創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](8−2)


第8章 コピーのユーモア(2)

トナカイが飛べるなんて柾拠はどこにも
ないんだし。だいたい、ひとりの人間が、
一夜のうちに世界中の煙突にいけるなんて話、
バカげてると思うな







何でもわかってるつもりの人たちもいます! でもね、ぼっちゃん、サンタはいるんてすよ。いや、ほんとに。感謝祭のころから、サンタは、君たちへのプレゼントを用意します。君たちが喜ぶ玩具、それで遊ぶときに君たちが着るもの、そうして、そういったものが安全なように、サンタはオーバックにしまっておくのです。さて、Xマスがきて、彼がちょっぴり忙しくて、約束の日に全部の煙突をまわることができないと---彼はすはらしいおかあさん・おとうさんたちに手伝ってほしいと加頼むのです。ほんとですよ。これがサンタについてのほんとのお話し---そして、これが、たくさんのおかあさん・おとうさんが、子どもたちへのクリスマスの贈物のためにオーバックスへ出かける理由です。


ユーモアのある広告(8−1)


私はあるところに「ユーモアのある広告」と題するエッセイを発表したことがあります。ところが意外に大な反響があって、じつはいささか驚きました。エッセイの内容は、ざっとこんなものでした。(注:『電通報』1963.1.31号

二ューヨークのオーバックス百貨店が、ここ2,3年間にタイムズに出した新聞広告を集めて読んでみました。
オーバックスの広告といえは、いまでは伝説化している、ネコが婦人帽をかぶり火のついたシガレットを細いホルダーでくゆらしている、例のあの広告が有名です。



ジョーンの秘密がわかりましてよ。


彼女の話すのをお聞きになったら、あなただってきっと、この人ったら名士録に載るほどの人だなってお思いになってよ。でも、私、彼女の秘密をつかみましたことよ。ご主人が銀行家だろう---ですって? とんでもございません。銀行口座すらありませんわ。それに彼女の住んでいるあの邸宅だって抵当に入っているのよ! 想像できて? それなのにあんなにたくさんの衣装! ええ、もちろん、彼女は着こなし上手ですわ。 でも、ほんとうのところ、ミンクのストールやパリ製のスーヅや、あんなにたくさんの衣装が、ご主人の収入で買えるとお思いになれる? そこなの、私の発見は---ジョーンを尾行しましたのよ、そしたら彼女、オーバックスから出てきましたわ!


しかし、いろいろ集めて読んででみると、愛猫家を気絶させた、あの伝説的広告告よりも、もっと楽しいやつが、たくさんありました。たとえば70歳よりも上ともえる婆さんの顔をアップした写真に「オーバックス? オーバックス? オーバックスって何だい?」っというヘッドラインものなど問わせたのや(>>作品)、70歳ぐらいのじいさんの顔のアップ写真に、「スクルージでさえニンマリする」というヘッドラインを添えたもの(>>作品)など。スクルージというのは、ご存じのクリスマス・キャロルにでてくるケチンボじいさんです。
広告を読んだりしていて楽しくなることは、そうメッタにあるものではありません。(中略)


広告を読んで楽しくなる、そういった広告にフォルクスワーゲンの広告があります。
最近出たもの1つに、 コカコーラのびんとVWビートルをならべておいて、
「世界中に知られている2つの形」というへッドラインにつづいて、「いまやもう、だれも、コークのびんとフォルクスワーゲンのことを奇妙に思わなくなりました。2つとも、とてもよく知られてきて、その国の風景の中にとけこんでしまっています。その国の風景がどうかわっても問題ではないのです。あなたはVWを、136ヶ国のどこででも、歩いていって買うことができるのです」
と、ボディ・コピーでうけ、VWの繁栄がその機能のよさにあることを述べ、
フォルクスワーゲンを北極でお求めになれないただ1つの理由は、私たちがお売りしようとしいからです。あのあたりには、VWのサービス網がないものですから---)
けれども、コークは北極でも買えるそうですね。
フォルクスワーゲンの先を越すことのできるものが1つだけあるんだな----と私たちは考えました。コークのトラックです。



世界中に知られている、二つの形。


いまや、誰も、コークの瓶とフォルクワーゲンのことを、ことさら奇妙に思わなくなりました。
二つとも、とてもよく知られてきて、その国の風景の中にとけこんでしまったのです。
その国の風景がどう変わっていても、問題ではないのです。あなたは、VWを、136ヶ国のどこででも、歩いて行って買うことができるのです。
しかも、それは、あちこちでよく見かける風景なのです。
砂漠、山岳地、暑いところ、寒いところ。
フォルクスワーゲンは、繁栄をつづけています。
暑さ寒さは問題ではありません。VWのエンジンは空冷式なので冷却水を使わないので、凍りついたり沸騰することがないのです。
しかも、エンジンが後部にあるということが、ぬかるみや、砂地や雪道にさしかかったとき、たいへんな差をつけます。
重量が動輪の上にあるので、すごい牽引力を発揮します。
タスマニアであろうと、トレドであろうと、サービスがいいのでVWはどこを走っていても安心です。
(フォルクスワーゲンを北極でお求めになれないただ一つの理由は私たちがお売りしようとしないからです。あのあたりには、VWのサービス網がないものですから)。
けれども、コークは北極でも買えるそうですね。
フォルクスワーゲンの先を越すことができるものが一つだけあるのだな---と私たちは考えました。
コークのトラックです。

VWの広告のうちでは、ユーモアをそれほどきかせたもののほうではありません。が、それでもこの程度です。(中略)
VWの広告のユーモアについて、この広告をつくっているDDB代理店のVW担当のアカウント・マネジャー、E・R・マックネイリ一氏が、手紙でこう教えてくれました。
「VWの広告の表現の基本ポリシーは、正直にやること、単純にやること、インフォマテイブリーにやることです。ところでユーモアですが、人はおもしろくなければ読みません、読まれなければ信頗されません」
わかりきったことですが、改めて「人はおもしろくなければ読みません、読まれなければ信頼されません」といわれてみると、日本には、おもしろさの配慮をしないインフォマテイブリーな広告が、最近(注:40年前)多い。
いままで日本で、広告のユーモアを論じるときには、サヴィニャックなどがひきあいに出されたものもすが、ああいった、セールズ・トークとあまり関係のないユーモアではなくて、オーバックすのように、VWのように、そして最近のウルフシュミッツ・ウォッカのように、セールズ・アイデアに密着していて、しかも、それをわかりやすく、おもしろく伝達するためにユーモアを入れる広告のつくり方は、あまり問題になりませんでした。(中略)


調査とか、会議とかで、アイデアががんじがらめになって、生気もユーモアもない広告が多くなっているのですから、いまこそ、ユーモアのある広告が大衆にうけいれられそうです。(後略)


ながながと引用してしまいましたが、じつはこれで半分なのです。このエッセイで、私がいいたりなかったこと--- 「ユーモアのある広告」と「ユーモア広告」のちいです。反響の大部分は、この「ユーモアのある広告」と「ユーモア広告」を混同して考えている万々からのものでした。
まず、この点から解明しましょう。


>>「ユーモア広告」に続く




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クルマの広告』(ロング新書 2008.12.10 905円+税)
アマゾンでもお求めになれるはずです(ぼくは、いまだに、アマゾンで買った体験がないので---)。