(462)[陽気な緑の巨人]の創造(3)
デラ・フェミナの『広告界の殺し屋たち』はおもしろいし、的もだいたい射ている。ただ、訳者として不満をいえば、図版がまったくついていなかった。 引例図版なしの広告の本なんて、ニューヨークで働いていないかぎり理解と合意は半分しか得られまい---と、邦訳本では、広告作品はぼくが手持ちのものを探して入れた。
その日本版を見て、フェミナ氏も驚いたとおもう、なぜ、日本にあるんだ、と。
しかもこのブログでは、図版をできるかぎりカラー版を手当てした。原書の数倍も資料性、史料性が高まった。
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商品よりもずっとすぐれた広告というものもたくさんある。
そういう場合には、広告が良ければ良いほど、商売を早く失ってしまう。商品がその広告に追いつかなければならないような場合もある。
追いつけない時には、広告主は多くの問題に巻き込まれる結果となる。
再び航空会社を例にとってみよう。
すぐれた広告をしていても、飛行機が混雑しているか、管制官のストライキか何かでラ・ガーディア空港の地べたに腰を降ろしたまま2時間も待たされることもあろう。
荷物の事故だって起きよう。
広告どおりのサービスをしない航空会社も問題だ。
ユナイテッド航空はすばらしいコマーシャルで、私にユナイテッドで飛ばないことを確信させるという困ったことをやっている。
ユナイテッドしか飛んでいないような場合には仕方がないが、前に私の荷物に信じられないようなことをやってくれてからというもの、ユナイテッドで飛ぶのはどうも虫が好かない。
幸いなことに、この不愉快なことも地上での出来事だったが……。
どんなすぐれた広告でも、朝目覚めたら気分が悪くなっていたスチュアエアスの健康を回復させることはできない。
広告代理店は良い販売助成プランで協力することはできる。
TWA(航空)の例でいこう。
同航空は、顧客に親切で丁寧なサービスをした従業員に100万ドルのボーナスを出すというキャンペーンを実行する必要があると感じたのだ。
TWAのこのキャンペーンはすばらしかった。
第一に、親切なTWA従業員への100万ドルの賞金は広告予算から出ることになっていた。これが20万ドルかそこらだったら意味はない。
第二に、このキャンペーンはTWAの従業員を励ましている。
彼らは前よりも一生懸命に仕事をしてくれるだろうと私にも感じさせるというものだ。
ウェルズ・リッチ・グリーン代理店がこのTWAのキャンペーンをやっているが、これと同じようなキャンペーンが、エイビス(レンタカー)にプレゼンテーションされるはずだったのもおもしろい。
もちろんエイビスはこのキャンペーンは一度も見ていない。
DDBのあるアートディレクターが思いついたのだが、そのアイデアは、広告費を削っても、エイビス従業員を働かすためにもっとお金を使うというものだった。
ボーナスとかそういったものを考え出した。
だがこのキャンペーンはエイビスヘは提示されなかった。
このアイデアを思いついたアートディレクターがエイビス担当の主任アートディレクターではなかったので採用されなかったのだ。
メリー・ウェルズは同じアイデアを思いつき、予算数100万ドルのキャンペーンに仕上げた。
このアイデアは効くはずだ。効かないにしてはすぐれ過ぎている。
すぐれたキャジペーンとしてのすべての要素をそなえている。
おもしろいし、すてきなコマーシャルも暗示するし、乗客にTWAに優秀なサービスを期待させる。
空港TWAビルにタクシーで乗りつけた中年客に、スカイキャップ(荷物運び人)がにこやかに話しかける。
「どちらまで?」
「シカゴ」
「お疲れでしょう」
「いや、タクシーできたから---」
「いえ、お疲れのはずです。さあ、私の肩に---」
とまるで客を抱きかかえるようにし、もう一方の手にスーツケースを持ってカウンターへ導く。
その間も「私はジョーンズです」と自分を売り込む。
チェック・イン係が、
「お名前は?」
「ジョーンズ---いや、テーラーです」
と言いなおす。
この間にスカイ・キャップは案内係の女性に車椅子を用意させ、強引に客を座らせて、搭乗ゲートまで駆け足。驚く客に、しつこく、
「ジョーンズをお忘れなく。J、O、N、E、S---ジョーンズですよ」
と叫ぶ。
今度TWAで飛んだら何かいいことが起こりそうな気がするではないか。
しかも従業員がキャンペーンを支援してくれるのだから強い。
小さなバッジをつけさせるなんてアイデアは影がうすれてくる(注・米国ではキャンペーソが始まると、従業員によくバッジをつけさせる)。
従業員がキャンペーンの一部になって再認識することが何よりだ。
TWAの従業員が自分が大切なことに一役を買っていると感じ、微笑み、気持よく行動してくれれば、偉大なキャソペーンを代理店のために成功させていることにもなる。
【参照】『メリーウェルズ物語』
[100万ドルのボーナス](1.2.3.4.5.)
従業員にまで共感されるキャンペーンは数少ない。
「私たちはあなたに生き続けてほしいのです」というモービル(石油)のキャンペーンもみんなの共感を
呼んだ。【chuukyuu参照】
>>モービルの「あなたに生きていていただきたい」キャンペーン(1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・12・13・14・15・16・17・18・19・20・21・22)
エイビスとハーツもそうだ。
エイビスが「私たちは業界で2位です。だからもっと頑張ります」と宣言した時、エイビスの従業員はうまく応えた。
調査によると、ハーツの従業員もエイビスのキャンペーンに影響を受けたことが判明した。
ハーツの従業員が元気を失い、萎縮してしまったということもわかった。
エイビスがジャブを打っているというのに、ハーツはといえばクレイジーな客がコンバーチブルの運転席に飛びこむコマーシャルを放映していた。
このコマーシャルを発案したのはノーマン・クレイグ&カメル代理店だったが、エイビスの一撃を受けると、ハーツはノーマン・クレイグを首にして、カール・アリーを起用した。
アリーにとっても楽な仕事ではなかった。
2位であることを自認している男を相手にするという前代未聞の広告を考えなければならなかったからである。
もちろん従業員への対策もあった。ハーツの従業員はくさり切っていた。
侵略的な若い競走相手が追いかけてきているのだから……。
【参照】】
>>エイビスのキャンペーン(1・2・3・4・5・6・7)
DDBがエイビスのためにやったことは、長年の間あちこちで使われたコンセプトである。
私たちは隣の男よりも大きくはないが、ずっとたくさんのことをやっています、というやつだ。
だがこのコンセプトを「私たちは業界で2位です。だからもっと頑張ります」という鮮明な言葉で言い表わした者はいなかった。
私も基本的には同じようなことを言ったユニバックの広告をつくってIBMを対決させたが、これほどうまくはいかなかった。
2位という状況に置かれた者はたくさんいるだろうが、このように的確に正面切って言い切った者はいない。
これがまあまあのキャンペーンと偉大なキャンペーンの違いであろう。