創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(393)『アート派広告代理店---その誕生と成功』(3)


ジャック・ディンカー&パートナーズ社(1)



扉のページ


有能なクリエイティブマン
会議や雑用から
解放しよう


1960年、インターパブリック傘下の代理店マッキャン・エリクソン社から、4人の幹部社員が、ドーセット・ホテルに居を移しました。
4人というのは、マッキャン・エリクソン社でクリエイティブ・ヘッドとして高名だったジャック・ティンカー(Jack Tinker)氏、動機調査の第一人者であったハーゾーグ(Herta Herzog)博士、マーケティングの専門家マクドナルド(Myron McDonald)氏と、クリエイティブ部門の副社長カルホーン(Donald Calhoun)氏です。
彼らが、ドーセット・ホテルのグレーのじゅうたんを敷いたテラス付きの部屋に移ったのは、「コミュニケーションにおける新しいコンセプトを展開させ、かつ、実験するため」だと理由づけられていましたが、もう一つ別の理由もありました。
それは、ティンカー氏が、-当然、クリエィティブ活動に使うべき時間の80%を会議に出たり、部下の仕事をチェックしたりして過ごしてしまうことに耐えられなくなったからだといわれています。
だいたいマッキャン・エリクソンという広告代理店は、委員会、レビュー・ボードといったチェック機構を重視するとともに、調査が完成すれば、広告キャンペーンの80%はでき上がった---というほど、調査を重視する会社です。 こうしたやり方の代理店にいれば当然、ヘッドは、会議会議という結果になります。
これは、なにも米国に限りません。日本の大代理店のヘッドに電話してどらんになれば、ほとんどの場合、「ただいま、会議中です」という交換手の声が返ってくるはずです。
そして、もし、その人にクリエイティブな仕事をすることへの意欲が十分にあれば、自分の時間がないことを、たえず不満に思っているはずです。
時あたかもDDB代理店が、みごとな広告作品によってマジソン街の話題をさらっていました。委員会やボードは、広告のオリジナルなアイデアを骨抜きにすることはあっても、それを結実させることは少ない---との議論も出はじめていました。


DDBのクリエイティブ・ヘッドたちが、時間の半分以上を自分が担当しているクライアントの広告をつくるために使っていることも、会議屋さんや管理屋さんに祭りあげられてしまった代理店のクリエイティブ部門の幹部たちにとっては、うらやましがられていました。
インターパブリック帝国の総帥---マリオン・ハーパー氏にしてみれば、能力のあるクリエイティブ関係の小グループがもし、委員会やレビュー・ボードや代理店の雑用からのがれることができれば、彼らがフレッシュで、聡明で、クリエイティブな広告活動を、普通の代理店機能を備えた場合よりも、より効果的にやることができるかどうかを実験してみるこは、抗しがたい魅力であったといえましょう。
「私たちは、精神そのものに到達するために新しい発見をしたいと望んだのです。広告のどたどたから逃げだすために---クリエイティブのジュースをほとばしらすために---」
と、やせて坊主刈りの61歳の男---ジャック・ティンカー氏(写真)は言っています。
とにかく、前記の4人はホテルに陣どったのです。反響はたちまちにしてマジソン街に起きました。ある人は、「広告のアプローチがあまりにもビジネスライクすぎるということで、いつも非難されている代理店のマッキャン・エリクソンが、クリエイティブな広告をつくるために新しい方向を示した」と拍手を送りました。
そしてみんなが、この新しい小さな組織---ジャック・ティンカー&パートナーズ社の仕事ぶりを、じっと見守ったのです。


最少のメンバーで
有効な問題解決を
はかる


はじめの4年間、ジャック・ティンカー&パートナーズ社は、広告代理店と呼べないような仕事を続けました。というのは、彼らは、依頼主のためにネーミングや広告ストラテジー計画書と最初の広告をつくるだけで、その後のキャンペーンの実施と発展は別の代理店に渡してしまったからです。つまり、この会社は、媒体を扱わなかったのです。
ブローパ電子時計アキュトロン、コカ・.コーラ、ダイエット飲料のタブ、ビュイックの中のリビェラ、ドイツ葉巻のボルフォーマット・コリー62、ナショナル金銭登録機のための企業イメージ・キャンペーン企画など、60件を越える計画書を依頼主のために考え出したのです。
そして、アキュトロンを扱ったのはDDBであり、コカ・コーラはマッキャン・エリクソンに引き継がれるといったぐあいでした。
けれども、こうして仕事を進めているうちに、ジャック・ティンカー&パートナーズ社方式ともいえる広告づくりの方法が確立されてきました。それは、ひとたび企画に着手すると、それぞれ広告の基本的な面を代表する---クリエイティブ、調査、マーケティング---グループが一つのチームとなって問題解決の道を見つけ出すようにしたことです。普通の代理店では、それぞれの部門が個々別々に働くのがルールです。
それとともに、メンバーの気特も変化してきました。同社のアカウント・サービスの責任者であるウエルク(Barret Welch)氏は、
「人間は自分のした仕事が、印刷媒体に載ったり、テレビ電波に乗って現われるのを見たいものです」と私に語ってくれましたが、彼らの中に、企画したのなら最終段階まで責任をもたなければつまらない、という人が出てきたのです。
DDBから移ったウェルズ(Mary Wells)女史(写真)がその急先鋒であったと、ある人がいいました。
1964年、アルカ・セルツアーがクライアントとなったとき、ジャック・ティンカー&パートナーズ社は媒休も扱う一般代理店に変身するとともに、インターパブリック代理店グループの一支脈として組み込まれたのです。
代理店として初めての2つのキャンペーン---アルカ・セルツァーとブラニフ航空---は、まさに革命的なものでした。
「この2つは、ともに広告の革新を象徴するものであるとともに、それ以上に重要な意味をもつものであった」
と『マジソン・アベニュー』誌も書いています。「フレッシュ、シンプル、鮮明、チャーミング、趣味が豊か、人目をひく、信じられる、売上げを増すキャンペーンという点で、いろいろな賞が、まるで秋の落葉のどとく、この代理店の上に舞いおりた」
当時、アルカ・セルツァーのコピー・チーフとして腕をふるったディック・リッチ(現在はウェルズ・リッチ・グリーン代理店のパートナー)は、私にこう語ってくれました。


「ジャック・ティンカー社が、広告代理店として初めて扱ったアカウント(1,200万ドル)が、このアルカ・セルツァーだったのです。そして、入社したばかりの私に担当させたのです。私は、あの仕事をやっているとき、無限の喜びを感じていました。というのは、そのときまでは、医薬品の広告の方法に2種類ありましてね。その一つは非常に醜い広告で売る---しかし売れることは売れる---という方法。もう一つは、広告自体は魅力があるけれども、売上げにはさっぱり関係がない広告です。
医薬品メーカーは、実利的な面から、悪い広告だけれども売れるというほうを選んでいたわけです。私たちが、アルカ・セルツァーによって、魅力的で、想像力豊かで、クリエイティブな広告で、しかもそれが売上げに結びつく方法を示したとき、クライアントは非常に喜びました。このことが、いま私が思い出せる、アルカ・セルツァーに関する最も楽しい思い出です」


ところが、クリエイティブの指導的メンバーであったパートナーのひとりメリー・ウェルズ、コピー・チーフのディック・リッチ、ADのスチュアート・グリーンの3人が、1966年3月に突然ジャック・ティンカー社を辞めました。
そして、ウェルズ・リッチ・グリーン社を開いたことは有名な話です。
ジャック・ティンカーは、笑ってこう語ったそうです。
「私たちの代理店から別れていって、別の代理店をつくるということは、いいかえれば、私たちに新時代が開かれたのと同じではないでしょうか? このことは、私たちの代理店がある体型づくりを成し遂げた証拠でしょう」
一般代理店へ変身するとともにマッキャン・エリクソン社の媒体部にいたウエルク氏も入社してきました。
社員の数も、秘書を入れて12名だったのが3倍にふえ、私が訪問した1968年11月には、120人に達していました。120人にもなると、ホテルでは収容しきれないので、新しいオフィスに移転している最中に、私は訪問してしまったのです。ちょうど、ジャック・ティンカー氏は、引っ越してしまっいて、ウエルク氏が私の質問に答えてくれました。


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アルカ・セルツアーのオン・ザ・ロック


オールドファッション・グラスに水をすこし入れアルカ・セルツァーを2錠加えてください。
氷のかたまりを入れお好みならもう少し水をたしてください。そして、ライムのスライスを一切れ。これで、アルカ・セルツァーのオン・ザ・ロックのできあがりです。
なかなかイケます。まるでアルカ・セルツァーじゃないみたいな味がします。むしろまろやかなアイスバーグの感じです。冷たくても、アルカ・セルツァーは夏まけで弱かった胃を守り、処方等なしで買えるどんなものよりも頭痛によく効きます。最高です。こんどはオン・ザ・ロックでやってください。


夏まけ? クールにいこう!




Alker-Seltzer
On The Rocks


Pour a little water into
an old fashioned glass.
Add 2 Alka-Seltters.
Count to 10. Add chunks
of ice. Add more water if
you prefer. Then add a
alice of lime. You've got
Alka-Seltzer On The
Rocks and it is grut. It
doesn't taste like Alka-
Seltzer. More like a
melted iceberg. Even
cold, Alka-Seltzer
relieves upset stomach,
Indigestion and
headaches better than
anything you can buy
without a prescription.
Anything" Next time ...
try it On The Rocks.


Summer Upset? Cool it!



>>ディック・リッチ氏とのインタヴュー
12臨時割り込み34


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