創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](1-3)

故・向井 敏くんは[雌伏20年]の中で英才、駿馬、傑物、才媛が輩出した1960年代の米国広告界を「黄金の10年 Golden Decade」と凝縮してみせました。『効果的なコピー作法』はその「黄金の10年」を掬いとってみた記録です。日本の広告クリエイティブが、国際的視野でみて「黄金の10年」になることに資することができれば、もって瞑すべし。
【chuukyuuからのおせっかい】そうそう、これは、多摩美大のグラフィック科の学生への講義テキストでもありました。コピーライターの初心者の方、アートディレクターとの共同作業の足しに、その友人にもおすすめになってみてください。




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第1章 ヘッドライン ■マス・オーディエンスの中から見込み客を選びだす−−−のつづき

【例・4】

大きな魚は逃がしてやります。


小さなマグロは、まるで小羊や、小さな豆や果実の芯のように柔かいものです。ですから、S&Wは、大きな魚を決して缶詰に使いませんし、あなたがS&Wの缶をあけると、きっと、汁の多い若いマグロが入っています。もし捉えた魚がみんな大きかったら? S&Wは缶詰にしないだけです。なぜって、それが完璧でなかったら、S&Wは缶に詰めません。

【例・5】

S&Wの一粒の豆の苦難。


それは、"完璧"という特別種で、
大いなる中西部の豊かな土壌で育ち、
若いうちに刈入れされた豆であらねばならないのです。
甘い皮の柔かさをテストされ、
その若さを当社の円熟度計で証明され、
砂糖のような甘さをわが社の熟練者に味見されなければならないのです。
すべての点で完璧なら、その豆はS&Wのラベルを獲得します(これって責任重大といえますよね)。
しかし、それが完璧でなかったら、S&Wは缶に詰めません。


(承前)ここに、誤解されやすいテクニックがあります。
S&Wの例でいいますと、(例・2)「S&Wは、大粒の50ヶの桃から5ヶだけを厳選して、あとは捨てます」と「S&Wの一粒の豆の苦難」のようなヘッドラインに関して起こることですが、銘柄名、社名をヘッドラインに入れると、明確性と特定性がすぐれて、見込み客を選びだす力が強くなるのではないか、という誤解です。
このテクニックは、明確性とか特定性とはあまり関係のない、いわゆる識別手段です。
識別のたのテクニックであるなら、へッドラインに銘柄名や社名を入れなくても、パッケージング、ロゴ logotype で十分に果たせます。
はじめのシャケの広告でも説明したように、まっ先に目に飛びこんできたのは「ギラギラうろこを光らせたシャケと、それに巻かれたS&Wのラベルでした」
識別手段は、ヘッドラインのテクニックとしてよりも、 レイアウトのテクニックの方により比重がかかっていることを承知しておきまょう。

読者をメイン・コピーにひきずりこむ


広告コピーの機能の中に、説得という働きがあり、これは主としてボディ・コピーが担当します。
したがってヘッドラインやメイン・イラストレーションがストッパーとしての役目を果たし、目をとめた読者をボディ・コピーに誘いこまなければなりません。

S&Wの例では、はじめの「私たちは、塩を加えるだけ」とか、「大きな魚は逃がしてやります」などは、比較的その力が強いでしょう。
この例の場合は、へッドラインが暗示するナゾを解明してみたい、という気持ちが起きるからです。
ここまで読者にナゾをかけるのには疑問がないでもありません。コピーライターの期待どおりに、読者が反応するかどうかわからないからです。

でも、この例は、テクニック上の1つの教訓を示しています。すなわちヘッドラインでは、その広告テーマのすべてを公開してはいけないという原理の正しさです。
ヘッドドラインで、その広告のテーマをすべて述べてしまうと、読者はそこで了解して、ボディ・コピーを混まないでページをくってしまいます。

これは、簡単なようで、その実、非常にやっかいなテクニックなのです。


以下、明日につづく


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