創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(218)[ビートルの広告](119)


「車はエンジンで動くのです」「クルマはアクセルで動くのです」---どちらが正しいか? どちらも正しいのです。
90%の人は「エンジンで」と答えます。そのうちの90%の人は、運転しているときも普段も、そのことを忘れているのに。
VWビートルの広告は、しょっちゅう---と言っていいほど、エンジンに言及します。空冷式だの、後部搭載だの、リア・ドライブだの、〇〇馬力だのと。いってみれば、VWビートルの広告は、いついかなるときでも、「車はエンジンで動く」とおもっている人に訴えているのです、繰り返し、繰り返し---信念となるまで。そう、空冷式リア・エンジンの利点を信じ込むまで。
「クルマはアクセルで動く」とおもっている人は、とりあえず、そうおもわせておけばいいのです。いつか、いつか、「車はエンジンでも動く」ことに気がつくまで---。あせることはないし、力むこともないい。


車をより速く              でも、エンジンはよりゆっくり
走るようにしました。              回転するようにしました。

フォルクスワーゲンの最高時速が4.8km向上しました。
それがたいした数字じゃないと思われるのでしたら、そのとおりなのです。そういう意図ではなかったからです。
馬力アップ(51馬力から53馬力) したのは、低速ギアのほうなのです。だから山登りがより楽になりました。加速もより速くなりました。
でも、エンジンを犠牲にして、こんなことをしたのではありません。じじつ、エンジンは今までよりもゆっくり回転するようにしまた。だからより長持ちします。
このスピーディーな新しいフォルクスワーゲンに標準装備としてデュアル・ブレーキがついていることをお知りになったら、より幸せなお気
持ちになられることでしょう。万一前輪のブレーキがきかなくなるようなことがあっても、後輪のブレーキが止めてくれます。その逆もしかりです。
巻き込み式シート・ベルト、埋め込み式ドア把手、後退灯など、目に触れるような改良もしました。これらも標準装備です。
エンジン・カバーのところにつけた「フォルクスワーゲン」の文字もそう。
新しいかぶと虫が目の前を通り過ぎても、それとわかります。
新しい、よりゆっくり回転するエンジンをつけました。


『ライフ』誌 1964年10月30日号



We made the car              And the engine
go faster.              go slower.


We've added a full 3 m.p.h. to the top speed of the Volkswagen.
If that doesn't sound like alot to you, it's because it isn't. And wasn't meant to be.
We' put most of the power increase (from 50 horsepower to 53), into the low,er gears.
So you could climb hills easier. And accelerate quicker.
But we didn't do all this at the expense of the engine. In fact, we made the engine turn even slower. So it would last even longer.
You'll be very happy to know this speedy new Volkswagen has dual brakes as standard equipment. If the front brakes should ever fail, the rear brakes will stop you. And vice verso.
We even put in some changes you can see, like retracting seat belts, recessed inside door handles, and back up lights. They're standard, too.
And so are the letters V-O-L-K-S-W-A-G-E-N on the engine lid.
So you'll recognize the new bug when it passes you.
With its new, slower engine.


Life, October 30, 1964