創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(292)[シーヴァス・リーガルの広告](3)

週末の今宵、お仲間と「軽く、いっぱい」ですか? 宴たけなわのすこし前に、「最近、スコッチの機微を衝いた広告を見てね」と、お気に入りの---ただし、半分の残量についての主・客の思惑を記した分は日本の雑誌にも転載されていたから除いて---シーヴァス・リーガルの広告について「こんなのだよ」とお話しになってみると、座が盛り上がり、いろんな酒論がはずむのでは?

【chuukyuuからのお願い】ご紹介しているシーヴァスの広告のカラー版をお手持ちとか、どこそこにあるよ---という情報をお寄せください。後世のもの好きの方々のために、モノクロ分と差し替えて残しておいてあげたいのです。 




おとといから始めた、シーヴァス・リーガルの米国での広告シリーズについての無責任なおしゃべり、きのう分のつづき

製品に人格を与えるというのは、VWビートルについても言えるのですが、あの場合には、ガソリン代がちょっともったいないとか、モデルチェンジをして買い換えさせるやり方のがアホらしいとか、技術者畑の---というか、理系の人、つまり理詰めに考えられる人---そんな性格とをVWビートルに与えていたような気がしますね。
一方、シーバスの場合は、明らかに酒呑みの、優雅なケチさ---胸の奥の奥にしまいこんでいて、ふだんは表にださないホンネ(一種の自己保全)を与えている。


他人の家ではシーヴァス・リーガルを飲むけれど、
自分の家では飲まない人にちょっとひとこと。


いえ、あなたを当惑させるつもりはありません。でも本当です。
すこしお金をはりこむだけで、ご自分の家でゆったりとくつろぎながら、好きな時にシーヴァス・リーガルを楽しめるんですから。
もちろん、友人が訪れた時も出さねはなりません。長い間、あなたがシーヴァスを飲ませてもらった友人には特に。
しかし私たちはお客のために、シーヴァス・リーガルをお買いになるようにすすめているわけではありません。
その反対。あなたご自身のためなのです。

1969.2.15『ニューヨーカー』




An appeal to the person
who drinks Chivas Regal
at everyone's house but his own:


We don't mean to embarrass you, sir. But really. By spending just a litle more, you can enjoy Chivas Refall in the comfort of your own home. Anytime you wish.
Of course, then you'll also be obliged to serve it when friends drop over. Especically those friends whose Chivas you've been enjoying for so long.
H0wever. we're not suggesting you start buying Chivas Rega1 because you owe it to your guests,
On the contrary. Wc feel you owe it to yourself.

The New Yorker, February 15, 1969


製品に人格を与えるということを、もっと強めたのが、DDBVWのチームにいて、1年たらずでDDBを出て行ったジョージ・ロイス氏というアートディレクターが創った、ウルフシュミッツのウォッカの広告というのがあるんです。
これはもうシーヴァスの酒呑みのケチさに、酒呑みの好色性---女をくどく時のくどさ文句までぶち込んで、ウォッカでブラディ・マリーを作るとか、スクリュー・ドライバーを作るといったそんな時の広告に、女たらしの人物を配しているんですね。


「かわいいお嬢さん。ほんとにカワイ子ちゃん。ぼくの好みにピンときてるよ。ぼくが君を有名にしてあげる。こっちに転がってきてキスしようよ」
「先週ごいっしょだったトマトちゃんはどなた?」



ウルフシュミッツ・ウォッカは、純正でよき時代のウォッカ特有の微妙な味わいを持っています。スクリュー・ドライバーに使われたウルフシュミットは、オレンジを恍惚とさせます。ウルフシュミッツは、ひと口ごとに最高です。


ぼくだけに限らず、ジョージ・ロイス氏もまたシーヴァス・リーガルの広告から広告の作り方というものを学んでていたのではないでしょうか。VWのほうかもな。
これはおそらくDDBの社長であり、クリエイティブ担当の責任者であるバーンバックさんの教えに他ならないのだとも思いますね。


お金持ちのスコッチ

(でも、シーヴァス・リーガルは並みのスコッチよりそれほど高いわけではありません)

1977年10月号『ハーパース・マガジン』




The Rich Man's Scotch.
Harper's Bazaar, October 1977


信じられないかもしれませんが、並みのスコッチとシーヴァス・リーガルとは、これだけしか違わないのです。

付記:したがって、これだけはずむだけで父の日にシーヴァスが贈れるのです。


1972.6.17 『ニューヨーカー』




Believe it or not, this is all that's standing between
your bottle of ordinary Scotch and a bottle of Chivas Regal.

Sports Illustrated, June 5, 1972


ただ単にこのウイスキーは何年ものだとか、手塩にかけて創ったとか、月並みのことよりも、また霧の中で生まれたとか、あるいはスペイ川の水で磨かれたとか、いっても案外人の心の中には残らないのじゃないでしょうか。

「もっと商品に生命を吹き込みなさい」というのがバーンバックさんの広告創りの基本なのだから、それをアートディレクターのバート・スタインハウザー氏がしっかり守って、最初からこのような人物設定に出たのだとも思いますね。
それにしてもこのシリーズは本当に優雅なケチな話が多い。
当時、ぼくはウイスキーや酒というものを飲(や)らなかったのですが、「シーバス・リーガルのボトルの色を変えたまぬけはだか?」の広告で、驚き、ウイスキーについて目が開かれた思いがしたものです。
こんなことがあって、 シーヴァスのシリーズは自分の勉強のために、出るごとに資料としてためてきたのですがね。
(chuukyuuのいいわけ)2年前、梅田望夫さん『ウェッブ進化論』に刺激されて、このブログを立ち上げることを決心する直前、倉庫を整理し、蔵していた広告を処分してしまったのです。


明日につづく


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