創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(455)ボブ・エルゴート氏とのインタヴュー(了)


エルゴート氏とのインタヴューのアップ終了をもって、拙編著『みごとなコピーライター』(1969.7.15)と『劇的なコピーライター』(1971.3.10)に収録した24人全員を、2年近くを要してネット上に再録することができました。ぼくを追い抜いて行く人たちの指標の一つになっていれば幸いです。ただ、気になっているのは、40年後の24人の消息です。一人でも二人でも、お知りになった方は、このブログへ一言、書き添えていただければ、両拙編著は完成したことになるのですが---。


ヤング&ルビカム社 副社長兼アソシエイト・クリエイティテブ・ディレクター(1970年当時) 


誰からも信用される説得力と読みやすい広告を書く能力


chuukyuu 「コピーライターの能力を知るためのコツというものがあったら教えてください」


エルゴート氏 「もしそういったものがあったとしても、いまの私にはわかりません。
ただし、そういった能力をすばやく見きわめることができる場合があることは知っています。
たとえば、相手が自分が考えるのと同じようなもっていき方で広告やコマーシャルを書くライターの場合とか、とくにむずかしいとされているパッケージ商品の広告づくりを非常に新鮮に方法で解決できるライターの場合などがそれです。
しかし、私は人の才能を急いで判断することがないようにしています。
というのは、そうしたやり方に従うと、とかく判断も鈍りがちになるからです」


chuukyuu 「優秀なコピーライターになるためには、どんな能力が要求されるのでしょうか?」


エルゴート氏 「確かに彼は才能のあるコピーライターであると評される人の場合を考えてみましょう。
誰からも信用されているような説得力を持ち、しかも読みやすい広告が書ける人の場合をいっているのですが・・・・。
そうしたライターにたいして私がもう一つ希望するのは、彼が考えることのできるライターであってほしいということです。
つまり彼がむずかしい問題を的確に処理し、それを的確に処理し、解決するためにはどんな広告をつくればいいかということを正確に描き出すことのできるライターであってほしいと思うのです。
広告とは、単に『遠く離れたところ』で効果を上げるものを考えればいいと考えるライターがいかにたくさんいるかを知ったら、きっとあなたはびっくりなさることでしょう。
いかに傑作といわれても、それが間違ったことをいっている広告であるなら、決して商品の売り上げを伸ばすことはできません。
あるいは、売り込まなくてはならない大衆の選択を誤ったり、わけのわからないことを並べたてたりしても結果は同じなのです。
さらにもうーつ、私の希望をつけ加えるとすれば、大胆で奇抜なアイデアを出せる能力のあるライターであってほしいということです。
しかもそれは、単に問題を解決するためだけのものにとどまらずに、独創性に富んだ解決をもたらすことのできるものであってほしいのです。
手堅い戦術は基礎の段階でしかないのです。
また、良いキャンペーンと偉大なキャンペーンとの違いを見わけるある種の能力も、同じようにコピーライターには欠かせないものなのです。
最後にもうーつ、ライタ-の良し悪Lを見きわめる際にチェックする点があります。
それは、不屈の精神の持ち主であること、ねぼり強さをもっているいうことです.広告界で私が尊敬している人びとの多くは,決して最初に浮かんだアイデアに満足してしまうような人びとではありません。
才能の有無を別にして、良い広告をっくるための一つの秘訣は、ハード・ワークに徹しきることができるか否かにあるのです」


クリエイティブ畑出身の社長の下で働くのは励みとなる


chuukyuu 「Y&R社はコピーライターにとって住みよい代理店ですか?」


エルゴート氏 「どこよりも最高ですね。
それはトニー・イジドーやスティーブ・フランクフルトといった人びとが良いコピーをとても重要視しているからなのです。
むろん改良してほしい点もかなりありますが、『ギブ・ア・ダム』キャンペーンのような仕事をつづけることが許されるかぎり、この代理店はライターにとって居心地のよい職場であるはずです」


chuukyuu 「尊敬していらっしゃるコピーライターがいますか?」


エルゴート氏 「身分や肩書きを一際無視するなら、私が尊敬しているライターはそれこそたくさんいます。
その中で、私は『優秀』という言葉では表現しきれないほどのライター2人といっしょに仕事をすることができました。実際、私はこの2人をこの業界でもっとも才能あるライターであると考えているくらいですから。
その2人とは、トニー・イジドーとスタン・ドラゴッティのことなのです」


chuukyuu 「フランクフルト氏があなたに話したことの中で、もっとも印象的な言葉は?」


エルゴート氏 「とくにこれといったものは思い当りませんが、それでもスティーブ・フランクフルトのことでいつも感銘を受けていることが一つだけあります。
それは、彼が新しいものを恐れずに採り入れるという点です。
良いキャンペーンだけに満足することはないのです。
躍進的な広告を望んでいるのです。
逆に解釈すると常に攻撃の立場をとっているため、時にはこれに悩まされる人もでてくることになります。
むろんそれが効果的な広告を生み出すための潤滑油になることもあります。
またクリエイティブ・ピープルにとってクリエイティブ出身の社長につくことは、それだけでも大いに励みとなるものです。
つまりそれは、会社の幹部の中にツーカーで話しが通じる人がいるということになるのですから。
営業に携わる人びとの多くがモーレツ社員であることは言うに及びませんが、それでも私たちのように実際に広告やコマーシャルをつくる人間とは往々にしてものの見方が違っているのです。
フランクフルトのもとで仕事をしてやり易いと感じる理由の一つに、彼が仕事のできる人であることが挙げられます」


クリエイティブ・ブティックがうらやましい


chuukyuu 「クリエイティブ・ブティックを、どう考えていらっしゃいますか?」


エルゴート氏 「ああいったものを『クリエイティブ・ブティック』と呼ぶアイデアに抵抗を感じていましたが、それでも良い仕事をしているのに注目していることだけは確かです。
あんな自由が私にも与えられるといいのだがといつも思っていましたから、ちょっぴりうらやましいと思っています。
私がこれまでに許された自由でブティックのそれにもっとも近いと思われるものは、『リンゼイ市長』と『ギブ・ア・ダム』のキャンペーンの仕事をしている時でした。
この二つの場合とも直接クライアントと仕事ができるように私たちは小さなクリエイティブ・グループを結成して製作に当たったのです。
ですから、代理店の大きなミーティングに出席しなくてすみましたし、各部の仕事に『巻き込まれる』必配もありませんでした。
役員会の決定に従って仕事をすすめる必要もありませんでしたし、アカウント・エグゼクティブやアカウント・スーパバイザーやマネジメント・スーパバイザーの意見に従う必要もありませんでした。
与えられたすべての時間を広告とコマーシャルの製作に当てることができたのです。
結果は上々でした。
こんなことがあって、もし私の扱っているアカウントのすべてにこのやり方が適用できたとしたら、一体どんなことになるのかしら、とよく私は考えてみたものでした」


chuukyuu 「もしチャンスがあったら、あなたはご自分のクリエイティブ・ショップを持ってみたいとはお考えになりませんか?」


エルゴート氏 「Y&Rという会社で働くよりも、もっと魅力的であるはずのものについておっしゃっているのですね。 ボブ・エルゴート&パートナーズ社とかエルゴート・レフコーウィツ&イジドーとか、とにかく私たちの・・・・という代名詞が使える会社の仕事をしたらいいんじゃないかってことなのでしょう?
もしそうできたらとても楽しいんじゃないかと思います。しかし楽しみばかりに気をとられてはいられません。
妻のスーザンのことも考えなければ・・・・。
万が一にも私が自分の店を持ったとしても、一つだけスーザンのそばから離れなくてもすむ方法がありますよね。彼女をパートナーにしてしまえばいいんですから---(笑)」