創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(293)[シーヴァス・リーガルの広告](4)


ほんとうに、カラーの広告を掲示したかった。せっかくアイデアを練り、きれいな写真を使ったDDBのシーヴァス・チームにも申し訳なく、アクセスしてくださっているクリエイターほかの方々にも充分なサービスになっていません。でも、いつか、カラー版が出てきて、差し替え、インターネットで半永久的保存されていれば、後進の人たちの資料になると楽観しています。これは叩き台。いま、私財を使って根気よく集める人はいないみたいだから。


スコットランドへ旅行なさる時は、1本持っていってください。


ニューキャッスルへ石炭を持って行くようなものですが、実は、あまり多くの米国人が 12年もののシーヴァス・リーガルを愛飲するので、その生まれ故郷であるスコットランドでは、非常に少くなってしまっているからです。
だから、それを持っていくと2つのことが起こります。まずお気に入りのウイスキーが呑めます。そして好意的な好意的なスコットラクンド人に、あなたが出発する前から、かの国の最高の産物を認めていたことを示すことができます。もちろん、問題はあるかもしれません。「スコットランド人以上にスコッチ・ウイスキーをわかる人はいるか」という自負にぶつかることです。
それも新しい答えがあるでしょう。
米国人という。

1967.4.22『ニューヨーカー』




If you're going to Scotland, take a bottle along.


That may sound like carrying coals to Newcastle, but the plain fact of the matter is so many Americans have made 12-year old Chivas Regal their brand, it's a very rare item in the country of it's birth.
So, if you bring a bottle along, two thing will happen. You'll have your favorite whisky. You'll be able to show a driendly Scot that even before you arrived, you appriciated the best his country has to offer.
Of course, you might create a small problem. "Who knows more about Scotch whisky than the Scots?."
the question used to run. Maybe there's a new answer. The Americans.


The New Yorker, April 22, 1967

chuukyuu補)この広告は、錯覚をうまく使っているとおもいます。スコットランドといっても広いのです。最初に、どこへ着くかでしょう。DDBのシーヴァス・リーガル・チームは、グラスゴー空港へ直行したのだとおもいます。シーヴァス・ブラザーズ醸造所は空港の近くにあります。
ぼくは、普通のコース---エジンパラ、アバディーン、アルモラル、インヴァネスという順路でした。インヴァネスからレンタカーでいくつものハイランドのスコッチ醸造所を巡りました。
最初のエジンバラで巨大な岩壁上の城を見学し、帰り道のスコッチ博物館でミニチュア瓶をいくつも求めてホテルで賞味テストをしましたね。昼間?? ショーン・コネリー少年が牛乳配達をしていた街々を歩きました。ウソ! 英国王室御用達の店々を取材。
ふつう、スコットランドといえば、同地出身の米国人家庭でないかぎり、思い浮かぶのはタータン・チェックとスコッチ・ウイスキーとコナン・ドイルでしょう。そこを利用した広告ですね。そういう概念をくすぐる広告もあっていいとおもいます。



時には優美なデカンターをつかわない方が、優美におもわれる場合もありますね。

1974.11.24『ビジネス・ウィーク』




Sometimes it's more elegant not to use an elegant decanter.


Business Week, November 24, 1974

シーヴァス・リーガルが最も印象的なのは、ボトルに貼ってあるものではなく、その中に入っているものである。これを見るとそれをつくづく思いしらされる。

1978.6.3『ビジネス・ウィーク』




Just a reminder that the most impressive thing about Chivas Regal is what's in the bottle, not what's on it.


Business Week, July 3, 1978

ボトルのせいで、人びとはシーヴァス・リーガルを買う。そう思われるのでしたら、これを売ってみてください。

1977.5.30『USニューズ&ワールド・レポート』




If you think people buy Chivas Regal just for the bottle, try selling this one.


U.S.News & World Report, May 30, 1977

「君がシーヴァス・リーガルを飲(や)るなんて知らなかった」


酒は何を飲(や)るか聞いてみて、スコッチと答える。
そこで、例のボトルを出すと、きっとその人はあなたの目の前で、シーヴァス党に早変わり。
自分の家ではスコッチ党で、知人の家ではシーヴァス党に変わる人のなんと多いこと、驚くほどです。
ねばり強く闘いましょう。
いつかきっと、彼の家を訪れた時、彼もあなたと同じにシーヴアス党になっていることでしょうから。
今日はあまんじて。あなたはそれに値いします。
その日が来たら、彼のシーヴァスを心おきなく飲んで。
あなたには権利があるのですから。

1966.12.3『ニューヨーカー』




"I didn't know you were a Chivas drinker."


Ask him, and he'll tell you he's a Scotch drinker.
Put out that bottle, and right before your eyes, he turns into a Chivas drinker.
It's amazing how many people are Scotch people in their house and Chivas people in yours.
Fight the good fight.
One day you'll be at his house and it'll turn out he's become a consistent Chivas man, like you.
Take your bow. You deserve it.
Take his Chivas.
You deserve that, too.

The New Yorker, December 3, 1966

シーヴァスが、ぼくを変えた

ぼくは、40歳近くなったありから酒が飲めるようになりました、訓練(?)の結果、どうやらでしたが。
シーヴァスの広告を数年間、見つづけてきて、シーヴァスが飲みたいと、ずっとおもっていました。
当時は、シーヴァスは高かったですからね。1万円近かった。
去年(1978)、また、ニューヨークへ行ったのですが、成田の空港で酒は1本で十分と思い、免税店でシーヴァスを買いました。2200円。町で買うのと比べると、ウソみたいな価格差でした。
それはともかく、機内持ち込みの手さげバッグの一番上にシーヴァスを置いおいたのです。そのときは、ニューヨークの税関で、珍らしく検査に引っかかりましてね、バッグをバっと開けたら、一番上にシーヴァスの化粧箱。
税関吏がニヤッと笑い、「この酒は最高だよな」といっただけで通してくれました。税関吏までがシーヴァスの広告の影響を受けていて、シーヴァスを持って歩くほどの日本人は、「ケチではあろうが、信用していい」ってわけでだったんでしょうね。

それから、もう一つの出来事。帰りにハワイで1泊したんです。
で、免税店へ寄ったのですが、コニャックのナポレオンとかが3本ぐらいがセットになっていて、150ドルとか200ドルといったすごい値段で売っている。当時(1970年代末)、たいていの人はこの詰め合せセットを買っていくらしかった。
そこで「シーヴァスを」というと店員が「店には置いてありません」というのでね、「そんな馬鹿な」と、重ねて注文し直すと、店員がしぶしぶ奥の方から1本だけ取り出してきて,「これ1本だけにしてください」と、冷然といいました。
どうしてだか分からないから「そんな免税店があるか」って文句をいったら、切り返されましたね。「うちではシーヴァスはどなた様にも1本だけしか売らないことにしています」って。
仕方がないから 「じゃ、クルバジェのV.Oも---」といったら、また「そんな酒は置いてありません」ときた。すったもんだのあげくクルバジェのVSOPならあるというので、そこでシーヴァス1本とクルバジェのVSOPの3本を30ドルポッキリで買いましたね。
よく考えてみるとこういう客が一番困るんでしょうね。壁には150ドルセットとか200ドルセットといったものが貼ってあるんですが、30ドルの客では売り子へのリベートがほとんどないのでしょうね。
このように日本人もシーヴァスのうまさに気がついて、買う人---いわゆる通と呼ばれる人が増えてきたこともあって、免税店はシーヴァスを隠し始めたんですね。シーバスは1本しか売らないと。広告の効き過ぎかなと思いましたね。

【chuukyu補】この号でのおしゃべりは、これでおしまい。なにしろ、30年前のことで、海外旅行が特別のものではなくなった現在からみると、まるでウソみたいな話です。
渡航記録を調べてみると、1978年のニューヨーク取材は9度目。もっとも、そのころは、もう、米国よりヨーロッパへ取材に行くことのほうが多くなっていました。

明日は、オマケの意地悪