創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](4-3)


きょう引用した46年前の『アート・ディレクション』誌の記事で「アングラフィック」という言葉を眼にしたときのぼくが受けた衝撃といったら---! いえ、ぼくだけではありませんでした。当時、日本のアートディレクターを代表していた一人---田中一光さんも、衝撃のことを話してくれました。そして、日本では「ノングラフィック」という合言葉となって、次から次へと伝播していきました。「コンセプト・アド」という命題を掲げたのは、翌年のNY・ADCだったと記憶しています。これで、新旧の入れ替わりが決定的になりました。米国の広告クリエイターの主流が変わったのでした。もちろん、日本にも、ある程度の影響はありました。

これまでご紹介したアメリカン航空の広告には、DDBの3人の重鎮アートディレクターが参与しています。セールス・メッセージの強調のやり方も雰囲気も、3人3様です。あすは、広告を再録しながら、それぞれの気質を推測してみましょう。


関連記事:
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>>[効果的なコピー作法]目次


第4章 コピーの視覚化(つづき)


視覚化の方法


月刊『アートデイレクター』 誌1962年4月号は、第41回ニューヨーク=ADC(アートディレクターズ・クラブ)展の審査員たちとの1問1答を特集しています。
(注"Ungraphics is the word for New York's 41st" Art Direction/April,1962)

Q. イラストレイション (さし絵) から写真へ、タイポグラフイへの移行にみられるようなコンセプトの強調のやり方は、一時的な気まぐれですか?
A. いや、もっと本質的なものです。アートディレクターが広告人としておとなになったのです。ことしだけの傾向ではないと思います。
Q. グラフイックな面に重点をおかないということは、コピーがもっと多くなることを意味しますか?
A. グラフイックな面に重点をおいていないのではありません。広告の本質的なメッセージ・アイデアに重点をおいているのです。コピーの量の多少には関操のないことです。へッドやテキストで、オーディエンスに鋭く切りこんだコピーへの傾向はありますがね。ヘッドやキャブションが、たった1語という広告も多くあったじゃありませんか。
Q.そうなると、来年は、グラフィカルなデザインは骨董品になりそうですか?
A.ある人にはそうかもしれません。しかし全体ではないでしょう。デザインはただデザイン自身のための王様ではなくなって、アイデアを伝達する役割りをもったときにのみ重要だということです。


この記事は、 一つの重要なことを示唆しています。それは、 「グラフィックな面に重点をおいていないのではありません。広告の本質的なメッセージ・アイデアに重点をおいているのです」という、審査員側の発言です。
この時の審査員は、新進気鋭のアートディレクターが中心でした。アートディレクターの側から、このような、コミュニケーションとセールズ・アイデア重視の宣言が公式になされたのは、新しいことなのです。これまでの5年間は、「エキサイトメント excitement」とか「クリエイティビティ creativity」といったことばが支配的だったのです。


chuukyuu注】上記の問答の中に、「ヘッドやキャブションが、たった1語という広告も多くあったじゃありませんか」という発言があります。これは、このショーで金賞を射止めたウェスタン・ユニオン電報社のシリーズを指しているとおもわれます。「無視してごらん。 電報は無視できない---」と訴求したシリーズでした。


(このシリーズの全容は「第10章 コピーの長さ」で紹介)。


この「1語シリーズを導いたのが、フォルクスワーゲン・ビートルの[Lemon 不良品]だったことはいうまでもありません。[レモン]が現われるまでの米国の(世界の)ヘッドラインは、Why---? Who---? When---? Were---? How---? で始めるのが効果的と思われていたのです。


じつをいいますと、私はこの「広告の本質的なメッセージ・アイデアに重点を置く」という記事を読んだときに、 「ナニヲ今サラ--」と感じました。コピーライターとしてほ当然な感想だったと今(1963年)でも思っています。
しかし、現実には、日本にも、このことばの意味するところがよくわかっていない広告人が多いのです。たんにエキサイティングな視覚処理をしたり、美しいだけのグラフィカルな視覚化をやっているクリエイターが多いのです。NY-ADC展の審査員のことばを借りれば、「広告人としておとなになっていない」人たちです。
ともあれ、コピーライターとしては、アートディレクターと共同作業にあたるとき、 「広告の本質的なメッセージ・アイデアに重点を置く」ということばだけは忘れてはいけません。ライターが、アイデア・スケッチを書こうが書くまいが、そんなことは、まあ、どっちだっていいことです。

アメリカン・エアラインズの「アメリカン・エアラインズの編隊に---」と言っている広告(昨日、掲出)を見てください。

アメリカン・エアラインズの編隊に、もう一つ、すばらしいアストロジェット990が仲間入りしました。

そして、キャブション風の会話が、

「新しいのは、どこ?」 「いろいろさ」

とあります。

想像しますに、このキャプション風の会話は、アートディレクターのアイデアでしょう。ヘッドラインを読み、テキストを読んだアートディレクターは、新しい「両翼についている空気力学的な特別装置」を伝達しようと、はじめ思ったかもしれません。あるいは、広い通路、深々とした席を強調しようとしたかもしれません。
けれど、最終的に、 「仲間入り」というテーマを視覚化することにして小さな旧式のプロペラ機を持ち出してきて、アストロジェット990のすばらしさを強調しようとしたのでしょう.そして彼は、会話体のキャプションを書き加えてくれるように、コピーライターに頼んだのだと思います。
こうしたケースは、共同作業をしていれば、しばしは起こってきます。ときによると,、ヘッドラインを書き変えることすらあります。が、そうしたことは、程度問題です。要は「広告の本質的なメッセージ・アイデア」を読み手に即座に理解せ、ときには楽しくさせるためならばどんなことをやってもいいのです。が、コピーもイラストレイションも、ひとつのアイデアを伝達の中心にすえるために統一されていなければならない---ということを忘れてはいけません。

さて、コピーの視覚化に関する、いちばん困難な問が残りました。すなわち、どうすれば、効果的な視覚化を行ない得るか---という問題です。
多くの先輩が、いろんな分類を試みています。たとえば、O.クレプナーは、広告に用いられてきたイラストレイションの種類を、


(1) 製品単独のイラストレイション
(2) セッティングされた製品のイラストレイション
(3) 製品を使用することから受ける利便、あるいは使わないために生じる不利を示すイラストレイション
(4) ヘッドラインの劇化
(5) あるひとつの情景の劇化
(6) 例証の劇化
(7) ストーリーの連続的な劇化
(8) ディテールの劇化
(9) 比較
(1O) 対照
(11) 漫画
(12) トレード・キャラクター
(13) 図画と図表
(14) シンボル
(15) デコレーション、オーナメント、アブストラクト・デザイン
(注 Otto Klepner, Advertising Produce,1950)


としています。
しかし、こうした分類をいくら試みても、よい視覚化ができるとは限りません。コピーの視覚化は、コピーライターとアートディレクターの想像力の問題としかいえません。したがって、ライターは、自己のコピーを視覚化するために、平常から想像力を豊かにするための、さまざまな訓練と等街を行なっておくべきです。



ファンジェットとは?


アメリカン航空のファンジェットのお話)

ジェットは、そのエンジンの推力によって推進します。
しかしこの推力は非常に熱い排気から生まれます。そしてこの熱い空気は薄い空気です。軽量級のパンチのようなものです。
ファンジェットは、これから重量級のパンチをつくります。
アメリカン航空の開発したこのエンジンは、普通のジェットの2倍の空気をとりこみ、2倍の力で機体を推進します。その結果、30%も余分の馬力が出ます。ですから、飛行機そのものも変えなくてはなりません。


普通のジェット

ファンジェット


これが1961年の私たちの最初のアストロジェットの誕生でした。
アストロジェットは離陸、上昇が速く、飛ぶ音が静かです。
ジェットを全部アストロジェットにしている航空会社はアメリカでは2つだけです。アメリカンとウエスタンです。
アメリカンはほかの航空会社よりも41機も多い61機のファンジェットを所有しています。




What is a fan-jet?


The American Airlines fan-jet story


A Jet is propelled by the thrust of its engines.
Btft this thrust comes from a very hot exhaust, and hot air is thin air-a little like a lightweight's punch.
The fan-jet makes a sort of heavyweight out of it.
This engine, which American Airlines helped develop, takes in twice as much air as ordinary jets and gives the thrust twice as much body. The changed.
This was the birth of our first Astrojet in 1961.
Astrojets take off and climb faster, fly more quietly, and use the fan-jet's extra power to help get you in on time.


Ordinary jet

Fan-jet


Only 2 airlines in the U.S. have fan-jets on every jet they fly.
American and Western.
American has 64 fan-jets, 41 more than any other airline.


この章、終わり

アメリカン航空の広告をもっとご覧になりたいときは、[クリエイター・インタヴュー、ジャック・ディロン氏](...