創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(463)[陽気な緑の巨人]の創造(4)

このブログを、終わるべき時期が近づいたのかも知れない。
スクラップしていた《ジョリー・グリーン・ジャイアント》シリーズの数10点を、3年前に廃棄していた。
多摩美大の講師を定年した時点で広告関連の資料は同図書館へ寄贈したが、スクラップは大学側も整理にこまるだろう---と手元に残し、それを捨てたのが3年前。(まさか、このようなブログを立ち上げることになるとは予想もしていなかったのです) 

レオ・バーネットの研究者・志垣芳生くんに連絡をとって借りようと思ったが、ツイてない、不在だった。しかたがない、テキストの引用をつづけている共訳『広告界の殺し屋たち』(1971.4.30刊)に掲載したモノクロ図版で緑を想像していただこう。もし、《ジョリー・グリーン・ジャイアント》シリーズの色つき版をお手持ちの方は、声をかけていただければ、ありがたい。これは、ぼくのためのブログではなく、多くの若手クリエイターたちのためのものなのだから。


    ★  ★  ★

私の見るところ、コンスタントにすぐれたキャンペーンをつくりだしている代理店の一つはレオ・バーネットだと思う。

レオーバーネット(写真)で愉快なのは第一に、彼が75歳(1969年当時)だということだ。


彼は長髪の若者ではない。


第二に、彼の代理店はシカゴにある。
シカゴは本流ではない。

しかるに彼を光る存在にしているのは、彼が中西部に根をおろしているからだ。

前身が新聞記者だった彼は、人間というものを知っており、大衆がどのように考えるものか、大衆を走らせるものが何かを知っている。


バーネットは非常にシンプルな広告をつくる。
シンプル過ぎて、迷わされやすい。

すぐれていないとさえ思える。
洗練されてもおらず、笑わせもしない。

だが商品を売るのだ。

バーネットは野菜を売る方法を考え出した代理店でもある。
ジョリー・グリーン・ジャイアント(陽気な緑の巨人)という緑色のキャラクターを発案した。
グリーン・ジャイアント谷からやってきたすぐれた品質を表わす男だ。


この緑色の巨人を見た人は思う。「きっと良い製品に違いない」と。
そして買う。


グリーン・ジャイアントが何を表わそうと知ったことではない。


その大きさが品質を暗示するのかもしれない。

私が中西部を市場とする商品を持っている広告主だったら、きっとバーネットのところへ真っ直ぐ行くだろう。

バーネットは田舎じみた代理店と自称しているが、彼自身は決して田舎じみた男ではない。
非常に聡明な男だ。

あの緑色の巨人野郎、ジョリー・グリーン・ジャイアソトは奇想天外だ。

・・そら豆も、とうもろこしも、えんどうも、何でも売ってしまう。
ジョリーグリーン・ジャイアソトを見るとバカバカしいと思っても買ってしまう。

他の食品はどんな広告をやっている? 
私は知らない。
ほとんどの
食品広告は目にも入らない。
だがジョリー・グリーン・ジャイアソトは、スクリーソに現われるだけで文句なしに成功だ。


chuukyuuのつぶやき】 「あなたのブランディング−法は---」なんて訊いたら、レオ・バーネット氏は、きっと、「そんな、しゃれた言葉は知らないね」と苦笑を返すだろう。


>>[陽気な緑の巨人]の創造(5)に、つづく


【追記 1】atsushi さんが、例の『ニューヨーカー・アーカイブ』で探してくださいました。
【追記 2】atsushi さんが、さらにコピーをアクロバットして送信してくださいました。一流コピー・ライティングの稽古をしましょう。訳をコメント欄へお寄せください。


(意訳)
膝丈って、誰の?


巨人だと、時に厄介ごとにまきこまれます。 そう、Low Doorway Problem(低い出入り口の難問---きつい締め切り日)」なんてのに。 ほら、「4日(独立記念日)までに膝丈に」って言われてる、あれ---。
コーンは「7月4日までに、膝丈に育てておけ」って言われても、なにしろグリーン・ジャイアントですからねえ、彼の背丈での膝丈では、ねえ。さすがのニブレッツとうもろこしといえども、グリーン・ジャイアントの足首丈がせいぜいかも。それだって「ご立派!」ってもんでさぁ。
グリーン・ジャイアントの困惑、ご理解いただけます? 彼にしてみれば、育ててるとうもろことしの丈なんかより、風味を見て欲しいのですよ。上のはるか上---って評価なんで、「報われた」って気分にひたってるところ。だって、新鮮な風味と色合いを損なわないために急いで真空パックしているんです。そう、焼きたての皮つきとうもろこしそっくり。
いま、これ以上のやり方はありません。グリーン・ジャイアントは、彼自身のきびしい規格を満たさないものは1粒だって容赦しません。ですから、膝丈なんてことは、グリーン・ジャイアントにかぎっては、お忘れくださっていいのです。あなたは、ジャイアント(厳格)規格に適ったものだけをお求めになっていらっしゃるのですから。




Yes, but whose knees?


Sometimes being a giant is a bit of a nuisance. There's the Low Doorway Problem, for example. And this one, known simply as "Knee-High by the 4th."
Seems like all his life the Green Giant had heard that "knee-high by the 4th of July" was one of the standards of excellence when it came to growing corn. Something to aim for and be proud of. Well, the Green Giant figured, what's a standard for but to do better than? But try as he might, he could never get his Niblets corn to grow higher than his ankles.
Imagine his embarrassment? True, he was comforted somewhat by the fact that the flavor of his corn was far above the national average. And that the way he quick-cooks and vacuum packs it holds in all the fresh color and crispness. Like fresh roasting ears, no less.
Now maybe there are those who would let it go at that. But the Green Giant can't abide anything that doesn't meet his standards. So there he stands snide-high in the waving green, having completely forgotten, of course, that "knee-high" refers to people-knees. Not his. But isn't that the way it goes when you've got giant-size standards?


『ニューヨーカー』1961.1.21号


(邦訳はfuku33 さん)
緑ででっかいっていうことは、どんなことでしょう?


もしあなたが緑色をしていたら、そしてでっかかったら、あなたも困るんじゃありませんか? そしてたくさんの葉っぱを身につけていなければならないとしたら? 面食らっちゃったりしませんか?
でもグリーン・ジャイアントはそれを、ちょっとばかり哲学的に考えることでなんとかこなしています。つまり、誰だって、あなたもそうであるように、自分のつとめを果たすためにはやらなければならないこともあるっていうことです。
もちろん時々は切なくもなります。近頃はたとえどんな色の巨人にしたって、なかなかいるもんじゃありません。でも彼はちゃんとつとめを果たしています。
実際、この点については彼はちょっと気にしています。なにかとりつかれているようになっているとあなたならおっしゃるかも。彼は世界中で選りすぐりのトウモロコシを育てて、パックしなきゃならないのに、自分も休まないし、我々の誰も休ませてくれません。
あなたがニブレッツのコーンを買うとしたら、まず彼は、とてもとても若いのに身が大きい最高の品種をつくります。そしてこの特別なコーンを真空パックします。それは新鮮さを保つためのたったひとつの方法と考えるからなんです。だからみんな、ニブレッツのコーンを気に入りました。でもその栄誉に満足するでしょうか? そんな彼じゃありません。ご存じのように、彼はニブレッツを収穫したてのようにしようとしました。彼はニブレッツのコーンがまだ穂がついているかのように新鮮にしたいし、実際そうなんです。
彼が次になにをやろうとしているのか、なかなか想像できないけど、でもそれがグリーンジャイアントってひとなんです。



How it feels to be green and a giant


Maybe you think you have troubles. But what if you were green? And what if you were a giant? And what if you had to go around wearing a bunch of leaves? You'd be in quite a dither now, wouldn't you?
But the Green Giant manages to be pretty philosophical about it all. He figures being a trademark by career has its problems like any other business, and you just have to adjust to them.
Of course it gets a bit lonesome at tunes. There being so few giants around these days, of any color, to talk to. But he lives for his work. Fact is, in this respect he's a little bit neurotic. Has sort of a compulsion complex, you might say. Feels he has to grow and pack the best peas and corn in this whole wide world. Won't rest. Won't let any of us rest.
You take Niblets Brand corn. First off. k developed a special breed --- very, very young corn with deep kernels. Then he vacuum packed this special corn --- figured that's the only way to keep in the freshness. So everybody loved Niblets. But did he sit back on his laurels and relax? Not him. First thing you know, he came up with a way to quick-cook Niblets. Insisted he wanted Niblets Brand corn to look and taste just like the on-the-cob kind. And it does.
It's hard to guess what hell be up to next. But that's the Green Giant for you.

『ニューヨーカー』1960.1.23号



Big Vegetable Man
from the North

"Brrrrr", if you'll pardon the expression. Winter is in the air up in the Green Giant Land of Minnesota. That big boy of ours is now wearing his winter-weight leaves --- fur-lined, you know. And he's up to his eyeballs in his trusty muffler.
His nose gets cold.
So what does the Green Giant do with himself in this non-vegetable growing weather? Sit with his feet warming at the pot-bellied stove? Not him. He's a vegetable man right to the heart --- and that means 12 months a year.
Along about now he's catching up on his paper work --- dictating a new crop of flesh green thoughts. Soon he'll be checking out new fields, studying moisture and growing conditions. And, one of the most important things he does this wintry season is grow a test crop of Green Giant Brand peas.
You see, the Green Giant and his plant doctors are always searching and seeking to make these famous big ones even more delicious. And recently they succeeded. They invented a brand-new breed of seed that gives them even more flavor, more sweetness, more tenderness.
Of course, the wonder of these babies (and they are babies at heart) is that they grow so big at such a tender age.
Some wearisome, tiresome, slushy, mushy day soon, why don't you have the Green Giant to dinner? He has a very special new kind of peas, too, remember. And both kinds have a way of making spring seem just around the next comer. And since winter hasn't even officially stalled yet---that's a pretty good trick.


『ニューヨーカー』1959.11.28号

>>[陽気な緑の巨人]の創造(5)に、つづく