(273)DDBが選んだDDB ---【DDB紹介[終末宣言]】(2)
20年前に存在していた『日米コピーサービス』1979年9月25日(378号)から、転載している。第2回は、極端にインタヴュー嫌いのボブ・ゲイジ氏。DDBのクリエイターたちが尊敬してやまなかった創業以来のアートディレクターである。
ゲイジ氏の現役時代の仕事---オリンやジャマイカ観光局の広告には、ずいぶん教えられた。いま、創られている広告レイアウトの多くは、ゲイジが始めて作りだしたもの---ともいえそう。「DDBが成功したのは、バーンバックさんが創業にあたって、ポール・ランドでなく、ボブ・ゲイジを選んだからだ」とさえ、ジョージ・ロイス氏がささやいてくれた。その経緯は『創造と環境』第1部に。
会話中に写真を挿入している自選TV−CM[クラッカージャック]と「ポラロイド Just on step]については、資料が手元にないので、見つかり次第、お知らせすることに。
「心を打つも良し。尺骨些姉を打つも良し。ただし要(かなめ)を打て」
エクゼクティブVP兼アートディレクター ボブ・ゲイジ ROBERT(BOB) GAGE
問:ヘルムート・クローンはあなたのことを近代広告アートディレクションの発明者とよんでいますね。
ゲイジ:え、ええ、まあ。
問:彼はあなたの発明を列記してくれました。
最初のダブルテーク・アド(ヘッドラインの2パーツをイラストレートした2枚の写真)、
環境を利用した広告(手袋をはめた手がパスのコードをひっぱっている。手袋のためのバス・カード)。
ページを「破壊」させる。
タイプに「話さ」せる。
ジャマイカ観光局
【chuukyuu注】訳文・解説は、ロン・ローゼンフェルドとのインタヴュー(1)
広告のポップアート発明。
バンやショッピング・バッグも絵になること
【chuukyuu注】オリンの作品を探索中。
を証明。広告にモンドリアンのボーダーを初めて使う---etc.etc.etc
ゲイジ:ヘルムートは人びとの行動を分析するのにかけては天才だから。
問:あなたがやって、分析するのは彼というわけですか?
ゲイジ:ヘルムートは自分のすることもすべて分析しますよ。私はまずやる、するとひとつの結果を生むというだけで、彼の言うように新境地を開拓するという意識は持ってません。何でも新しいやり方をやろうとしているだけですよ。
問:今もプリント広告をやっていますか?
ゲイジ:今もプリント広告をやってます。でも以前ほど多くはないですね。
ヘルムートの話にもどりますが、プリント広告では、ヘルムートの右に出る者はありません。私に言わせれば、彼は史上最高のプリント広告のアートディレクターですね。
ヘルムートには忍耐という才能があるんです。彼はひとつの仕事に取りかかると、分析し、改良し、是正し、変更し、育てあげていきます。
一方、私の方は忍の一字とはほど遠く、私のやることはすぐ結果を生むか、生まないか、そのどちらか・・・といった感じです。
今までたいてい結果が出ているだけで、私はヘルムートが展開させていくほどまで展開させ、育てあげるということがありません。
問:彼も言ってました。あなたはとても落ち着かず、ご自分で発明した物を完成させる気がないと。
ゲイジ:忍耐力がない。すぐあきてしまうんだ。
問:コマーシャルのフイルム・ディレクトをなさったのも、アートディレクターとして最初で、今もやってらっしゃいますね。
ゲイジ:テレビの方がおもしろいです。テレビの方が驚きがたくさんあります。
四角四面のストーリーボードと取り組むのは嫌いです。
セットに入っているとそこで起こっていることからヒントを得ることが多い。
最初とはまったく興るものを思いつくことがよくあるんですが、それはセットからインスピレーションが得られるんですね。
プリントより扱う次元も多いし。労働条件はずっと楽しい。外には出られますし、オフィスへ行かなくてもすむ。テレビは私にとっては、ひとえに---そう、魅力的なんです。
問:コマーシャルの仕事の時も、デザイン式に考えますか?
ゲイジ:デザインの目で考えたことは一度もありません。常にメッセージ中心に考えます。
そしてそのメッセージを適切な強さ、信憑性で裏付けて伝えようと努めます。
用いられる趣向は人生のとても真面目な面のモンタージュか、ユーモアあふれる面のモンタージュか、どちらかです。
私はエモーショナルな広告を信条としているんです。
問:心を打て、ですね。
ゲイジ:心を打つも良し、尺骨の端を打つも良し。ただし要(かなめ)を打て、ですね。
問:ルールは破られるためにあると言いますが,主義はどうでしょう。
ゲイジ:私は非常に節操のない人間でして。
ルールなど一度も従ったことがありません。
問:そう、私もルールは嫌いです。
ゲイジ:だからルールは破りません。知らないだけです。
ルールがあるとすれば、ユーモアあふれる感動、あるいは心を深く打つ感動からくる適度な強さ、を作品にもたせること。
あるいは言わんとすることを人びとに認識させられるようドラマ化し、信じられやすいように表現すること。
それだけです。他には知りません。
問:先日、バスの側面にポスターを見かけました。レインコートを着、傘をさした女性がわきにいて、今まさにポスターから飛び出そうとしているように見えました。
「あれはボブ・ゲイジが30年前にやっていたやつだ」と思いまLたね。
ゲイジ:若い人にああいった考え方にもどろうとする人が多いですよ。少々古くさいですが、いい広告ですよ。今まではすべてが拘束され、計算され尽くした時代でした。前の時代の反動だったんです。しかし今、いろいろ解放されつつあります。
アートディレクターは再び飛ぼうとしています。食べすぎて胸やけしてきたんでしょう。
問:胸やけ解消と言えば、あなたとジャック・デイロンがジム・ガーナー、マリエット・ハートレイを使って作ったあの食欲をそそるポラロイドのコマーシャルはどうやって作られたのですか?
ゲイジ:私たちがガーナーを初めて使ったのは、プロントのコマーシャルでした。あのスポットである女性を彼と共演させ、2回目のスポットにも使おうとしたんですが、無理理だったんです。
で、マリエットを登場させました。
ジャックがスポットを書きました。でもクライアントは非常におもしろいとは思わなく、さんざんやりとりしたあげく、やっと「ゴー」の許可が出ました。
”There's Just one step.”となりました。ジャックはコマーシャルのエンディングを女性に「やっぱり、カメラを向けるのも、ひとつのステップに入ると思うわ。そしてガーナーに「いや、違うよ」と言わせて結びました。
すると、マリエットとガーナーがアドリブを入れたんです。
「いえ、そうよ」「そんなことどうでもいいじゃないか」「いえ、だめよ」
どうやって28秒にまとめあげたのか。でもとにかくやってのけたのです。
あのコマーシャルは、スリーパー(価値がなかなか認められない。売れ行きが遅い製品)でした。
しかし、リサーチでガーナーが人びとと関わると、彼のポラロイドのコマーシャルははるかに注目され、人びの記憶に残り,要旨を長く伝えられることがわかったので、マリエットとジムのを展開させ始めました。
もっとも、2人の共演でこれからも多くのコマーシャルを撮り続けるべきかどうかは、多くの人が疑問を抱いていました。
しかし、2人の人気が高くなるにつれ、「モノ」になっていったのです。
問:ひとつのテーマからどうやったらあんなに多くのバリエーションが生まれてくるのか、不思議です。
ゲイジ:ジャックと私は腰を降ろすと、何かを思いつくまで、お互いの顔を長時間じっとみつめ合います。たいへんです。書くに値いする情報が入れば、取っかかりはできるわけです。
「もっとコマーシャルを作ってくれ」と言われるだけでは、おもしろいもの、ポイントのあるものは簡単にはできやしません。
問:今やあなたはガーナーとハートレーと実際に暮らしているみたいな感じでしょう。
ゲイジ:ええ。2人とも実に愉快な人たちです。ガーナーは最初は扱いにくく、コマーシャルには出しぶっていました。2人ともそうでした。
契約にサインし、セットに来た時こう思ったそうです。「ヤレヤレ。なんてことになった」って。
「ダニ一・ケイは最初の日からは不可能だ。人生最悪の時じゃないか。各コマーシャルで、ワンテークしか撮りたくない」
そこで私は言ったんです。O.K. 1回にワン・テークだけ、と。
今じゃかわいい子猫ですよ。ガーナーとマリエットには外の世界の人びとに愛されるメッセージが備っており、 したがって仕事仲間としては非の打ちどころかありません。
問:ボブ、あなたもインタビューをしにくい人ですね。
ゲイジ:だって、私はこの仕事を通してしか自分を表現できる方法はないというんで、アートディレクターになったんですよ。隠れるにはもってこいですからね---インタビュアーからも。
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