創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](11-3)

第11章コピーの信頼(3)


資料庫を数ヶ月にわたり、思いついては捜したのは、きょう引例したこの広告と、明日お見せするカラーの現物です。2点とも、カラーとモノクロでは、衝撃力・説得力が格段にちがいます。
いくら捜してもみあたらないので---ということは、どこかの雑誌に貸し出したまま返されていないのでしょう。
パソコン記録、ネット時代がもう40年早くきていたら、こういう事態にはならなかった。記録もカラーのものはカラーでスキャニングしておけるし、雑誌だって引用のカラー素材はCDの付録にしたでしょう。


ま、早く生まれすぎたことを悔やむより、DDBを中心とした広告の[クリエイティブ革命]の真ッただ中にいて観察できたこと、興奮しながら生きたことを嘉としましょう。



>>『効果的なコピー作法』目次


(このカラー版は、khalki さんにお手配いただきました。感謝)


スーパーマーケットのお買物から、アラマアを取りのぞいたのは、だれか?


冷凍食品の外装は濡れているものです。ミルク・コンテナーにしても然り。その上に1週間分の食料品をのせれれば、アラマア!です。そこで、食料品店の人は、袋を2枚重ねてうまくやろうとします。でも、袋を2枚重ねればコストも倍かさみます。オリンは、ウォーターバフを開発しました。耐水性の袋で、濡れた食料品をつめこんでも、45分間はゆうにもちます。ということは、店員さんも1枚の袋ですむというわけになります。ご店主は1枚分だけの袋代ですみます。1枚の袋で、お宅まで無事お持ち帰りになれます。オリンのパッケージ事業部からの・・・・・・もうひとつのクリエイティブな問題解決です。

テクニック(11-3)


しかし、オリンの「スニーカーの生徒たちの中から、科学者を発見するのは、だれか?」の広告は、信頼を目的としたコーポレイト広告だけに、問題でしょう。


ついでですから、書きそえておきますと、オリンのこのシリーズは、将来のよき従業員と見込み株主を目的としたものであって、直接製品を販売しようとするものではないと、アートディレクターのゲイジ氏がいっていました。


私は、オリンのシリーズのなかでは、この「科学者を発見---」の広告が、じつはいちばん好きです。
とくに、『ライフ』誌のコピーが好きです。
どこが好きかといいますと、実験教室の結果というような、ともすれば理詰めになりがちなテーマを、読者の共感ということを十分に考えて書いているからです。
コピー担当のロビンソン夫人もこれがいちばんお気に入りと見えて、畏友・村瀬 尚氏(森永製菓)に自選作品として、これをことづけてよこしました。


さて、信頼を得るには、権威や社会的承認を使うこともあります。
このオリンの広告では、後半、たくみにそれを利用しています。
教育委員会」「格別有能な化学の教師」「カレッジ程度の化学」「地方学校の監督」などなどを、じつにうまくちりばめています。
これは、ある種の権威ですが、それを主体としているのでほありません。主体はあくまで、子どもたちの讃美という、いたって感情的な要素です。
しかも、「60人中55人」とか、「8万ドルの奨学金」とか、「400人のアインシュタイン」とかいった真実性につながる数字も入っているのです。
こういう、たくみな共感的コピーを読まされると、数字すらが信痕にかわっていくから奇妙です。
段ボール箱のコピーや、ショッピング紙バッグの広告になると、信頼の原因が、猫ということばと猫の絵といった簡単きわまるものであり、アラマア!ということばと底の破れた袋の絵という、きわめて単純なものであることにお気づきになるでしょう。


とにかく、信頼という、不思議な心理状態も、広告の世界では、一読、即座に「ナルホド」と思わせる技術であることはおわかりいただけたでしょう。


しかしそれには、相応のテクニックが必要なのです。
M・デボーは、"Effective Advertising Copy" で、


(1) 利便を特質で補強する
(2) 利便を他の利便で補強する
(3) 主張をはっきり出す
(4) 誠実味のある推奨(テストモニアル)を用いる
(5) 事例を提出する
(6) 製品の人気についての話
(7) 権威者のことばを用いる
(8) 認可証紙を引用する
(9) 構造上の証明を示す
(10) 実験による発見事項を提出する
(11) 見本提供
(12) 保証提供
(13) イラストレーションを信じられるものにする
(14) 正直なグラフィック・デザインにする


もちろんデポーも、このなかの1つだけを広告に用いれば、信頼が得られるとは考えてはいません。
このなかの2つか3つ、あるいはそれ以上を組み合わすことによって効果があがるというのです。


また、それぞれのテクニックの使い方にも注意を要します。
たとえば、認可証(JIS承認とかデミング賞といったもの)を、広告のはじまりの部分にデンと置いてみたところで、読者が興味を示すとは限りません。
(一読、即座に「ナルホド」を思いだしてください)。
権威者の声で冒頭を飾っても、信頼されるとは限りません。
とくに、この権威者のことばというのは、ともすれば間違いやすいものです。その製品に真にふさわしい権威者でなければならないのです。権威者というのは、有名人のことではありません。権威者=有名人=映画俳優(タレント)といった考えをよくしがちですが、これなんかは無知というべきです。
映画俳優が働くのは、もっぱら推奨の場です。ただし、彼(彼女)らの推奨が効くのは、一般的にいって化粧品、化粧用薬品、フアッションといったところでしょう。
ただ、それすらも、ほんとうの推奨と呼べるかどうかは疑問があります。彼(彼女)らが実際にそれを使っている場合に限ってほんとうの推奨というべきで、そうでない場合は、擬似推奨でしょう。
が、効果としては、ほんとうの推奨であろうが擬似推奨であろうが、一部の人以外にはあまり差はないでしょう。
けれども、コピーライターとしては、ほんとうの推奨と擬似推奨の区別をちゃんとわきまえておく必要があります。
ほんとうの推奨というのは、3つの要素が備わっていなければならないといわれています。それは、(1) 広告される製品の推奨者としてのひとり、あるいは数人のんとうの写真か文、(2) その推奨者であると見わけられるもの(たとえば肩書き、住所、職業と名前)、(3) 推奨のことばです。したがって、そのことばは第一人称でなければなりません。


擬似推奨というのは、この3つのうち、どれかが欠けたものです。
たとえば顔写真と氏名は載っているのだが、本人のことばが1人称で書いてないとか、顔写真と1人称のことばはあっても、当人の身分氏名が伏せてあるとかです。
時によると、実在の人物でない場合もあります。
「サンヨー夫人」なんかがその例でしょう。
推奨広告が、すべて信頼されるとは限りません。


>>「コピーと絵」に、つづく


お願いきょう引用の広告のカラー版をスクラップなさっているか、これをカラーで掲載紹介した印刷媒体をご貯蔵の方、できたら、借用させてください。


参照・復習
フィリス・ロビンソン夫人とのインタビュー
(12345678了)


「世界中の女性コピーライターへ」
"Advertising Age" 1968年7月15日号
インタビュアー:John Revett
「コピーライター栄誉の殿堂」入りを、コピーチーフで1968年に初めて受賞したときの一問一答です。



チャック・コルイ氏とのインタヴュー
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>>「コピーと絵」に、つづく