創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](4-1)


45年前(1963)に上梓した『効果的なコピー作法』(誠文堂新光社)を復元しています。[はじめに]にも記していますが、当時は誠文堂新光社からでていた業界専門誌『ブレーン』誌に1年間連載したものをまとめたものです。chuukyuu、32歳から33歳にかけての思案で、いま見ると〔若書き〕の憾はいなめません。この執筆中に、山城隆一先生の偶然の口ぞえで『フォルクスワーゲンの広告キャンペーン』(美術出版社)が自著第1号として世に出ました。『効果的なコピー作法』はしたがった第2号。[若書き〕は〔若恥〕に通じますね。お願い一つ。冒頭に掲げた参考作品のコピー全文を読んでから、本文へおすすみいただけるとありがたいです。


>>[効果的なコピー作法]目次


第4章 コピーの視覚化


コピーライターは、もちろん、コピーがうまく書けなければ
コピーライターとはいえません。
けれども、最近の広告事情からいって、
コピーがうまく書けるだけでなく、そのコピーの視覚化についても、
ライターにも責任があるという新説。
つまり、コピーとアートが結婚した広告をつくるための
ライターの役割りを説明します。
引用したのは、アメリカでもすぐれた広告といわれている
アメリカン・エアラインズ


アメリカン・エアラインズでは、おびただしい量の反復作業をやっています。


空の旅をよくなさる方は、たいていアメリカンをお選びになります。スチュワーデスが美人で、食事がおいしいからというだけではありません。
アメリカン社は信頼できるというのが、大きな理由です。たとえば:
アメリカン社の新偉力アストジェット機(最初のファン・ジェット・エンジンつき)は、在来のジェット機より巡航速度が速いのです。より静かに飛びます。定時到着を厳守するための余力がたっぷりあります。
DME (距離測定装置)を完備したジェット機陣を擁しているのは、アメリカン社だけです。これは(レーダー以上)の空路誘導上のもっとも価値のある進歩です。
当社のパイロットたちは、世界中のどのパイロットのグループよりも多くのお客さまを運んできました。700万マイルの飛行記録保持者なんてザラにいます。
当社の飛行機は、最大級の地上整備工場で、最高のコソデイションを保つよう整備されています。
3,000人以上の熟練航空整備士が、当社の全機の各部を定期的に点検しています。
旅なれた旅行者は、当社の整備がお好きで、さらに当社の細心なやり方がお好きです。次の機会にも、アメリカン社をご利用ください。


アメリカン---先頭を行くエアライン




At American Airlines we do an awful lot of repeat business


American is usually the choice of people who fly "3 lot. And it isn't just because of our pretty stewardesses and delicious meals.
The big reason is American's dependability. For instance:
American's great new Astrojet (the first plane with fan-jet engines) cruises faster than conventional jets, It flies morer quietly. It has more reserve power to ensure on-time arrivals.
American has the only jet fleet completely equipped with DME (Distance Measuring Equipment), the most important advance ever made in airline navigation, even beyond radar.
Our pilots have flown more passengers than any other group of pilots in the world. Many are 7-million-milers.
Our planes are kept in peak condition by one of the largest maintenance setups on earth. Over 3,000 aircraft experts regularly inspect every part of every plane in our fleet.
Experienced travellers like our equipment, and they like the way we take care of it. Next time, fly American.


AMERICAN America's leading airline


飛び方がわかれば簡単なことです。


かつて私たちは大気をたんに吸うだけでしたが、いすではそこに住んでいます。
じつに多くの人が空を飛んだのです。その大部分の人が、アメリカン・エアラインズで飛んだのです。
アメリカン杜が飛び方を知っているということが、今日、空の旅が簡単にできる理由の一つです。当社が空の旅に非常に多くの貢献をしたので、当社の歴史がそのまま民間航空の歴史であるときえいえます。たとえば、
民間航空事業を可能にした飛行機DC-3はアメリカン社の設計書にしたがってつくられたものです。
最初に米国大陸周覧ノンストップ飛行をやったアメリカンDC-7は当社の設計書によってつくられたもう一つの飛行機です。
当社は、天候レーダーを開発した航空会社です。大陸横断ジェット航路も最初に開きました。ジェット時代の整備工場もいちばん早く建てました。
当社はDME(距離測定装置)を備ええつけた最初の航空全社です。これは航空史を飾る進歩のうちで、レーダ一をしのぐもっとも重要なものです。
きょう、アメリカン社は、707アストロジェットをご紹介します。これはファン・ジェット・エンジンつきの初の民間航空機はで、ジェット時代の第2ステージの開幕をつげるエンジンです。
なれた旅行者は、空の旅のときには、たいていアメリカン・エアラインズを選びます。それなりのはっきりした理由があるからです。




It's easy, when you know how.


Once we merely breathed the air, now we inhabit it.
Millions of people have flown. And the largest percentage did it on American-Airlines.
American's know·how is one reason flying is easy today. We've made so many contributions to flying, that our history reads like a history of commercial aviation, itself. For instance, the DC-3, the plane that made commercial aviation, was built to American's specifications.
The first non-stop, round-trip, transcontinental service was on an American DC-7, another plane built to our specifications.
We were the airline to pioneer weather radar. The first to have transcontinental service. The first to build a jet-age maintenance plant. We were the first airline to be equipped with DME (Distance Measuring Equipment), the most significant advance ever made in airline navigation, even beyond radar.
Today, American offers 707 Astrojets, the first commercial planes powered with fan-jets, the engines that opened Jet Age: Stage II.
When experienced 'travellers ,pick an airline, it's usually American. And there are obvious reasons why.


ライターの視覚化能力


広告コピーが、単独で力を発揮する機会は、きわめてまれであるといえましょう。
コピーに視覚処理がなされ、イラストレイション(写真・映像・絵・図表など)が加わって、はじめて伝達能力が強められるのです。
現代(1963)の日本のトップ・コピーライターのひとりである畏友・土屋耕一君は、東京コピーライターズ・クラブ編による「コピー年鑑'63」の作品審査基準案でこう書いています。
(「コピー年鑑作品基準案」起草・土屋耕一、コピー十日会会誌「TEN」第5号)


コピーは、広告を構成する要素の一つである
しかもコピーは、広告全体に働きかけ右能動性をもつ要素である。
この能動性はコピーの機能でもある。
したがって、広告の中からコピーだけを抽出することはたんに不自然であるばかりでなく、コピーの機能を無視する、という大きな錯誤を犯したことになる。コピーは、このように広告を構成する能動的な要素であるから、その評価にあたっては、つねに全体性との関連性を忘れることができない。
コピーと、それを含む全体としてのビジョンとは、骨格と肉体のような関係にあるといえるだろう。まず骨格があり、それにふさわしい肉付けがされるのである。 (以下略)


要するに、伝達機能としてコピーの力は、広告原稿全体の中の各種要素と溶け合った形で発揮されるというのです。
こうした考え方をとるコピーライターは、最近ふえてきました。
ライターに、たんにコピーを書くという段階から、ビジョンにたいする理解をも合わせもったクリエイターとしての役割りを要求されることが多くなったのでしょうか。
第3章で、ジリュアン・ケーニグ(Julian Koenig)氏の「どうやってよいコピーライターになるか? 自分白身をすぐれたアートディレクターにすることだと思います」ということばを紹介しておきましたが、これは、さらに積極的な発言です。
J・ウルフ(James Wolf)氏はコピーライターの先達として古典に属する人ですが、『アドバタイジング・エイジ』誌のコラムで、「絵とことばの両方をうまく使うと、アイデアの伝達を効果的にする。どちらを軽視してもいけない。両者を正しく組み合わせて使うことに熟達することが、いいコピーライターとしてのしるしである」といっていました。
現実には、コピーライターは、多くの場合、アートディレクターと共同して広告を創造します。必ずしも、2人の意見が一致するとは限りません。そのときに、どう処置するか---という点について、若いコピーライターたちから質問されます。
答えは簡単です。どちらの考えが、メッセージ・アイデアをわかりやすく伝達するか---によって決まるのです。
じつをいうと、私もこの間題をこう単純に割りきるでには、長い期間がかかりました。友人を介してフォクスワーゲン・ビートルの広告シリーズアート・ディレクターであるヘルムート・クローン(Helmut Krone)氏(DDB)ほか、いろんなクリエイターに直接会って質してもらったりしました。
クローン氏の答えは、「アートディレクターとコビーライターの意見がくいちがっても、お互いがおとなであるんだし、りっぱな社会的常識をもった人間なんだから、うまくいくはずだ」ということでした。
この答えは、かつてJ・ケ一二グ氏のような、一種クレージィな才能をもったコピーライターと組んで仕事をしていたクローン氏のことばだけに、思わず徽笑して聞いたものでした。
さて、ここに一つの反論と一つの提案を紹介しておきしょう。
反論というのは、 コピーライターの本職は、よいコーを書くことであり、そのことに全力を注ぐべきであって、わずかな知識をひけらかすことはかえって危険である。アートのことはアートの専門家にまかすべきだ---というのです。
また、提案というのは、ライターもラフ・スケッチの形でメッセージ・アイデアを視覚化してアートディレククーに力をかすべきだが、実物大のレイアウトつくってはいけない。コピーライターが実物大のレアウトをつくると、アートディレクターとしてはそれをバラバラにこわすか、ライターのレイアウトを装飾するか、のどちらかだ。だから、ライターは小型のスッチ(サム・ネイル)を描き、アートディレクターはその視覚化された
イデアを解釈し、拡大・発展させるやり方がよい--- というのです。


この項終わり。明日は、次の[視覚化の方向]の項へ


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アメリカン航空の広告をもっとご覧になりたいときは、[クリエイター・インタヴュー、ジャック・ディロン氏](