創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(421)「ロン・ローゼンフェルド氏とのインタヴュー」7月26日まで夏休み(4ヶ日目)


1週間の夏休みをいただいて、手持ちのデータを仕込み中です。
有用な、ありものを、まとめて再録してみました---


ロン・ローゼンフェルド氏とのインタヴュー
Mr.Ron Rosenfeld


『みごとなコピーライター』誠文堂新光社 1969.9.7.15)のロン・ローゼンフェルド氏とのインタヴュー記事の扉に、こんな小文を添えていた。


ロンをDDBのコピーライターのセクションに並べるのは、どうかとも思う。
彼は、1968年11月にDDBを去って、J.W.トンプソン社の先任副社長兼クリエイティブ・スーパパイザーとして入社してしまった。トンプソン社には、ほかに4人のクリエイティブ・スーパパイザーがいるが、ロンを除くと、みんなはえぬきである。これをみても、ロンの才能がいかに高く買われているか、わかる。
転職といえば、前にも、ウェルズ・リッチ・グリーン社に入るとか、シローイッツ氏と自分の代理店を設立するとかの噂もあった。
ともあれ、彼のDDB在職中のインタヴューなので、DDBのセクションに入れた。




自選作品はジャマイカとグレート・デイ


chuukyuu「これまでに手がけた広告のうちで、最もお気に入りを2点あげてください」


ロン「何年が前にやったジャマイカ観光委員会のシリーズですね。
もう一つは、白髪染めのグレート・デイです」


chuukyuu「ジャマイカ観光委員会のシリーズは、私も大好きです」


ロン「あの国はね、私たちの広告が出るまで、誤解されていたんです。
避暑地、リゾート……といった概念で理解されていただけでした。
しかし、調べていくうちに、もっともっと意味があることがわかりました。
特に、習俗とか人間の生き方とか態度とかは、非常に興味深いものをもっていました。
ですから、私たちの広告で、それらのことを伝えることができたのです。
もちろん、ジャマイカには、太陽、ヤシの木もありますよ。しかし、ジャマイカをほかの国と比べてみた場合、料理とか習俗とか人間の態度とかのほうにより興味が見出されたのです。
ただ海岸で寝そべっているだけでは退屈ですからね。そこで私たちは、それをこの国のほかの面と合わせて考えようとしたのです。
このジャマイカ観光委員会のシリーズ広告で、私たちは、ジャマイカのいろんな面を紹介しました。その結果、観光客も増えたし、この国の経済も栄えました」



【訳文】
彼女の眼から数秒間でも視線をそらすことができたら、
あなたは絹の格安品を掘り出すこともできるし、ローライ・フレックスだって買えるかも。


ジャマイカでは、じっと見つめることは失礼にはあたりません。
あなたが出会ったこともないような顔立ちがたくさんあるのですから。初めて見たものというのはさまざまな印象を残しますね。目、ほお骨、肌、唇、髪の毛…それぞれ別の世界に属していたものが、ここではひとつの顔の中に存在しているのです。
あなたは、絹を売る店のカウンターの向こうに、ひとりの娘をごらんになる。そして驚きになるでしょう。
あの可愛らしさにはアフリカがずいぶん入っているのかな。
中国系でもあるが、インド的でもある。ヨーロッパも相当あるな。でもはっきりとはわかりません。
アフリカが中国に、中国がインドに、インドがヨーロッパに、混じり合っていることがあるのです。
境界が不明瞭となるまで、国籍が消え失せるのです。そして現れるのは、それらのどの国にも属さない、ジャマイカだけの美しさです。その美しさが最高に現れたケースでは、繊細で、夢のような、この世のものとは思えない美しい美女の出現です。
(略)
けれども、もし絹へ目を向けることがおできになりさえすれば、これは「いい買物」ということがお分かりになるはずです。アメリカでお払いになるよりも6割もお安いのです。それから、フランス製ドスキンの手袋、エジプト綿も4割方お安い。ジャマイカの免税率は、世界でも最高の部類に属しています。(略)


アートディレクター ロバート(ボブ)・ゲイジ




If you can take your eyes off her face for a few moments,
yon may pick up a bargain in silks. Or pedlaps even a Rolleiflcx.


In Jamaica, you have an excuse to stare. Faces like you've never seen before. Shades from a new spectrum. Eyes, cheekbones, skin, lips, hair--- that have always belonged to different worlds. Here, together in one face.
You see a girl behind the counter ofa silk shop. You wonder. How much of that loveliness is Africa? How much
China? How much India? How much Europe? You can't always tell. Sometimes, Africa blends into China into India into Europe. Until the divisions are blurred, the lines of difference, lost. And what comes out is a thing that belongs to none of them. Only to Jamaica. At its best, this new kind of beauty is fragile, dreamy, ethereal. At the yery least, exciting, interesting, unexpected. So who could blame you for not paying attention to the purple silk sari.
But if you can shift your eyes to the silk, you'll see that it is quite a buy. 60% less than you would pay in the States. And those French doeskin gloves. And those Egyptian cottons. 40% less.
Jamaica's duty-free prices are among the lowest in the world. Chivas Regal Scotch, $5.50 a fifth. Seagram's V.O., $2.50 a fifth. 12-vear-old Jamaican rum, $3.00. Aphrodisia-- 60% less. Professional conga drums, hand-made
by Jamaican George Hedley, $22.00. Hand-woven straw bags, $2.50. Nikon, Zeiss Ikon Conta-flex, Rolleiflex cameras, 45% off.
Jamaica? Among other things, it's the world's most beautiful discount house.
For more information about Jamaican eyes, cheekbones or rum, see your travel agent or Jamaica Tourist Board, Dept. 2C, 630 Fifth Avenue, N.Y.C.


The New Yorker, November 30, 1963


ロンがジャマイカ観光委員会のシリーズをあげることは、私には事前に予想できていました。
1968年春に会ったときも「4回ジャマイカを取材し、政府関係者に、一般旅行者の行かないようなところも案内してもらった」と語り、延べ4週間も滞在したうち、いまの奥さんとデートし、食事代を会社につけたうえ、結婚してしまった思い出の地だと告白してくれていたからです。


ロンの現夫人とは、パーカー夫妻が催してくれたホーム・パーティで会いました。
ちなみに、夫人はかつてDDBでコピーライターだった女性で、ジャマイカでデートしていた時は別の代理店(サドラー&ヘネシー社)へ移っていたそうです。
1968年秋に再会したとき、ロンの4人の子どもたちのためにブルックリン地区に家を建てたと言ったあと、「まだ片付かないけど、いつか、ぜひ、来てください」と誘ってくれました。
もっとも、そのころは、ジャマイカ観光委員会は、ロンの手を離れて、ロール・パーカー夫人のチームへ移されており、担当のコピーライターの部屋の本棚には、ジャマイカに関する本が並んでいたのを覚えています。
パーカー夫人が「彼女もロンに負けないようにやっているんだけど、ロンの名文には、とてもかなわないわね」と苦笑しながら、説明してくれました。
米国のある広告評論家も、ジャマイカのシリーズ広告を評して「今日の広告の世界において、もっともすぐれた文章は、たぶん、ジャマイカのそれであろう」「よく練られており、市場の願望を非常に鋭く反映している」と。
さらに言葉を足して「非常にすばらしいフォーマットを用いている。ジャマイカというどでかいロゴが誌面の上部に置かれている。これは単に<ブランド>の明記であるばかりでなく、アートディレクターのボブ・ゲイジのレイアウトに、ドラマチックな衝撃力を加える」と。
もっとも、ジャマイカというロゴの扱いは、観光先を示す広告だから可能ともいえます。これが製品ブランドだったら、その声高の厚かましさに、見手は辟易、反感を持つかもしれません。


ところで、ロンと現夫人とのデートの食事代とは無関係に、数字を示すと、ジャマイカ観光委員会がクライアントとしてDDBに来たのは1963年。
シリーズ広告が本格的にはじまったのは1964年。
1964年には、対前年比で39.6%増しの観光客が訪ね、その年、観光業界で最高の伸びを示したのです。
1966年には38万5,000人の米国人客の誘致を予定し、フランスや英国のそれが50万人前後であるのに比べても、あの小さな島国にしては、とてつもなく大きな目標数字です。


私は、観光広告に対して、一つの見解を持っています。
団体での旅行に依存する場合は、既定のコースからはずれた個人の探索欲をみたすだけの対象を取り上げてはいけない……そんなことを薦めると、そこの市民のプライベートな生活が迷惑をこうむる。
そういう個人の探索欲をそそるような対象の観光広告は、プライベートな一人旅ができるようになった、観光馴れした人たちだけに薦めるべきである…というのです。
ロンが、一般観光客が行かないようなところも政府の担当者に案内してもらったといっているのは、『ニューヨーカー』誌とか『ナショナル・ジオグラフィック』誌のように、定期読者にスマートな旅行者が多い雑誌向けの広告ソースとしてでしょう。


chuukyuu「ジャマイカの広告は、たいへん名文だといわれています。サム・カッツ(DDBのコピーライターで、その後、恋人のスウェーデン女性と一緒に暮らすために退職。ストックホルムの広告代理店で働いている)も、そう言ってました」


ロン「サムはぼくのチームにいたからね。そのころは、週末になるとスウェーデンのフィアンセのところへ飛び、火曜日の朝にでてきていたよ」


chuukyuu「ジャマイカへ取材に行ったのは?」


ロン「ボブ・ゲイジ、写真家のアーウィッツとでは3回。私一人で1回」


chuukyuu 「ジャマイカの広告(注:>>[6分間の道草](27))の、あの魅力的な女性を見つけたのは?」


ロン「マーケットを歩いている時、ボブが偶然にスカウトしたんです」


ちょいと勇気をふるって、200メートルの滝を
ジャマイカのターザンと登ってみませんか。
「お孫さんへの武勇伝になりますよ」


郷に入れば郷に従え、ですよ。燃えるように赤い花を折って髪に挿しませんか。それから、サロンかそれに最も近いものをお巻きなさい(男性は腰巻をお持ちください)。そして、涼しく楽しいダンの滝へ降りて行きましょう。
ビンセントがお連れしますよ。頂上からはちょっとこわいかも知れませんが、ご安心を。ビンセントは滝歩きのベテランです。いままでに一人の怪我人もだしたことがないのです。
本滝のいちばん底へ着いたら、あなたは海岸に出ているのでびっくりなさいますよ。人里離れた、美しいところです。さりとて、あなただけがそこにいらっしゃるというわけにはいきません。ジャマイカ人の家族の幾組かが、いつもここでカリビア海に飛びこんたりしています(これらの優雅なジャマイカたちは、生き方というものを知っているのです。彼らは観光客と同じように、美しい世界を楽しんでいます。そして、その世界を熱愛するすばらしい外国人たちとともに楽しむことを嫌だとはほんのすこしも思ってはいません)。
ジャングル生活をおつづけになると、10センチものバビリオ蝶を、あなたはファーン・ガレイのそばで追いかけることになるでしょう(ここは熱帯植物ガレースのように生い茂っていて、太陽が大地にとどかないほどです)。
あるいは、人跡未踏の奥地深く探検に行ってごらんなさい。地図にも載っていないところ、植民地の逃亡者もすまなかったところです。それとも、海岸をドライブしてワニを撃つのもいいですね(島唯一の野生動物です)。
それからリオ・グランデに登り、竹のバナナ・ボートに乗って動物狩りを楽しんだり、急流下りを満喫しませんか?
太陽が西にゆっくりと沈むころ、そしてその日のジャングルの叙事詩を心ゆくまで味わったころには、あなたはジャマイカの高度に文明施設のととのったホテルへお戻りになるのです。ホテルでは<ジャングル人>よりも<文明人>としての最高の夜をお楽しみいただけるようになっています。


アートディレクター ロバート(ボブ)・ゲイジ




Be a little daring,
Climb down a 600-foot waterfall
with the Jamaican Tarzan.
(You'll have something be tell
your grandchildren.)


Do something corny. Break off a scarlet flame tree blossom for your hair. And wind into a sarong or the closest you can come to one.(Men, bring your loincloth.) Then, splash your way down cool, musical Dunn's River Fall, with Vincent in the lead. From the heights, it looks scary. But relax. Vincent is a professional waterfall walker−−and he hasn't lost a climber yet. When you reach the base of the falls, you'll find yourself standing, surprisingly, on a beach. Remote and lovely. You won't have it all to yourself, though. There's always a family or two of Jamaicans splashing in the Caribbean here. (They know how to live, there beautiful Jamaicans. They enjoy their delightful world as much as visitors do. And they don't mind sharing it with other nice people who have a passion for it.)
To continue your jungle life, you might chase after a six-inch Papilio butterfly through nearby Fern Gulley (so laced with tropical greenery, the sun barely touches the ground). The Land of Look Behind.
Strange, largely unmapped. And inhabited by descendants of plantation runaways. Or drive to the south coast, to shoot alligators (the only wild beasts on the island). Or, to the Rio Grande, for tamer sport, to shoot rapids---on a bamboo banana raft.
When the sun sinks slowly in the west, and you've had enough of this jungle epic for the day, head for one of Jamaica's highly civilized hotels. Any of them can provide you with an evening that will be more
man-of-the-world than man-of-the-jangle.

まず、ローゼンフェルド氏の肩書きを訂正します。 『みごとなコピーライター』を上梓した時(1969)にはたしかにJ.W.トンプソン社の先任副社長兼クリエイティブ・スーパパイザーだったのです。
ところが、 DDBドキュメント』を刊行した時(1970)の肩書きは、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者とつけています。やっぱり、いちばん気の合うシローイッツ氏と会社を設立したのですね。
ただ、この1,2年後に、DDB2という会社もできているのです。何か、関係がありそうな…。しかし、まあ、37年も昔のことですから。
このブログで参考にしていただきたいのは、彼らがつくった広告と、それをつくらせた環境の探索ですからね。




DDBに入るまでと、入った時


chuukyuu「あなたがDDBに入社したのは?」


ロン「1958年です。25歳でした」


彼は、ボルチモアの高校で美術を学び、そこを卒業したばかりの16歳の時、ある地方の店の広告部へ入り、9カ月後にクビになるまで、オフィス・ボーイをやっていたのです。
次には、メイ広告代理店のプロダクション・マネジャーとして働き、ここでレイアウトとコピーの書き方を覚えました。
除隊後は、ボルチモアにある代理店でライターとなり、1年後にはフリーランス・ライターになっていました。
そして、ニューヨークで職を探しました。DDBとマイアミの代理店から声がかかったが、ニューヨークで働きたかったので、DDBを選んだと。


chuukyuu「そのころのDDBは?」


ロン「非常に小さくて、年間の扱い高が、1,200万ドルから1,400万ドルぐらいだったと思います」


chuukyuu「どんな試験でした?」


ロン「フィリス・ロビンソン夫人からいろいろ聞かれましたね。どんな仕事がしたいかとか、なぜDDBに入りたいかとか…。
それから、作品を見てくれました。それは、DDBがつくっているようなものではなかったけれど、ハンディ・キャップのある環境で努力している点を買ってくれました」


chuukyuuDDBで最初に担当したのは?」


ロン「マックス・ファクターです。いまはもう扱っていませんが、当時、ミス・ユニバースのコンテストがあって、盛大に広告をやっていたものです。
それからポラロイド、これをスティーブ・アレン・ショーで使いました。
さらに、ケムストランド・ナイロンなどを手がけました」
その後、ELALイスラエル航空、ラインゴールド・ビール、カルバート・エクストラ・ウィスキー、ソニー……など、数多くの商品を担当して成功させました。

DDBのコピーライター指導法


chuukyuu「ロビンソン夫人は、どのように指導してくれましたか?」


ロン「書いたコピーの全部に目を通してくれ、単調な時にはどこがよくないか指摘してくれたり、言葉づかいなども直してくれました。
私にとって、彼女は非常に助けになりました。
また、彼女の作品を読むこともたいへんな勉強になりました。
デビッド・ライダー氏からも、かなり指導を受けました。彼がやっているキャンペーンで、手がまわりきらないときには、代作したこともあります。ライダー氏のスタイルを真似てやったので、ほかの人には私がやったと気づかれなかったようです。
真似たといっても、ライダー氏のスタイルをコピーしたのではありませんよ。あの人の根本的な方法を理解しようと努めた結果、そうなったのです」


chuukyuu「いまのあなたの指導法は?」


ロン「ライダー氏、ロビンソン夫人が私に教えてくれたのと同じような方法をとっています。若い人の作品を読んでみて、きまりきった言葉とか弱い表現、面白くない表現があったら、より良い言い方を、すすめるようにしています。
とくに私は、リズムということを強調します。どんなコピーでもそこにはリズムがあります。こわしてはいけないものです。で、彼らと意見が違う時には、彼らの意見に耳を傾けます。
こうして、私も彼らから学ぶし、彼らも私から学ぶのです。けっきょく、これが教える側にもプラスになるわけですね」
かつて、ロンの部下で、いまはスウェーデンの広告代理店でコピーを書いているサム・カッツくんも、「文章なんか直さないさ。そんなことをしたらそのライターがダメになってしまうもの。徹底的に話しあうんだよ」と、指導法を述べてくれたのを思い出します。

バーンバック氏の指導法


chuukyuuバーンバック会長が話してくれたことで、いちばん印象的な言葉は?」


ロン「問題の核心をつかめ…ということですね。利口ぶった態度をとらない……問題というものを一つだけ離して考えない…クライアントが、これが問題だといって持ってきたものでも、必ずしも本当の問題でない場合がある。
だから、自らすすんで、どこに本質的な問題があるか、なにを最初に解決すべきかを見つける…すると、クライアントが意識していた問題と違う問題があるかもしれない……という助言がいちばん印象的です」


chuukyuu「その助言を、どんな時に思いだしますか?」


ロン「もう、あらゆる時に、です。自分自身がアイデアを求めているときとか、部下を指導している時とか…あらゆる時にです」


DDBの中堅幹部たちの話をきいていると、バーンバック会長がどこかのスピーチでしゃべったのと同じ意味のことをよく耳にします。そこで、いつだったか、ロンに、「DDBでは、バーンバックさんの講演速記でも配布しているの?」と尋ねたことがあります。
「頼めばくれるんだろうが、そんなものを読まなくたって、いつでも、じかに、ビル(バーンバック氏の愛称)とはなしているんだもの」
と答えられました。


ライターは、自分自身に忠実であれ


chuukyuu「今日の米国で、才能豊かなコピーライターであれば、どんな代理店で働いていても、良いコピーが書けると思いますか? あるいは、働いている代理店によると思いますか?」


ロン「働いている代理店によって、大きく左右されると思いますね。
知っている非常に才能のあるコピーライターの一人は、ある代理店で、良い仕事が与えられなくて苦しんでいます。その代理店の経営者が、良い仕事ということに対しての価値基準を持っていないからです。そして、その経営者には、良い作品を売り込む能力が欠けているからです。だから、そこでは、全然違うものがライターに要求されるわけです。
逆の例も知っています。そのライターは、その代理店ではあまり良い仕事をしなかったのですが、代理店を移ってから、とたんに良い仕事をしはじめたのです。
そのライターに向いていない仕事をさせることで、非常に損をしている代理店が多いでしょうね」


chuukyuu「良いコピーを書くための、考えをまとめてくださいませんか」


ロン「まず第一に、自分自身に忠実であれ…ということですね。
それから、こまかいことにも気を配る……ということです。問題を探りだす。そして製品を十分に理解する。自分ひとりで書く……ほかの人の意向を気にしない。その結果が正しくないかは、その結果にまてばいいのです。自分が正しいアプローチを持っていて、商品に対する知識を十分に持っていれば、あとは自分自身に対して忠実であればいいのです。もちろん、その場合に、熟練した技術(skill)を持っていることが必要条件であることは言うまでもありませんね。
私は、自分自身のやり方に忠実であるということが、もっとも大切だと思います」


成功したグレート・デーの白髪染め


chuukyuu「さて、もう一つの…グレート・デイ白髪染めがお気に入りの理由は?」


ロン「グレート・デイというのは、男性のための白髪染めです。これは非常にむずかしかった。これの問題は、たいていの男性が、髪を染めるなんて、男のすることじゃないって考えていたことです。実際、クライアントからそう聞いた時には、私もそう思ったんです。
しかし、そのあとで考えなおしてみたんです。男が髪を染めて若く見せる……元気に見せる。これは、良い洋服を着たい、良いシャツを着たいと考えるのと同じことではないか……というふうに。
ですから、男性が髪を染めることは、決して悪いことじゃない、女性的じゃないように訴えればいいと思いついたのです。


で、この広告ですが、モデルの毛髪の半分をグレーのままにしておき、半分を黒く染め、そのヘッドライン(見出し)で、
「グレーの部分を手で隠してごらんなさい。どんなに若くなるか、お分かりですね」
とやったのです。さらに、
「黒い髪を隠してごらんなさい。老けちゃうでしょう」
とつづけました。手を交互に置き換えて、
若い/老ける/若い/老ける……
と実感してみるようにすすめました。
このコピーのスタイルですが、古いスタイルです。長いコピーです」


chuukyuu「メール・オーダー広告式のコピーだったおっしゃりたいのでしょう?」


ロン「ジョン・ケープルス式のスタイルです。こういうスタイルは、過去20年か30年は使われなかったスタイルです。私があえてこのスタイルのコピーを使ったのは、男性の心の中に、髪を染めることに対して抵抗がいくつかある、その抵抗を取り除いてこの製品を売り込みたいと考えたからです。
ですから、コピーの中で問題点をひとつひとつ取り上げて説得しました。
私としては、これは非常に成功した広告と思っています」


 


【訳文 大意】


グレーの部分を手で隠してごらんなさい。
どんなに若返るか、おわかりですね。


<写真のグレーの部分を手で覆って若返らせてください。黒髪のほうを覆って老けさせてごらんなさい>
若い/老ける/若い/老ける/若い/老ける/若い/老ける/若い/老ける……手を移動させるたびにこうなるのです。これであることが証さされます。グレーの髪はあなたを老けて見せ、黒髪は若く見せるのです。
あなたはこの事実をご存じだったかどうか……疑わしいですね。
こうなる前に、なんらかの手をおうちになるべきでしたね。
あなたは、きっとこうお答えになるでしょうね。
気おくれしてた。
ドラックストアのほかの客たちを気にしながら、「女房のために」とそっとおっしゃって、婦人用の白髪染めを求めになるでしょうね。
明らかに染めたとわかってしまうので、友人たちにそのことを見抜かれた時の気まずさ……「おい、見てやれよ。チャーリーが髪を染めてるぜ」とからかわれもするんですからね。
白髪染めローションの使い方の厄介さとわずらわしさ……それに髪をいためはしないかという不安と値段に対する気おくれ。
気おくれの最大の原因となっているのは……グレーの髪をいじるということは、『芸人』『政治屋』ならいざしらず、『普通』の人がやるには仰々しすぎるという考え方です。


男性用グレート・デイ


まず、最後にあげた心配を検討してみましょう。というのは、あなたからその不安を取り除いてあげられれば、残りのこともすっかり解決してしまえる新しい製品があるからです(クレアロール・リサーチの「グレート・デイ」がそれです。あとで詳しくお話しします)。
あなたの想像以上の殿方たちが10年前には、ほんのわずかの俳優だけが髪を染めていたものでした。ところがその後、目立たないところで驚くべき変化が起きたのです(これまで、男性用の良い製品がつくられていなかったこともあきれるべきことですがね)。今日、こうした慣例を破って、髪を染めて新しい人生を歩んでいる男性は、200万人以上もいると言われていす。この人たちのほとんどは、舞台に立ったことなど一度もないはずです、講演は別としてね。多くの銀行家、弁護士、証券マン、医師、広告界の人、営業所長、官吏、農夫、沖中仕、教師、トラック運転手、警官などがそうです。ブラッシングなしでね。
この人たちは、実年齢よりも老けて見られるのは嫌だという気持ちで共通しています(グレーの髪ほど老けて見えるものはありませんからね)。職業柄、若く見られたいと望んでいます(さあ、問題を考えてみましょう。なんといったって、この社会では、若々しさこそが価値があるものとされているのです)。今日では、中年の重役さんが実年齢以上に老けて見えた場合には、社内の競争的立場では損をします。ましてや、職さがしともなれば、条件はもっと悪くなります。(以下略)




Put your hand over the gray harf
and see how much younger I look.


Cover the gray hair in the photo and the years go, Cover the dark hair and the years come clumping back.
young / old / young / old / young / old / young / old---it happens every time you shift your hand, Which goes to prove just one thing, Gray hair makes you look older. And dark hair makes you look younger.
But we suspect you've known that all along. Then how come you didn't do something about it before now?
We suspect you know the answer to that one. too.
The embarrassment.
The embarrassment of having to stand in a crowded drugstore and ask, nervously, for a
bottle of women's haircoloring "for-uh-your wife:"
The embarrassment of having friends (and unfriends) spot what you did because it
looked phoney-and kid you about it-"Hey, fellows, look---Charley dyed his hair."
The embarrassment of having to suffer through a complicated haircoloring routineplus the fear that it would hurt your hair, and be expensive,
And finally, there was the biggest embarrassment of all-the funy feeling that doing
something to your gray was too flashy, too "show biz" not something a "regular fellow"
ought to do.


GREAT DAY
For Men


Well, let's take the last worry first. Becausse if we can get you over that one, we have a new product that solves all the other problems. (It's callcd "Great Day." From Clairol Research. More about it later.)

More Men
Than You Think


It may have been true ten years ago that only a few actor colored their hair. But since then a minor, and somewhat surprising, revolution has taken place. (Surprising when you consider that there hasn't even been a really good men's product on the market until now.) Today it's estimatcd that over 2,000,000 men from all walks of life have hroken with tradition and have done something about their gray hair. And most of them have never even set foot on a stage. Except maybe to make a speech. Already, a lot of very proper bankers, lawyers, brokers, doctors, advertising executives, sales managers, government people, farmers, longshoremcn, teachers, truck drivers and police officers do it. Without blushing.
They all have one thing in common: they don't want to look old before their time. (And nothing makes a man look old before his time like gray hair,) Some men want to look younger for personal reasons, others for professional reasons. (Let's face it, unfair as it
may be, a premium is put on youth in our society. Today, if a middle-aged executive looks too old he may be in a weakened competitive position within his company. And if he has to go out to look for a job, he's in an even worse position.)


You're Fooled
EveryDay


Dozens of men who pass you on the street every day have taken the premature gray out of their hair. Some you notice. Some you don't. But to get that unnoticeable color most of them have had to spend a small fortune having it done professionally with complicated products that cost $8, $10, even $12 an application. Or else they're using their wives.
Clairol haircolorillg...which is fine for women bnt just wasn't designed for a man's haircoloring needs.
Now, finally there's a product designed especially for men---a product that won't embarrass you in any way. Great Day. With Creat Day a man can return his graying hair to a soft, rich, natural-looking color in the privacy of his own hath room, or have it done in any good barber shop. Without any of the worries.
Great Day works like a shmpoo. Once every two weeks or so (depending: on how fast your hair grows), you pour it on---straight from the hbottle.No mixing needed.)
Lather it in, let it sit, rinse it off. No complications. Leather it on a few miniutes each time, and you color the grayl gradually. If you want to take the plunge all at once, just leave it on longer before rinsing.


Nobody Notices


Great Day doesn't change ypur natural hair color. It only works on the gray. The change is subtle. Amazingly, even though you're very conscious of what you've done, experience has shown that most people don't even notice the difference in color. Only the effect. "Say, Charley. you look great. Did you lose weight or something?"


Your Pillow
Won'tTalk


Great Day goes inside your gray hair shalfts. So it can't rush off on your collar, or on the pillow. It contains no peroxide in any form. So it can't make your hair glow with orangey- red highlights. It dosn't harm your hair in any way. (Actually, it leaves yom hair in better condition.) It doesn't affect the texture of your hair at all. But just by making it darker, it doee make it look somewhat fuller. (Nobody will mind that extra benefit.)
Great Day is made hy Clairol, the world's leaging authority on hircoloring. RememBer the Clairor slogan "Hair color so natural only her" hairdresser knows for sure? WelL, after yearrs of laboratory work and thousands of tests on gfrey-haired men, now Clairol can say, "Hair (color so natura1 only his barber knows for sure. And unless your barber applied it to your hair himself, even he won't be absolutely certain.
Muster up your courage a little---and do something ahout your grey hair.
It's nice to look young.