創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](8-1)


早書きの例の本---と自嘲している、『効果的なコピー作法』(誠文堂新光社 1963.12.15)に積み残したままになっていた章の落ち穂拾い---いや、遠慮は美徳のこの国では「残りものに福あり」ともいいます。
関西の家電メーカーの宣伝部から、日本デザインセンターにコピー・チーフとして入りました。49年ほど前です。30歳でした。入社して驚いたのは、服装が自由なこととか、部屋的にアートディレクターが優遇されていたとかではありませんでした(窓側の部屋はすべて役員室とデザイナーに割り当てられていて、コビー部は窓なしの部屋でした)。
そんなことではなく、『ニューヨーク・タイムズ』紙が航空便で毎日取り寄せられていたことでした。記事で世界の経済に強くなるためではなく、広告をチェックするため。慶大の正式の司書の資格をもった小栗さんという有能な女性がスクラップしてくれていました。初めてオーバックスの広告に触れ、心臓の動悸がしばらく止まりませんでしたね。広告観が一変するほどの衝撃でした。
若気の過ちで、月刊『ブレーン』誌に「効果的なコピー作法」を連載する羽目になり、その一章にさっそく引用したのが、オーバックスの広告でした。



第8章 コピーのユーモア


なぜ、日本の広告にはユーモアが少ないのでしょう?
いや、ユーモアは販売の邪魔ものでしょうか?
広告にユーモアをもちこんで大成功を収めた、
DDB代理店の[オーバックス]の広告を
引用しにながら「ユーモアのある広告」の意味を
明らかにし、
さらにコピーライターがユーモアを
用いるときの心得を解説。


オーバックス?
オーバックス?
オーバックスって何だい?


おやまあ! どなたもご存じ、と思っていたんですが---。このご婦人のご利益のために説明してさしあげましょう。奥さま、オーバックスというのは有名なショッピング・センターです。世界中のハイ・ファッションを売る店です。数百万のビジネスで数ぺニーの利益」--ほこの主張が、この店にすごく安い値段で商売をさせている根拠なのです。この店では、すべてのものが新鮮で美しく、品かずが豊かで、
あなたが身におつけになるものなら(長眼鏡だけは別です!)何でもあるのです。つまり、奥さま、この店は、きっとあなたのお気に召すはず---あなたはきっと、お友だちにも、オーバックスが何なのか、吹聴なさるようになりますよ。


掲載日:1959.3.29
(新聞1ページ大。左端は記事面)

もう、お切りつめになる必要はありません。


私たちがやります。あなたが、エレガントなファッションはエレガントな収入のある人だけのものとお考えなら、あなたはオーバックスの仲間です。私たちは、唯一の原則ロー・プライスでハイ・ファッションを守りつづけています。しかも、時々安いというのとは、わけが違います。年に2,3回「大売出し」と叫ぶのは、どこでもやっていることです。でも、新鮮で美しいドレスを、驚くべき値段で連日提供するにはタフでなけれれなりません。生活費にかかるお金というものを注意深く観察していらっしゃる方なら、価格というものは風船のようなものだということにお気づきでしょう。下げるよりは上げる方がずっと簡単なのです。オーバックスは、 この風船を3年間コントロールしてきました。経験によって、系列店の総力を結集することにより、切りつめることによって...オーバックスは1銭でも払いたくないのです。お恵みはまっぴらです。そして私たちはそれをきれいなドレスでつつもうとも思いません。フリルが少なけれ
ば少ないほど、私たちはあなたと仲よくなるの忙手間がはふけるのです。あなたがオーバックでお求めになると、あんなに安くてすむわけはこれです。ハイファッションは必ずしもハイ・プライスを必要としないということをご存知じの幾百万のご家庭に、あなたもお仲間入りしてください。入会金をオーバックスクにお持ちください。

スクルージでさえニンマリする。


なぜかって? オーバックのXマスだからですって? 楽しさに湧きたっているからですって? 当店のすべてのコーナーが(人形、ネクタイ、靴下、洋服、スエークー、ブラウス、ハンドバッグ、腕輪などと全店あげての鈴や飾りつけで)楽しく輝いているからですって? バカおっしゃい。 この老人の心をやわらげているのは、これですよ---- オーバックスクの価格がすごく安くて----彼のケチを満足させてくれるのです。さて、あなたも実質をともなったロー・プライスが好きだとおっしゃるのなら、どうぞお出かけください。あなたは、きっと、ニンマリしっぱなし!  P.S.すごいアイデア:オ-バックスのギフト・カードをどうぞ!




















スクルージ爺さんのことは、欧米の賢い子なら、みんな童話で読んでいる。

「おいおい、厚労省からの後期高齢者向けのバラまき通達?」「えっ? 巣鴨の地蔵通り商店街の大売出し?」なんて、皮肉はいいっこなし。あなたは、美人モデルの写真ばかり載せている、どこかの国のデパートの広告に毒されてすぎているのかも。


>>「ユーモアのある広告」に続く