創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(212)[ビートルの広告](113)

DDBによるVWビートルほかのシリーズにぼくが血道をあげていた1960年代---バーンバックさんやクリエイターたちのほかに、もう一人、生き方に強い影響を与えてくれた人がいました。特別マーチャンダイジング部長だったE・B・ワイズ氏(写真)がその人。調査からみちびきだした社会の変化の予兆を、週刊『アド・エイジ』のコラムに解説・予言していたので、愛読していました。いまの日本でいうと提案者・日下公人氏かなあ。強烈に胸線に触れたのは、1970年頃に書かれた『物を所有する時代は終わった。[次のステイタス・シンボルは《時間》である]』と題した短いご託宣でした。
てっとり早くいうと、時間を、何に、どう、使かっているかで、その人の[優雅度=ステイタス]がきまる---対象は健康、社交、スポーツ、旅行、育児、料理、瞑想、勉強、(躰のでなく頭脳・技能の)リハビリテイション---といった事項があげられていました。40年も前ですよ。で、ぼくはこの中の旅行と勉強をあわせて最優先におき、20年間つづけました。
きょうの「家を大きく見せます」は[Think small.]の逆焼き版です。


あなたの家を大きく見せます。


このごろは車がどんどん大型になっているので、家がだんだん小さく見えるようになってきました。
でも、ただ一つ、小さなフォルクスワーゲンだけは、すべての背景を正しいつり合いに見せてくれます。
お宅の前に駐車しているVWは、いろいろなものを大きくしてくれます。ガレージもです。駐車面積が小さく、道路が狭くっても平気だってことは、あらためていうまでもありません。一方、VWには、小さくするものもあります。
たとえばガソリソの勘定書. (リッターあたり13.5km---これはたぶん、あなたが今払っていらっしゃる金額の半分でしょう)。
規定のオイル・チェンジ以外にオイルの補給も不用。不凍液もいりません。タイヤは64,000km保ちます。おまけに、保険料も安いのです。
VWの小さいものの一つに、車の内部もあるとあなたほお考えかもしれません。
でも、VWには、いちばん大きな車と同じだけのレッグルームがあるのです。
これを考えれば、選択は二つしかないことがおわかりでしょう。
巨額を投じてもっと大きい家をお買いになるか、はたまた、1,595ドルでフォルクスワーゲンを買うか---です。


『ライフ』誌 1964年5月8日




It makes your house look bigger.


Cars are getting to be bigger, so houses are getting to look smaller.
But one little Volkswagen can put everything back in its proper perspective.
A VW parked in front does big things for your house. And your garage. To say nothing of small parking spots and narrow roads.
On the other hand, a VW does. make some things smaller.
Gas bills, for instance. (At 32 mpg, they'll probably be half what you pay now.)
You'll probably never add oil between changes. You'll certainly never need antifreeze.
Tires go 40,000 miles. And even insurance costs less.
One thing you'd think might be smaller in a Volkswagen is the inside.
But there's as much legroom in front of a VW as there is in the biggest cars.
When you think about it, you really have only two choices:
You can buy a bigger house for who-knows-how-much.
Or a Volkswagen for $1,595.


LIFE, May 8, 1964