創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(403)[ニューヨーカー・アーカイブ]によるビートル・シリーズ(100)

これは、明らかに、20世紀最高の広告と呼ばれてきた"Think Small (小さいことが理想)と対(つい)をなすことを意識して、外観は小さいままだが室内を広くしたと告げた作品です。
"Think Small"から10数年でした。
年数を言明できないのは、"Think Small"のオリジナル版は、どうも1959年の後半に小さな業界誌に掲載されたらしいからです。
ま、その詮索は措き、世の中が"Think Small"の生活を受け容れたころあいに"Think big"ときた皮肉を汲みとりましょう。

初紹介



大きいほうがいい。


ついに、やりました。
かぶと虫の見てくれを変えたんです。
ご覧になりたい? では、ドアを開けてください。
う−ん。
「室内をよりよく、より広くしたって、どこを?」
足元が前のほうへ、ぐんと広くなっています。
天井まわりにも余裕ができています。
前面のウインドシールドが前寄りに離れているでしょ。
いままでの半分近くも前へ出ました。
伸びたのはあなたの鼻じゃなく、ウインドシールドです。
ダッシュ・ボードの計器類もぐんと読み取りやすくなっています(計器類の読み取りがお好きなあなたにぴったり)。
シートも体をつつみこむようになじみ、長時間運転していても疲れせん。
体の動きにそって伸縮する安全ベルトは、着脱がらくなバックル留めです。
もっと驚くべきは、後部座席への乗り降りがらくになったことでしょうか。
新発見に満ち満ちた室内で、さらに見ていただきたいのは通風性のよさです。両サイドの窓のくもりさえ消すのです。
外観にも、多少の変化があります(たとえば、尾灯は2倍近く大きくなっています)。
私たちは、20ヶ所にも新しい手を加えた1973年型ビートルを送りだしました。
まあ、いろいろ申しあげはしましたが、肝心なのは、あなたが実際に運転席にお坐りになって、変わったな、いいな---とお感じ
になってくださるかどうかです。
さあ、いますぐ、お試しになってみてください。
1973


フォルクスワーゲンほどの働き者は、めったにいませんね。


C/W
A/D
"The NEWYORKER"  1972.05.20 & 1972.10.21



The beetle's ads series with "NEWYORkER's archive" (89)





Think Big.

We finally did it.
We changed the look of the Bug.
For openers, open the door.
And Wham-O,
"What's a nice big interior like you doing inside a Volkswagen?"
There's plenty of leg room up front.
There's lots of head room,
The windshield is curved and pushed away from your nose. It's 42% lorger.
(That's the windshield. not your nose.)
The padded dash is completely redesigned and easier to read (for those of you who like to read dashes.)
The seats are more comfortable, curved and contoured to your body.
Inertia-type seat belts buckle up as standard equipment.
And wonder of wonders. it is now much easier for passengers to get to the back of the Bug.
With all the newfound room, we had to find a new ventilation system. Which we did. And it's so good that. now, even the side windows can be ventilated and defogged.
As for outside improvements, they're mostly hidden. (Although the taillights are nearly twice as large as ever before.)
Altogether we made 20 improvements in the Super Beetle for 1973.
But without a doubt, the biggest improvement of all is the feeling you get when you get when inside.
Take it for test sit todoy.
1973

Few thing in life work as well as a Volkswagen.

C/W
A/D
"The NEWYORKER"  1972.05.20 & 1972.10.21 



再録

[息抜きタイム](338)[ニューヨーカー・アーカイブ]によるビートル・シリーズ(24)


いまさら---だが、20世紀を代表するビートルの広告の中でも、とりわけ賞賛されているのが、この"Think small."
広告が、受け手の人生観、価値観に大きく影響を与え、結果としてモノを買うことにつながったという意味では、現代広告の金字塔的広告ともいえる。
クリエイターとして、このような広告をつくる機会は、そう、あるものではないが、記憶にとどめておくべき作品ではある。
この広告を腹に据えているかどうかで、広告クリエイターとしての力量に差がでようかというほどのものである。
もちろん、3点の"Think small."を見てもわかるとおり、媒体と時期によってボディー・コピーが変わっている。どんなに衝撃力の強い作品であっても、ある程度の露出頻度が必要であることを警告している。



小さいことが理想。


私たちの小さな車は、最近では、さほど物珍しくなくなりました。
12人以上もの大学生が押しあいへしあい、つめこみ競争をすることもなくなりました。
給油所のパート・タイマーがガソリンの注入口を訊いてうろうろすることもなくなりました。
車の外形に目を丸くされることも---ね。
じっさいのところ、私たちの小さな車はリッターあたり13.5km走るなんてことを信じない人も---。
そう、オイルも5クォートじゃなくて5パイントです。
ええ、不凍液もいりません。
タイヤも64,000kmはもちます。
てすから、私たちのエコノミィカーになされば、こういったもろもろは思案の外になるのです。
あ、駐車スペースは狭くてもいけるし、車の保険更新料も少くてすむんです。修理代も安いんです。車を下取りに出して新車になさるときもお得です。
考えどころですよね。


C/W ジュリアン・ケーニグ ボブ・レブンソン
A/D ヘルムート・クローン


"The NEWYORKER" 1962.10.27
"LIFE" 1962.11.23





Think small.


Our little car isn't so much of a novelty any more.
A couple of dozen college kids don't try to squeeze inside it.
The guy at the gas :tation doesn't ask where the gas goes.
Nobody even stares at our shape.
In fact, some people who drive our little flivver don't even think 32 miles to the galIon is going any great guns.
Or using five pints of oil instead of five quarts.
Or never needing anti-freeze.
Or racking up 40,000 miles Of) a set of tires.
That's because once you get used to some of our economies, you don't even think about them any more.
Except when you squeeze into a small parking spot. Or renew you small insurance. Or pay a small repair bill. Or trade in your old VW for a new one.
Think it over.


C/W Julian Koenig Bob Levenson
A/D Helmut Krone
"The NEWYORKER" 1962.10.27


あまりにも有名な、この「小さいことが理想」と謳った広告は、実はオリジナルではありません。
米国VW社は、ニュージャージー州イングルウッドという町にあります。
1959年のあるとき、同州で刊行されていた小さなビジネス誌が、アメリカ製品は世界でこんなに使われているといった特集号を企画しました。
で、地元だというので、米国VW社にも広告の出稿を依頼したのです。
立案をうけたコピーライターのジュリアン・ケーニグ氏は、社が退けて郊外のわが家へ帰るべく列車のシートに坐って、案を練っていました。
前のシートに同席していたビジネスマン風が、経営雑誌をめくって読んでいました。
見るともなく見ると、こちら側へ折り返されていた記事のタイトルに当時のビジネス界の常套文句"Think Big."とありました。
ケーニグ氏にひらめきが走りました。”Think small."



小さことが理想。


10年前、最初の2台のフォルクスワーゲンが米国へ輸入されました。
ビートルに似た、その奇妙な形の小さな車は、まあ、無名といってもよいほどでした。
やがて、リッターあたり13.5kmも走ることが認められました(レギュラー・ガソリン、ふつうの運転で)。
さらに、一日中時速100kmで走ってもビクともしないアルミ製空冷式エンジン、ファミリー・サイズの適切さ、手ごろな値段も認められてきました。
フォルクスワーゲンは、ビ−トル並みに増殖し、1954年には、米国への輸入車のトップに立ち、以後、ずっとその地位を堅持しています。1959年には15万台のフォルクスワーゲンが売れました(うち3万台はステーション・ワゴンとトラックでしたが)。
ずんぐり鼻のフォルクスワーゲンは、いまでは米国名物のりんごストルーデル(デザート菓子)同様、50州すべてで見かけられますが、その鉄鋼はピッツバーグ製でシカゴでプレスされています(工場の動力源すら米国からの輸入石炭です)。
どのフォルクスワーゲンのオーナーにお聞きになっても、そのサービスのすばらしさとどこへ行ってもうけられる充実ぶりについては、褒め言葉ばかりでしょう。フォルクスワーゲンの成功は、決して小さくはありません。部品も常備されて、しかも安価です(一例をあげると、新品のフェンダーはたったの21.75ドルです)。フォルクスワーゲンの成功の要因は決して小さいとは言えませんね。
今日、米国ほか119の国々でフォルクスワーゲンは着荷するなり売り切れていて、生産が追いつかない状態です。小さな車に全力を注いでいるフォルクスワーゲンの生産規模は世界で5番目に大きいんですよ。もっと多くの人びとに、小ささを考えていただきたいものです。




ビジュアルは同上


Think small.


Ten years ago, the first Volkswagens were imported into the United States.
These strange littie cars with their beetle shapes were almost unknown.
All they had to recommend them was 32 miles to the gallon (regular gas, regular driving), an alminum air-cooled rear engine that would go 70 mph
all doy without strain, sensible size for a family and a sensible price-tag too.
Beetles multiply; so do Volkswagens. By 1954, VW was the best-selling imported car in America.
It has held that rank each yeor since. In 1959, over 150,000 Volkswagens were sold, including 3O,000 station wagons and truks.
Volkswagen's snub nose is now familiar in fifty states of the Union; as American as apple strudel. In foct, your VW may well be rnade with Pittsburgh steel slamped out on Chicago presses (even the power for the Volhwagen plaont is supp!ied by cool from the USA.)
As any VW owner will tell you, Volkswoagen service is excellent and it is everywhere. Parts are plentiful, prices low. (A new fender, for exomple, is only
$21.75.) No smalll factor in Volkswagen's success.
Todoy, in the U.S.A. and 119 other countries, Volkwagens are sold faster than they can be made. Volkswagen has become rhe world's fifth largest automotive monufaclurer by thinking small. More and more people are thinking the same.



こんなバージョンもありました。

ビジュアルは同上


小さいことが理想


きっちりつめたら、 ニューヨーク大学の18人の学生がサン・ルーフVWに乗れました。
フォルクスワーゲンは、家庭向きに考えて大きさが決められています。おかあさん、おとうさん、それに育ちざかりのこども3人というのが、この車にふさわしい定員です。
エコノミイ・ランで、VWは 1リットルあたり 平均21km強の記録を出しました。あなたにはちょっと無理な数字です。プロのドライバーは商売上のすてきな秘けつを持っているんですから。(お知りになりたい? ではVW Box #65 Englewood, N.J.へお手紙をどうぞ)。ガソリンはレギュラー、また、オイルのことは次の交換時期までお忘れください。VWは在来の車より全長が4フィート短くできています。(とはいっても、レッグ・ルームは同じくらいあります)。 ほかの車が混雑したところをぐるぐる巡りしている間に、あなたはほんの狭い場所にも駐車できるんです。
VWのスペア部品は格安です。新しいフロント・フェンダーは(VW特約店で)21.75ドル、シリンダー・ヘッドは19.95ドル、品質がよいのでめったに必要とはしませんが。
新しいフォルクスワーゲン・セダンは1,565ドル。ラジオ、サイド・ビュー・ミラーのほか、あなたがほんとうに必要なものは全部ついています。
1959年には、12万人のアメリカ人が、小ささを考えてVWを買いました。ここのところを考えてみてください。


"LIFE" 1960.02.22



Think small.


18 New York University students have gotten into a sun-roof VW; a tight fit. The Volkswagen is sensibly sized for a family. Mother, father, and three growing kids suit it nicely.
In economy runs, the VW averages close to 50 miles per gallon. You won't do near that;
after all, professional drivers have canny trade secrets. (Want to know some? Write VW,-Box- #65, Englewood, N.J) Use regular gas and forget about oil between changes.
The VW is 4 feet shorter than a conventional car (yet has as much leg room up front).
While other cars are doomed to roam the crowded streets, you park in tiny places.
VW spare parts are inexpensive. A new front fender (at an authorized VW dealed is $21.75. A cylinder head, $19.95. The nice thing is, they're seldom needed.
A new Volkswagen sedan is $1,565. Other than a radio and side view mirror, that includes
everything you'll really need.
In 1959 about 120,000 Americans thought small and bought VWs.
Think about it.


参照重復するかもしれないが、この"Think small" がいまみられている形をとるまでの裏話を、東京コピーライターズクラブ・ハウスに招かれてのスピーチ]←クリックでバラしました。



2010年1月27日に、Mixiのメッセージ欄に、Haleakala さんから、感動的なコメントをいただいています。


転載



はじめまして、千葉県に住む秡川(はらいかわ)と申します。
現在34歳の私が高校2年生の頃、本屋さんに注文し待つこと1ヶ月、
読ませて頂いたのが「企画のお手本」でした。
当時購読していたNAVIの誌上に掲載されていた、
ちゅうすけさんによる「Think Small」の記事。
その衝撃に快感を覚え、もっと読みたい!という願いが叶った瞬間でした。

以来、自分の根底にあるのはVW社、DDB社の広告に埋め込まれた精神、
極端に言ってしまえば「美しきケチ」というものでしょうか。
あの世界の実践、という具合にかぶと虫、ゴルフと乗り続けておりますが、
今でもふとした瞬間に「これはあの広告で言っていた事だ!」と、
追体験する事はとても多いです。
もちろんクルマのみならず生活の色々な場面においてもまたしかり。
フォルクスワーゲンとは、クルマではなく、精神的世界なのだ」
そんなことまで考えてこの17年間暮らしてさえおります(笑)
今夜はゆっくり、じっくりと「空冷VW」のコミュニティに書いてくださった、
ちゅうすけさんのトピックを読もうと思います。

なによりも、自分の十代の頃の成長過程に於いて、
素晴らしいものを読ませ、教えて頂いたことに大変感謝しております!
本当に、本当にありがとうございます!