創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](4-3)

DDBのアートディレクターたちを見ていると、かっちりと理論的に視覚化してみせる人(例:ヘルムート・クローン氏)と、そのときのメッセージ・アイデアから柔軟に発想する人(例:ボブ・ゲイジ氏やビル・トウビン氏)のタイプがあるのに気づきました。まあ、なにもニューヨークくんだりまで出かけて発見することもなかったのですが。でも、国内のアートディレクターの実名をあげると、さしさわりもないではないですからね。後者のタイプのアートディレクターは、アート=コピー・セッションでも、相手をホイホイのせ、自分のホイホイのるようです。この、「ホイホイ」式頭脳フット・ワークが、クリエイティブには結果が概していいようです。


>>[効果的なコピー作法]目次


第4章 コピーの視覚化(つづき)


視覚化の方向

とにかく、広告というものは、コピーのみで成り立っていないのですから、コピーライターに、大なり小なりの視覚化能力が要求されることは、疑いありません。彼自身がラフ・スケッチやレイアウトをつくる、つくらないは別としても---。
問題は、その視覚化能力です。あるアートディレクターが、 「まるきりレイアウトを書かないコピーライターは、イラストレイト(画像、写真、絵などによる具象化)できないようなコピーをつくる」と嘆いていました。
日本の例ではありません。米国での話です。そのアートディレククーの能力はいまは問題にしないでおきましょう。
このことばを読んだとき、私は首をかしげました。
例を、アメリカン航空の広告にとりましょう。
まず、前項で最初に引用した写真をよくごらんください。
このブログで扱える精一杯大きく掲出した写真が鮮明にでてくれると,おわかりいただけるのですが、機内の乗客は、みんな同一人物になっています。雑誌を読んでいるの、眠ってるの、考えごとをしているの、窓の外を見ているの---30数人が同じモデルです。
さて。
コピーはこうなっていましたね。


アメリカン・エアラインズでは、おびただしい量の反復作業をやっています。


空の旅をよくなさる方は、たいていアメリカンをお選びになります。スチュワーデスが美人で、食事がおいしいからというだけではありません。
アメリカン社は信頼できるというのが、大きな理由です。たとえは:
アメリカン社の新偉力アストジェット機(最初のファン・ジェット・エンジンつき)は、在来のジェット機より巡航速度が速いのです。より静かに飛びます。定時到着を厳守するための余力がたっぷりあります。
DME (距離測定装置)を完備したジェット機陣を擁しているのは、アメリカン社だけです。これは(レーダー以上)の空路誘導上のもっとも価値のある進歩です。
当社のパイロットたちは、世界中のどのパイロットのグループよりも多くのお客さまを運んできました。700万マイルの飛行記録保持者なんてザラにいます。
当社の飛行機は、最大級の地上整備工場で、最高のコンディションを保つよう整備されています。
3,000人以上の熟練航空整備士が、当社の全機の各部を定期的に点検しています。
旅なれた旅行者は、当社の整備がお好きで、さらに当社の細心なやり方がお好きです。次の機会にも、アメリカン社をご利用ください。


アメリカン---先頭を行くエアライン


広告は、ドイル・デーン・バーンバック(Doyle Dane Bernbach)広告代理店の作で、1961年10月21日号の『ニューヨーカー』誌に載ったものです。
ついでですから、つけ加えておきますと、このDDBという代理店は、その広告制作哲学 creatie philosophy の正しさ、具体化した広告のよさの点で、新しい広告代理店の基準ともいえる社です。


chuukyuu注】いまはどうか知りませんが、当時(1960年代)の『ニューヨーカー』誌は、キャデラックの室内後部席の背もたれにつづくリア・ウインドゥの前の帽士置きと呼ばれている棚に、山高帽と『ニューヨーカー』誌を置いておくのが上級知的ジェントルマンの見え---といわれていました。そうそう、常盤新平さんがよく紹介なさっています。ぼくなんか、常盤さん訳のニョーヨーカー・ノンフィクション『サヴォイ・ホテルの一夜』(旺文社文庫 1985.11.25)なんか、何回読み返したものか。『ニューヨーカー』誌は年間講読していましたが、記事を読むためではなく、広告を切り抜くためでしたから、その穴埋めに---ね。


さて。アメリカン・エアラインズの広告ですが、コピーとイラストレイション(この場合は写真)が伝達しようとしているものは何でしょう? へッディング(見出し)を読んだ限りでは、「おびただしい量の反復業務」でしょう。
ボティ・コピーがその一例を説明しています。航路を往復している熟練パイロット、3,000人以上の熟練整備士が行なう整備点検です。
しかし、こうもとれます。イラストレイションの中の同一人物の「反復」は、いつもアメリカン機を利用している旅なれた旅行者を象徴しているのではないかと。あるいは、このコピーを受けとったアートディレクターのウィリアム・トウビン氏は、「反復」ということばに力点を置こうとしたのではないか---と。
いずれにしても、このヘッドラインは、「イラストレイトしやすい」とはいえません。にもかかわらず、できた広告は、「反復業務」というメイン・テーマを「反復」という点にしぼって、みごとに伝達しています。(写真:ビル・トウビン)
そうなると、前述した「まるきりレイアウトを書かないコピーライターは、イラストレイトできないようなコピーをつくる」という、アートディレクターの攻撃は、自らの視覚化能力の貧困に向けたほうがよくなってくるようです。


「飛び方がわかれば簡単なことです。」にしても、「イラストレイトしやすい」といえるヘッドラインではありません。ここでは、アートデイレクターは、テキスト中に述べられている2つのテ-マ---すなわち「飛び方」 "knowhow"と、「ジェット時代の第?段階の幕開き」 "opened Jet Age: Stage?" を意識して伝達しようとしたのでしょうか。 「飛び方」から鳥(イラストレイション)を思いつき、 「開幕」から勇ましいワシを思いついたのでしょう。


ふり返らないで---私たち、尾行(つ)けられてるみたいだから---。


1年ちょっと前<アメリカン・エアラインズは、あることを始めました。
ジェット時代の第2ステージでした(覚えていらっしゃいますか?)。
これが、アメリカン社で初のアストロジェット・ファン・ジェット・エンジンつき707・・・の序章となりました。
ファン・ジェットは、在来のジェットよりもも30%強力なのです。飛行したとき、その差が歴然です。より速やかな離陸、より速いスピード、より高い信頼感。
ほどなく、アストロジェットは、ジェット時代における輸送の新しい基準となりました。そして、アメリカン・エアラインズは、1961年中に、全機をすっかりアストロジェットに入れ替えました。
もちろん私たちは、他の航空会社も、いつかはファン・ジェットに変えてくるだろうということぐらい、わかっていました。
そしていまや、それが始まったのです。もはや、私たちの一人舞台ではなくなりました。
とはいえ、何事もいちばん最初というのはいいものです。第一には、各航空会社が、在来のジェット・エンジンの改造を依頼してきました。
また、国内線でファン・ジェット機を100%就航させているのは、いまだに当社だけなんですよ。
というわけで、空の旅をかならずファン・ジェット機でお楽しみになりたい方は、どうぞ、アストロジェットをお選びください。絶対に失望なさいません。




Don't look now, but we're being followed.


A little over a year ago. American Airlines started something.
Jet Age: Stage ?. (Remember?)
This was the introduotion 01 American's first Astrojet-a 707 with fan-Jet engines.
Fan-Jets ha~e 30% more power than or dinary jets. It makes quite a difference in your flight. Quicker take-ofts. Higher speeds. Greatetdependability.
The Astrojet soon became the new standard of transportation in the jet age. And by December of 1961. every American Airlines jet was an Astrojet.
Of course, we knew right along that someday other airlines would change to fanjets, too.
And now they've started. So it isn't quite an exclusive any more.
But there's still a nice side to being first. For one thing, a number of other airlines bring their ordinary jet engines to us to be converted.
And for another, American is still the only domestic airline whose jet fleet is 100% fan-jet.
So if you want to be sure of a fan-jet on every jet flight you take, take an Astrojet. You can't miss.


「振りかえらないで。ぼくたち尾行(つ)けられてるみたいだから---」ってのを見てください。
これも、ちょっと考えつかない視覚化でしょう?
要するに< 「イラストレイトしやすい」コピーであるかどうかといったことは、さして問題ではありません。
コピーで、何を伝達しようとしているかが重大なのです。コピ-の視覚化は、その線に沿って行なわれるベきものなのです。
最近(1960年代)の米国の広告のクリエイターたちがよく口にすることに、「コンセプト」というのがあります。「この広告にはコンセプトがある」というふうに使います。
もともと、このコンセプトというのは、哲学用語としては「概念」をあらわす言葉ですが、クリエイターたちが使っている場合は、その広告をしっかりと支えているメッセージ・アイデア、あるいは根本の考え方といった意味のようです。したがって、コピ-の視覚化は、コンセプトに読者の注意を向けさせ、わかりやすく伝達するべきものなのです。


「新しいのはどこ?」 「いろいろさ!」


アメリカン・エアラインズの編隊に、もう一つ、
強力なアストロジェット990が仲間入りしました。


3月18日、アメリカン・エアラインズは、世界でもっとも進歩したジェット・エアライナー---990アストロジェットを就航させました。
民間航空の新しい姿がここにあります。両翼についている2基の空気力学的な特別装置にお気づきでしょう。これが高速時における空気の流れをスムーズにするためにデザイソされたスピード・カプセルです。
民間航空の新しい力がここにあります。990は、今までの航空機の中でもっとも強力なものだと、私たちほ信じています。構造的にはほとんど完全無欠です。数多くの特別安全装置が組みこまれています。
そして、民間航空の新しい楽しさが、ここにあります。広い通路、すごく深々としてゆったりした座席。まるでクラブのように広々とした1等客室。ジェット機旅行者にとってはありがたい2、3人用の個室。
空の旅の新しい経験のために、民間航空の中でもっとも進歩したジェット---990アストロジェットにお乗りください。




"What's new?" "Plenty!"


Another great Astrojet-the 990-joins
the American Airlines fleet.


On March 18th, American Airlines launched the most advanced jet airliner in the world: the 990 Astrojet.
Here is the new shape of commercial aviation. You will, notice two extra aerodynamic bodies on each wing. These are speed capsules, designed to smooth out the airflow at high speeds.
Here is the new brawn of commercial aviation. We believe the 990 is the strongest airplane ever built. It has tremen dous structural integrity. Many extra safety factors have been built into it.
And here is the new comfort of commercial aviation. Wide aisles. Wonderfully deep, wide armchairs. A spacious. club like First Class section. And a pleasant surprise for jet travellers: 3-and-2 seating in the Coach section.
For a new experience in flying, try the most advanced jet in commercial aviation: the 990 Astrojet.

この項終わり。明日は、次の[視覚化の方法]の項へ


>>[効果的なコピー作法]目次


アメリカン航空の広告をもっとご覧になりたいときは、[クリエイター・インタヴュー、ジャック・ディロン氏](...