですか?
リーブス 自分たちがやっていることをわきまえている、大きな、現実的な代理店で働くようにすすめます。
どうすればよいかを学びとり、かれらがやっていることを、なぜそうやっているかを学ぶのです。
よいコピーライターになることは、脳外科医になるくらい、むずかしいことです。
この仕事の世界を、あちらこちらとわたりあるき、高給をとっているといわれるコピーライターの中には、私たちの会社なら週50ドルしか払えない人たちもいます。
このビジネスで、ひじょうに多くのコピーライターが、まだ「つかまった」ことがないために、お金をかせいでいます。
問 なにをして、つかまるのですか?
リーブス 悪い広告をかいて、です。
問 まえにお話しになった、バスのポスターのことですか?
リーブス そのたぐいのものです。
私が著書の第一章「広告の現実性」で説明しているように、広告と売上げを互いに関連させることは、たいへんむずかしいことです。
キャンペーンがよければ、売上げはあがり、キャンペーンが悪いと、売上げがさがる。
これは、このビジネスの常套語です。
しかし、これは正しくありません。
ひどく悪質なキャンペーンで、売上げがあがることもあるのです。
すばらしいキャンペーンをやっても、売上げがさがることもあります。
市場における他の要因によるからです。
医学的な比喩をもういちど使えば、あなたが認めないとしても、医者にいけば、94%の人はなおる、と一般にいわれています。
そして問題なのは、はたして医者が適切な処置をほどこしたどうか、なのです。
代理店の中には、コピーは、広告のコピーというより、効率ののよいパブリシティだ、といっているところがあります。
つまり、広告が効くか効かないか、すぐわかるところです。
このタイプの代理店で、広告業というものがわかります。
マジソン・アベニューと呼ばれる競争相手があります。そこには、広告専門家のグループがあり、その年の最高の広告、あるいは最悪の広告をつくっています。
(リーブス氏は立ち上がって、机から雑誌をとりあげた)
1964年7月、いま放送中のテレビ・コマーシャルで、最悪といわれながらもっとも成功しているものが2つあります。
一つは、ベイツ代理店の「アクション漂白剤」です。
もう一つは、ノーマン・クレイグ&クンメルの「白い騎士}です。
ちょっと聞いてください。
(氏は雑誌を読んだ)
「クリエイティブ・エグゼクティブは、どのテレビ・コマーシャルを最高とし、また最悪としているか……」
(リーブス氏は、手の掌で ピシャリと雑誌を打ち、私をみつめた)
ねえ、クリエイティブ・エグゼクティブがですよ。
彼らはもつとも悪いものとして、いま放送中のもっとも成功しているテレビ・コマーシャルをあげたのです。
(氏は、雑誌をつづけて読んだ。そしてアクション漂白剤のコマーシャルをつくったベイツ代理店について話すときに「恩きせがましい」とか「主婦にとってゾッとするような」になどのことばを使った批評家たちを引用した。そのコマーシャルは、洗たく機から巨人の腕がつき出てくるところを描いている)。
私たちにとって、これはくだらない読みものです。
マジソン・アベニューのベイツには、専門家としてもっとも立派なグループがいるのですよ。
さて私は、この雑誌を読みました。
また、あなたのところの雑誌(『アド・エイジ』)も読みました。
しかしだれも、このコマーシャルがどのようにして効果をあげたかを聞こうとしている人がいないのです。
主婦たちがなにを考えているかについて、みんなは推測しているだけです。
良いか悪いか推測しているのです。
だれかも、数字をあげてみせてくれ、とはいわない。
妙ではありませんか……。
問 ええ、たしかに……。(訳・岡田 耕)
明日に、つづく。
『5人の広告作家』の原文をテキストに勉強会をしていたTCCのの若手---AWAの会の人びと。
(AWAの会のメンバー(当時) 50音順・敬称略)
赤井恒和、秋山晶、秋山好朗、朝倉勇、糸田時夫、岡田耕、柿沼利招、梶原正弘、金内一郎、木本和秀、国枝卓、久保丹、栗田晃、小池一子、小島厚生、清水啓一郎、鈴木康行、田中亨、中島啓雄、西部山敏子、浜本正信、星谷明、八木一郎、吉山晴康、渡辺蔚。(その他の協力者)菊川淳子、高見俊一、滝川嘉子、秦順士
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