創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(426)ヘルムート・クローン氏のスピーチ(2)


【用法】 兵(へい)は形(かたち)を水に象(かたちど)る。水の行(こう)は高きを避けて下(ひく)きに走る。兵の勝(かち)は実(じつ)を避けて虚(きょ)を撃つ。故(ゆえ)に水は地に因(よ)りて行を制し、兵は敵に因りて勝を制す。(孫子


(chuukkyuu訳:みんなと同じことをしていてはいけない。みんなが奇妙な手ぶり足ぶりをしているなら、とまってメッセイジを伝えよう。みんなが音楽に頼っているなら、無音楽で考えよう)




<<ヘルムート・クローン氏のスピーチ(1)


ヘルムート・クローン氏のスピーチ(2)
DDB 副社長兼アソシエイト・チーフ・アートディレクター
当時/写真



新しい広告表現(2)
1963年のニューヨーク・アートディレクターズ・クラブで


最近、私たちが陥っている最も大きな問題の一つは、どのようにしたらクライアントに、彼らがデザイン会社によって動かされて、たくさんの金を投資してしまった、いわゆるコーポレート・イメージなるものを売らないですむかということです。
私のいっているのは、ロゴとトレード・マ-クのことです。
この広告のいちばん下にある小さいVWのマークは、この会社のイメージを作り上げたものではありません。
会社のイメ-ジはトレード・マークから出ていません。
それはその広告の中でその製品についていわれたことの中から出ています。
デザインや文字のスタイルは、だれに対しても何も売りはしなかったのです。


VWビートルのキャンペーンをプランするにあたり、H.クローン氏は、レイアウト・フォーマットを決めた。


パッケージについては話がちょっと違います。
私たちはできるだけ早く棚の上のそれに目を止めさせなければならないからです。
しかし、あなたをそこまでもっていくのは、けっしてトレード・マークではありません。
それは広告の中の販売命題の理論であって、なにものもそれを邪魔することはできないのです。
トレード・マーク、あるいは特にデザインされた活字面は、ページに「私を読まないでください。私は広告です」といわせるのを手伝っているようなものです。
一つの広告にはいらせ、そこに長くいさせるのは、それを作る人の腕いかんにかかっているのです。


私は、このアートディレクターズ・クラブが非常に強い「保守派」的要素、アカデミーをもっていたときのことを思いだすことができます。
クラブは古顔の人たちによって運営されており、そのショーに展示される作品はおそろしく時代遅れでした。
そして私は、私たちのより新し作品が受け入れられないように、どんなに一生懸命働いたかを覚えています。
その次には「革新派」がこのクラブに足場をもち、ショーには最新流行の作品がたくさん現われるようになりました。
そして新人が審査を完全に支配し始めました。
そして今ではこのショーは完全に新しい作品にとって代わられ、もはやそれほど新しいものではなくなりました。
私は、またアカデミーが出てくるのではないかと恐れています。
そしてフォルクスワーゲンはちょうどその渦中にあります。
私がいっているのは大きな写真を使った広告のことです。
読者をひき止めるために大きな写真を使うこのアプローチは完成されたのです。
もう何かほかのものに道を譲るべきです。つまり、私たちはこれよりもっと新しい何かを必要としています。
それにもうずいぶん長く続きすぎました。
そしてあなたがページをめくりさえすれば、いつでもそれが目につくのです。

多くのフォルクスワーゲンが16万kmも生き続けられるわけ。


フォルクスワーゲンは、1年や2年で下取りに出す車ではありません。
長持ちするようにデザインされ、組み立てられているのです。フォルクスワーゲンのピストンの往復距離は、世界の車の中で最も短いのです。ということは、損耗が少ないということです。エンジンの磨耗やストレスが低いので巡航速度とトップ・スピードが同じです。
くる年もくる年も、同じ基本モデルの車をつくりつづけることによって、フォルクスワーゲンの出来上がりは、5,000ドル級の高級車が自慢するのと同じくらいになりました。いうまでもなく、この車は、1,585ドルで売られているんですよ。
こういう話があります。フォルクスワーゲンは気密にできているのでドアをしめる前に、ウインドウを開ける習慣がつくというのです。数年使った車でもそうなるんです。
それなのに、あなたは、なぜ、大切に乗った'61年型か'62年のVWを、外観の同じ'66年型に買い替えようとなさるのですか?
おやめなさい。
そのまま使って、VWの積算距離計が99999から00000に戻る瞬間をお楽しみください。

art director:Helmut Krine
copyweiter:David Reider



Why so many Volkswagen lives to be 100,000.


The Volkswagen isn't the kind of a car you trade in after a year or two.
It's designed and built for keepers.
The piston speed in a Volkswagen is slower than it is in many other cars. That means less wear. Engine friction and stress are so low that the VW's cruising speed is the some as top speed!
Continuity in making the same basic model year after year has led to Volkswagen's quality of assembly---the kind that a $5,000 car would be proud of; to say nothing of a car that sells for $1,585.
Just to give you an idea: A Volkswagen is so airtight, it's a good practice to open the window before you slam the door. Even after you've had it for several years.
So. If you own a '61 or '62 VW that you've taken good cars of, why would you want to trade it in for a '66−−which looks just like it? You wouldn't.
You'd keep it, and have the pleasure of seeing 99,999 on your VW's odometer turn to 00,000.


ジョージ・グリビン(ヤング&ルビカム代理店会長)は、昨日のA.D,Cの昼食会で、石けん、たばこ、自動車などのある種の業界では、いかに写真が似てきているかということを指摘しました。
じじつ彼らはみな同じ主題を使っているのです。
私はもう一歩突っ込んで、彼らがみな大きな写真にたよっているという事実は全く平凡なことだということを指摘したいと思います。
広告界で何か新しいことが起こるとはいっても、写真をどんどん大きく、美しくすることではありません。
大きな写真という点では、私たちは、もうくるところまできてしまったと思います。
私たちは美しくそれを使いこなしました。
どこを見ても美しい写真があります。
これは全く平凡になってしまいました。
そこで、あなたが『ニューヨーカー』誌に提出することのできる最も普通のものは、華麗なカラー写真です。
それに代わって何が提出できるというのでしょうか?
指摘はできませんがほかにもきっとあるはずです。


続く>>

2008.08.02にアップした工場敷地の全貌を見せない表現例。




アメリカ産の新種植物


U.S.A.に来て27年(と、600万台近くのVW)たった私たち。とても居心地がよくて、ここに居を構えたくなりました。
そこで、できるかぎり、速く、うまく、VWラビットを作ろうと、ペンシルベヴェイニア州ウエストモーランドに工場を設けました。
これまで私たちはご承知のように、すぐれた車をつくってきました。
これからは、よき企業市民になろうと思います。
ずっと昔のこと、誰かがこんなことをいいました。「輸入車なんか欲しくない。欲しいのはフォルクスワーゲンだ」
それが現実になろうとは---。

A/D ヘルムート・クローン
C/W ボブ・ロビンスン 




A new American plant.


After 27 years (and nearly 6 million VWs) in the U.S.A we feel enough at home here to make a home here.
So we've opened a factory in Westmoreland, Pennsylvania, to make VW Rabbits as fast and as well as we know how.
Over the past years, you've found that we make good products. Over the coming years, you'll find that we make good corporate citizens, too.
Long ago, someone said," I don't want an imported car, I want a Volkswagen."
How wunderbar that it turned out to be true.


A/D Helmut Krone
C/W Robert Levenson

クローン氏からアートディレクティングをレン・シローイッツ氏がまされて---


[:W400]


緑のフェンダーは'58年型のもの、
青いフードは'59年型のもの、
ページュのフェンダーは'64年型のもの、
ターコイズのドアは'62年型のもの、
VWの部品は何年型のものでも交換が可能です。




The green fender came
 off a '58.
The blue hood casme
 off a '59.
The beige fender came
 off a '64.
The tuequoise door came
 off a '62.
Most VW parts
are interchangeable
 from one year to the next
That's why parts
 are so easy to get.

アートディレクターがクローン氏からシローイッツ、さらにロイ・グレイス氏に替わって---




さもなくば、フォルクスワーゲンを買うか。




Or buy a Volkswagen.


続く>>


VWビートルの広告キャンペーン全体については---
西尾忠久編著『クルマの広告』(ロング新書 2008.12.10
新書版 215ページ 950円(税とも)
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asin:4845408139