(452)ボブ・エルゴート氏とのインタヴュー(1)
ヤング&ルビカム社 副社長兼アソシエイト・クリエイティテブ・ディレクター(1970年当時)
1970年4月30日、ニューヨーク・ヒルトンでのアンディ賞のパーティーでエルゴート氏は、いくつかの賞を受けた。
それは、公共キャンぺーンとリンゼイ市長の選挙キャンペーンにたいしてのもので、私は、新しいタイプのライターの誕生を予感した。
社会奉仕キャンペーンと選挙広告が好き
1968年秋にニューヨークを訪ね、Y&R広告代理店を取材した時、同社でアート・スーパバイザーをしている日系2世のムツオ・ヤスムラ氏が、「ギブ・ア・ダム」キャンペーンを指し、「これは、来年度、多くの広告賞を受けるべき広告だよ」と予言してくれました。
そしてその予言どおり、このキャンペーンはすべての広告賞を得ました。
エルゴート氏は、仲間たちから注目され一躍スターの席についたのですが、会った感じではそうした雰囲気はなく,すごく謙虚な口調で話しが始まりました。
chuukyuu 「あなたがこれまでにおつくりになった広告の中で、とくに気に入っていらっしゃるものを2点挙げてその理由を話してください」
エルゴート氏 「わがままをお許しいただいて3点挙げさせていただきたいのですが---。
『ギブ・ア・ダム』キャンペーンの『家主』と『葬式』のコマーシャル。
それとリンゼイ市長のための『ミステーク』のコマーシャルなんです。
『家主』のコマーシャルが気に入っているわけは、それが、白人を除くすべての人種の半分近くが標準以下や狭い家に住むことを余儀なくされているという事実をありのままの数字で表わしているからであり、また、私たち誰もがこれまでに一度は経験しているアパートさがしのむずかしさというものとを結びつけているからなのです。
ニューヨーク都市連合のために私たちがっくったすべてのコマーシャルと同様に、『家主』のそれも包み隠しのないものなのです。
哲学的なものでも観念論的なものでもありません。
芝居がかった偽りを全面的に避けたことが、このコマーシャルを力強いものにする支えとなっています。
2番目の『葬式』のコマーシャルは、私がこれまでにつくったコマーシャルの中で、恐らくもっとも力のこもったものだと思います。
これは『ギブ・ア・ダム』キャンペーンの2年目につくったものですが、人びとはニューヨークやデトロイトやワッツで起こった騒動を忘れようとしているようでした。
そのため,私たちは人びとにショックを与えてこのキャンペーンがまだ終わっていないことを知ってもらうために、派手なキャンペーンを展開しながらこの静止状態を打開することで責任を果たしたのです。
このキャンペーンもまた事実にもとづいてつくられたものなのですが、ただ『家主』のフィルムと違うのは、こちらのほうが感情訴求効果を狙っている点です。
わが国のゲットーの状態は非常に悪く、黒人の赤ん坊の多くが死んでいく状態にあるのです。
3番目は、リンゼイ市長が彼の過ちを認めているコマーシャルです。
私の知っている限りでは、こうしたものは政界では初めてのものです。つまり、これは政治家が大衆に向かってその非を認めた初めてのものなのです。
ところが、これが単にコマーシャル目的でつくられたものであるにもかかわらず、私たち
が市長のためにつくったもっとも効果的な広告となったことに、疑いをはさむ余地がないのです。
さて、ここで以上挙げましたコマーシャルは、 3つとも私とトニー・イジドーとマーブ・レフコーウィツが組んでつくったものであることをお話ししておく必要があります。
トニーはライターで、マーブはアートディレクターで、私たち3人のチームワークは常に優秀なものを生み出してきました。
彼らの協力がなかったら、恐らく私はこうして挙げたコマーシャルをつくることはできなかったでしょう」
ギブ・ア・ダム「家主」
家主「このアパートを見つけた君はツイてるよ。5階だから歩いて登ってくるのにひどく疲れることもないし、しかも街の騒音もここまでは届かないし。
これが居間。
この前、ここにいた女性はあまり部屋を大事にしすぎるということはなかった。
ここが台所。
窓が二つある。それにたっぷりはいる冷蔵庫もついているよ。
よいオーブンだろう。寒くなると調法だよ。
さあ、ここがバスルーム。
これに15セントの小さな座金をつければ直るさ。角の金物屋で売ってるよ。
つぎは、手ごろな広さの寝室。彼女はここにベッドを3つ入れていたよ。
これで全部だ。この部屋にはいりたいっていう者はほかにもたくさんいるんで、今返事がほしいんだが?
はいるかい。それともやめとくかい?」
声「借りるよ」
アナ「ノン・ホワイトの約半数は標準以下の家に押し込まれています。 ニュー・ヨーク都市連合を通じて彼らを助けることもできるのです。仕事をください。寄付してください。せめて、関心を払ってください」