創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(487)ロッサー・リーブス、広告の不変の原則(4)


ロッサー・リーブス氏=右端 『5人の広告作家』表紙カヴァー 装丁=坂野 豊


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 これらは、ほとんど無意識のテクニックであり、直感的なものとおっしゃるのですか?


リーブス とんでもない。
さっき私はミスディレクショソの広告の例をいいました。
私はその広告をしばしば見ていたのですが、その商品名も商品の写真もすこしも見なかった。
そしてそれがビールの広告だったか、タバコの広告だったかもわからない。

なにがミスディレクションになり、なにがミスデイレクショソにならないかは、直感や無意識のテクニックといったものではないのです。

こんにちひじょうに多くの広告ライターが無意識や直感的なミスディレクショソを毎日おこない、広告効果を下げているのです。


 広告のコピー以外に、なにかお書きになりましたか?


リープス 趣味として短編の小説や詩を書きます。


 広告は、他の分野の執筆よりむずかしいとお考えですか?


リーブス それは意味のない質問です。
どの分野でも英語を使うし、ライターである点でおなじです。

重量挙げ選手は筋肉を使います。外科医も、パラシュート降下者も、その点ではおなじです。

広告は、ある専門化された技術です。

新聞も、詩も、戯曲も、みんな、それぞれにそうです。

すぐれた劇作家が、かならずしもよい小説家ではありません。
よい小説家はかならずしもよい詩人ではないし、これらの3者は、新聞記者としては愚鈍かもしれません。
これらの3者がいっしょになっても、すこしもいい広告コピーができるとは思えない。

一方、クロード・ホプキンスやジョン・ラスカーや、ロッサー・リーブスは、広告は書くが、ユージン・オニールのような芝居は書けません。

chuukyuu注】クロード・ホプキンスやジョン・ラスカーといった伝説的コピーライターの先達については、[『コピーライターの歴史』7月26日まで夏休み] ()←クリック


 いま、どのくらいコピーを書いていますか?


リーブス 私はまだ現役のコピーライターです。コピーライターとして唯一の役員です。
そしてコピーライターが私の第一の仕事だと思っています。
私のクライアントの中で、ある会社は、昨年、私の1点のコピーにたいし、86,400,000ドル払いました。
86,400,000ドルというコピーのために、この代理店の最高の人、あるいは、もっとも才能のある人という資格を与えられませんか。
なにしろ、それは巨額のお金ですから。


 どの会社ですか?


リーブス クライアントについては、私たちはなにもいわないことにしています。


 あなたのスタッフを、だれがまとめるのですか? 
あなたご自身ですか?


リーブス 私自身がまとめ役であるという幸福な立場にいます。
もしクライアントが「妨害」しなければ……ですが。
もちろん彼らには、「妨害」する権利かあります。
われわれは代理人であり、校長ではありませんから。


 「妨害」というのは興味深いことばです。
これは、私がつぎに質問しようと思っていたことにふれています。
それは基本ルールについてです。
クライアントはよくいいます。
「広告の中に、この文、この語、あるいはこの語群を入れたい……このモデル、このような設定を使ってほしい……この設定内でコピーを書いてほしい……」と。
このような条件下で仕事をするのは、むずかしいことだと思われますか? 
あるいは、クライアントか、プラソズーボードか、そのほかのだれかが決定してくれた基本ルールにしたがってコピーを書くほうを好みますか?


リーブス クライアントは、ある基本ルールを決めるものです。
その基本ルールは、十中九まで役立つものです。
広告代理店が、その製品についてクライアントよりも知っているという錯覚は、大きな誤まりです。
クライアントは自分の製品について、会社について、また必要なことについて、当然のことですがいちばんよく知っています。
だからこそ彼らは、一定の基本ルールをきめるのです。


 基本ルールとは、あなたの。"Unique Selling Proposition”ですか?


リープス 違います。
それは単純化しすぎます。
われわれの意見では、基本ルールは、よい広告をつくるものです。
たとえば、このインタヴューをはじめるときにミスディレクション・テクニック(気を散らす技術)と呼ぶものについて話しました。

このテクニックを私の代理店では使いません。
しかし、夜、テレビを見ていると、コマーシャルの10のうち6までが、このミスディレクション・テクニックで占められているので、これらの会社がお金を浪費していることを知らないのではないか、と驚いてしまいます。

コピー・マンの主観的判断からすればすばらしいアイデアも、クライアントの側からすれば、ひどい広告であるということもあります。
私は著書の中で、広告の技術は最少の費用で、より多くの人の頭にメッセージをいれることだと書きました。

それは、ときにはコピーライターがすごくつまらないものだというかもしれないテクニックを使うこともあります。
あるいは「ああ、私ならもっといいものが書ける」というかもしれません。

しかし、より多くの人びとの頭に、最低の費用でメッセージをつたえるなら、それはほとんどエンジュアリング・テクニックの問題であり、プロフェショナリズムの問題なのです。コピーライター自身の創作衝動は、あくまで、その究極的目的に従わせるべきなのです。
この広告のアイデアは、ほんとうに自分の頭の中から、大衆の頭の中へ伝わるだろうか? 
しかも最低の費用で……。

広告とは、まさにそれ以外にはなにもない作業なのですから。
       :
たとえば、あるクライアントが私のところへきた。
彼は困っている。彼の会社の商品のブランドが落ち目だからです。
ニールセンのインデックスは6%もさがった。
年間15,000,000ドルもの広告費を投入しているのに……。
要するに彼は、ひとつのことだけを悩んでいる。
それは彼の広告がどのように書かれるかではないし、彼の広告がなにかの賞をとるかどうかでもない。
彼はただ、ニールセンのインデックスをもと通りに上昇させたいだけなのです。


 あなたは、さっきコピーライターはテクニック・マンであり、グラフト・マソで
あり、そのコンビネーションでなければならないとおっしゃいました……。


リーブス あなたのいい方は、私を混乱させます。
別のいい方をしましょう。
あなたが病気のとき病院へいった。
どこが悪いのかは知らない。
外科医が北から南へ、あるいは東から西へ切るのか、どちらでもあなたの関心外のことです。
あなたは、ただ直りたい。
健康を回復したい。
それが根本的なことです。
そういうことを忘れている広告人が、あまりにも多いのです。

もっとも偉大なコピーライター、もっとも伝説的なコピーライターは、彼が、この根本的なこと以外には、なにものにも捉えられたことがなかったから、偉大であり、伝説的なのです。

 あなたはクロード・ホプキソスの弟子だといいました。
そこで影響についてうかがいたいのです。
あなたは明らかにコピーライターとして成功した方です。
ホプキンスのほかに、だれが、またなにがあなたに影響をあたえましたか?(訳・岡田 耕)

「たとえばの話だが、
あなたが小さな会社を経営していて、
100万ドルのお金の動きがとれなくなり、
広告は一向に効かず、
売り上げは落ちるばかりだとしよう。
すべてが会社の売り上げに頼っているのだし、あなたの未来も、
あなたの家族の未来も、
ほかの大勢の家族の未来も、それに頼っているのだ。
そのとき、あなたは私になにを求めるだろうか。

シャレたコピーだろうか」

>>(5)に続く