創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(308) ボルボの広告(2)

40年前(1968)に上梓した『ボルボ---スウェーデンの雪と悪路が生んだ名車---』(ブレーンブックス)のホコリを払ってアップしています。そんな時代ものが、いまさら、なんの---とお思いになるかもしれません。しかし、歴史は歴史です。信念は信念。ボルボという会社のフィロソフィーは、いまでも通じそうに思うのです。ま、気軽な企業ものとしてお読みいただいてもいいし、コピーライターって、そこまでデータをあつめなければ書けないのか---って蔑視してくださってもけっこうです。1冊の新書版から、5,6日分のコンテンツを引き出します。(写真は著書のカヴァーの裏面)



コピーライターとして取材にあたってとるべき態度
(↑この、おそろしく説教じみた小見出しは『日米コピーサービス』編集者のS氏がつけたものです。ぼくの本---裏表紙の写真---のタイトルは↓)


ボルボ---スウェーデンの雪と悪路が生んだ名車---』より
第1章 ガブリエルソンの30年間
2人の男が出合ってから---

  • 1924年6月


聖者ヨハネの祝日(ミッド・サマー)の前夜(イヴ)-----1924年6月23日の夕刻でした。
ストックホルム駅前カフェに37,8歳の穏和な瞳の男が入って行きました。
「おや、グスターフじゃないか」
声をかけたほうの男は、グスターフよりも3つか4つ年下にみえたが、口ひげをたくわえ、より自信がありげで、しかもすこしばかり神経質な日差しをしていた。


(左)アッサール・ガブリエルソン
(右)グスターフ・ラルソン


「自動車のことで忙しいんだってね。そのことで、いちど、ゆっくり会って話し合いたいと思っていたんだよ」
「望むところだ。でも、いまじゃなくあとでね、アッサール。実は、 次の汽車で田舎へ行くところなんだ」
グスターフの、あわてたような早口の返事ぶりに、アッサールは(あい変わらずだな)とでもいうように微笑を返して、
「そりゃあそうだとも。たっぷりと時間をかけてね」
これが、いまでは伝説になっている、 アッサール・ガブリエルソンとグスターフ・ラルソン〔ボルボ〕について言葉を交した最初なんですね。そして、多くの記述は、このカフェで2人が意気投合し、それから数十年間にわたる友情と協同が生まれたように善しミていますが、事実はちがうんですね。
ラルソンは1びんのビールを急いで飲むと、汽車に乗るために出て行きました。
カフェでの出合いから1ヶ月とすこし経った8月のある日、 ラルソンのところへ、〔スチュルホフ・レストランで待っている 〕との、 ガブリエルソンからの誘いが届いたのです。
ガブリエルソンは、 目の前にまっ赤にゆであがった伊勢エビ を盛りあげて待っていました。
「まず、 この邪魔者を片づけよう」
と2人は伊勢エビ取り組みました。スウェーデンの伊勢エビはたまらなく美味なのです。
満腹感が2人に訪れた時、2人の親密度は高まっていました。そして、2人は、スウェーデンの素材をつかい、スウェーデン人の手になる、スウェーデンに適した車をつくる計画を話しあったのです。


いやね、どうでもいいような、創業者の出合いの場面を長々と引用したのは、2つの意図からです。
その1. すでにお気づきのように、私は、通説を排し、より真実に近い状況を記した記録をさがし求め、ボルボ本社の中の資料をひっかきまわして、みつけたのです。


私はね、コピーライターが、依頼主側が用意した資料を鵜のみにしてね、「はい、 チャッチャ」とコピーを書き上げる方式に疑問を持っているのです。
割にあわなくたっていいから、自分が納得するまで調べる---考える、考え直してみる---のでなければ、書いたコピーに責任が持てないのではあるまいか、と思っているのです。
コピーライターだって、1人の立派な人間ですよね。1人の人間が、ラウドスピーカー代わりに使われてはいけないのです。
そりゃあね、米国みたいに、広告という産業がユダヤ系ビジネスでね、才能のあるユダヤ系米国人が手っ取り早くカネもうけできる分野---逆にいうと、ほかのうまい職業分野の門はユダヤ系米国人にはかなり閉ざされていた時代が長くて、危険だけどもこれをやるより仕方がない---という場合には、必死に、なりふりかまわず、広告に取り組むでしょうよ。
でもね、日本は事情が違います。広告をやらなくたって、ほかのビジネスを選べるチャンスはありますからね。
いや、米国のユダヤ系の人たちの活躍ぶりとその拠って立ついわれを話すのは今日の主題ではありませんから、これくらいにしておきましょう。
えーと、なんの話をしていましたっけね? ああ---コピーライターの取材態度について、でした。これもお説教になるみたいだから、もあ、切り上げましょう。
もう一つの理由。要するに、それは人と人との出合い---ということを、ね、8年前(1968)に書いたってことです。
いまごろ、出合い---なんてことを強調すると、どうかしてるんじゃないかっていわれそうですが、8年前(昭和43年)のこととして、読みすごしてください。あの頃、出合い---なんてことをいう広告人はいませんでしたよ、 まったく。
この出合いって言葉、5年くらい前、物質主義が行きつまって、何か妙薬はないか---って時に、広告人がさかんに使ったのです。
でね、コピーライターってのは、自分の体を通して、本質的な徴候を先取りしていなければいけないってことですね。いま流行ってることを、とやかくいうのはやさしい。でもね---よしましょう、やっぱり、お説教になりそうです。


>>続く


【chuukyuu注】ずいぶん、生意気気げなこと言ってますね。反省・自省をこめての載録です、ご了解ください。
さて、昨日掲出した米国ボルボ社の広告「程度のいい中古のVWをお捜しなら---」は、カール・アリー代理店がつくったものです。
広告の扱いは、その後、スカリ・マケーブ・スローブス社(SMM)へ移りました。カール・アリー社からスカリ氏(アートディレクター)とマケーブ氏(コピーライター)とスローヴス氏(アカウント担当)がボルボのアカウント(取引口座)をもって独立しました。その経緯はゆっくりと。で、掲出の広告は、SMM社のもの(カラー広告なので)。

なお、コピーライターのエド・マケーブ氏とのインタヴュー記事は、このブログに収録しています。

車のシートはただ腰をかけるために
あるのではないはずです。
私たちのは、すぐれた
ドライバーを生みます。


普通の車のシートは、この世に存在しない人に合うよう設計されています。
平均的体格のドライバー。
ボルボはどんなドライバーにも合わせられるシートを開発しました。
ボルボのシートは運転しやすいよう作られています。体格に合わせて調節でき、操縦を完全に手のうちに入れることができます。
すねが平均より短い場合は、シートの高さを低くしてください。
足がペダルに楽に届きます。
腕が平均より長い場合は、後ろに下がらなくてももたれられます。
(シートのアングルを調節できるのです)。
背中が疲れたら、背もたせを柔らかくも、硬くも、好きなように調節できます。足が疲れたら、シート・クッシヨンを後ろに傾むけてください。ももをやさしく支えます。あるいはシートを後ろに
引いて足を伸ばしてください。
ボルボのシートは、視野まで広げます。私たちのヘッドレストにはオープニングがあるので、後ろも見えます。
以上。ただ腰を下す場所にたいした気を使っているものだと思いますか? だったらもっとびっくりなさいますよ。私たちのシートを置くものに
どんなにを使っているか。

ボルボ
考える人びとのための車。


掲載誌『スポーツ・イラストレイテッド』1975年7月7日号




A CAR SEAT HAS TO BE
MORE THAN A PLACE TO SIT.
OURS MAKES YOU
A BETTER DRIVER.


The average car seat is designed to fit a person who doesn't exis...the average size driver.
So Volvo developed a seat that accommodates every size driver.
The Volvo seat is built to help you drive. It's adjustable to your dimensions, to afford you complete control over the controls.
If your calves are shorter than average, you can lower the seat height to get closer to the pedals.
If your arms are longer than average, you can lean back without moving back. (The seat angle is adjustable.)
If your back gets tired, a lumbar adjustment will support you in the style you prefer: from soft to firm. And if your legs get tired, you can tilt back the seat cushion to brace your thighs. Or push back the seat to stretch them.
The Volvo seat even improves your visibility. Our head restraints have openings, so you can see in back of you. "
If this seems like a lot of thought to put into the place where you sit, youll be even more impressed by something else.The thinking that went into the place where we put our seat.
Our car.


VOLVO
The car for people who think.


Sports Illustrated, July 7, 1975


>>続く