創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(274)DDBが選んだDDB ---【DDB紹介[終末宣言]】(3)

ロイ・グレイス氏は、1986年にニューヨーク・アートディレクターズ・クラブから、「名誉の殿堂」入りという、アートディレクターとして最高ともいえる栄誉を受けた。日本人で受けたのは、記憶しているかぎり、デザイナーとして福田繁雄さん、田中一光さん、亀倉雄策さん、石岡瑛子さんの順で---だけじゃあなかったかなあ。DDBの紹介をやめた年から、高価で場所ふさぎできわめて有用な『N.Y.ADC年鑑』の購入を停止したから。そう、20年間ほど、古い年度分も遡ってきちんと購入しつづけいたんです(すべて、某所へ寄贈したら半分散逸していた)。で、購入をやめた1980年代以降の『同年鑑』を電通図書館とか東京ADCとかアメリカン・センターとか、備えていて当然な場所と人に問い合わせてみて、日本には1冊もなさそうと、あきらめざるを得なかった。寄贈して行方不明にならなかった半分が、唯一、日本在存のものかもしれない。それで気がついたのだが、30年前の「DDBは、もう古い」という地の声は、何を根拠にしていたのか。その人の単なる、狭い見聞での感度でしかなかったのかと。まあ、紹介を停止したことで小遣いはできたが・・・・・
いや、ロイ・グレイス氏だ・・・・・・すばらしい、「売る」ユーモアの持ち主である。日本にはきわめて少ないタイプ。しいてあげれば、福田繁雄さん。


「貴重な資料が次代に残せる」 「勇気が出てきた」 「いや、渡る世間は鬼ばかり 「DDBでもクライアントと戦って通しているんだ」とお感じになったら、星マークの添付 ☆クリック→ を、田園地帯の夜空の満天の星の数★★★★★★★★★ほど、お忘れなく。これだけがつづける励みなんですから。




>>DDB紹介[終末宣言]クリエイターインタビュー集目次




「何が大変といって、人びとに既知のものを変えさせることほど難しいことはない」


     シニアVP兼クリエイティブ・ディレクター ロイ・グレイス ROY GRACE 


:あなたはわが社の出戻り組の有名なお一人です。戻るのは大変でしたか? 簡単でしたか? それとも・・・・・・


グレイス:楽ではありませんでした。いずれにせよ、前にいた所が良くなかったことを認めるようなものですから。
私の場合、自分で会社を開き、それがいろんな理由からうまくゆかなかったのです。それからしばらくして、(カール・)アリー(代理店)へ入り5,6ヶ月働きました。・・・・・・単に戻るのが難しいという理由だけで。


:だったら、なぜ戻られたんです?


グレイス:いろんな場所で働いてみて、どんな場所よりDDBが働くのにベターな場所であることがわかったからです。
ベターとはすなわち・・・・・・ここではクリエイティブ部門の人びとに責任が与えられるから。ごっそりお金をくれる代理店はたくさんあるけれど、責任は与えられません。おかしな話です。
ここでは成功するも失敗するも自由。人びとには成長し、大望を抱き、より高いゴールに到達する余地が与えられています。
厳しいルールも他と違ってほとんどありません。会議も少ない。仕事が会議でなされる代理店が多く、したがってそこでは個人の責任はありません・・・・・・すべて「我々がやった」なんです。たまにひどい悲劇が起こったら、そこで初めて責める奴をさがすという寸法。


:ここ数年で、ものすごい数の賞を受賞なさっています。賞を広告の目的に不適切と言ってけなす人もいますね。


グレイス:賞なんてものは、審査員次第でしょう。審査員が良ければ、その賞も良くなる。たいていの場合、受賞した広告キャンペーンは販売を成功させていますがね。


:濠雨のように受賞したコマーシャルの中に、フォルクスワーゲンの「葬式」と「クレンプラ一家に追いつけ」、アルカ・セルツアーの「マンマミア」、アメリカン・ツーリスターの「ゴリラ」があります。どれもユーモラスですね。



フォルクスワーゲン"Funeral(葬式)"



フォルクスワーゲン"Mr. Jones & Mr. Krempler"


グレイス:ユーモアがその製品にふさわしい場合、好んでユーモアを用います。とくに娯楽に関係のある製品などに。第一、テレビ自体が娯楽媒体でしょう。そういう条件下で、ユーモアを通じてメッセージを強め、視聴者により受け入れられやすくできるなら、それを使うことにしています。
もちろんルールは破られるためにあります。
しかし鎮痛剤など性格が真面目な製品の広告にユーモアを導入することはしません。



アルカ・セルツァー"Mama Magadini's Meatball"


:しかしアルカ・セルツァーは・・・・・・


グレイス:ああ、そうだ。あのアカウントのストラテジーをそのまま継承したんです。私は良くないと思ったんだが。
しかしあの話はやめましょう。


chuukyuu注】当ブログ[メリー・ウェルズ物語]で、このTV-CMをめぐって、「ハード・セル」「ソフト・セル」論争がしかけられ、アルカ・セルツァーのアカウントがDDBからWRGへ移動した苦い事件を指している
>>『メリー・ウェルズ物語』
>>アルカ・セルツァー広告の扱いにまつわる攻防について


:仕事をやりたい製品の好みはありますか・・・・・・楽しいものとか真面目なものとか。


グレイス:いいえ、まったくありません。個人的に好きでない製品はあります。そんな製品の仕事はやりにくいですね。しかし一般的に、できるだけ幅広い種類の製品を手がけるべきだと思います。さもないと視野がせまくなってしまいます。


:問題に対するあなたの基本的なアプローチは?


グレイス:まず消費者の注意をひく方法を考え、それからメッセージを伝えます。
簡単なワンツー・ステップです。
注意をひく、そしてメッセージを伝える。
この2つのステップをふまない広告にはろくなのがありません。
訪問販売のセールスマンだって、まずドアをノックするでしょう。
簡単とは言いましたが、消費者の注意をひく適切かつおもしろい方法を思いつくのは、もちろん簡単ではありません。実際,最も大変な部分と言っていいでしょう。しかしそれと同じくらい難しいことも他にあるんですよ。


:何ですか?


グレイス:新しく、異ったアイデアを売ることです。
50%はアイデアを作ることで、50%は売ること(注;クライアントを説得すること)だって、いつも思います。いかにすばらしくても、売れなければ無に等しいんですから。



アメリカン・ツーリスター「ゴリラ」


:なぜそれが難しいんですか?


グレイス:踏みならされた道を行くことに安心感があるからです。
何が大変かといって、人びとに既知の考え方を変えさせることほど難しいことはありません。
変ったものを出すと必ず手痛い攻撃を受けます。
そしてそれが終わると、それがそれからの踏みならされた道になるわけです。
変わっていて、大きな爆弾となる危険を(そうなる場合もあります)伴うことをやろうとすると、不快な目にもずい分あいます。
しかし最大の爆弾は静かな失敗・・・・・安全で目を止めてもらえない広告・・・・・・です。
それはトライしようともしない過失です。
現在この業界ではそれが大きな危険となっています。
また、確実な広告を求めようとすることも危険です。
安全ではあるが、黙殺される広告・・・・・・です。
それはトライしようともしない失敗です。
現在この業界ではそれが大きな危険です。
また確実な広告を求めようとすることも危険です。


:計器を用いないで飛ぶことの恐怖じゃないですか?


グレイス:その通り。しかしやりすぎということもあります。純粋に判断力だけで動いていると、失敗の危険も出てきます。
判断力を持たずに安全さを求めるシステムで動いていても、失敗は伴います。どちらにしても保証などないわけですよ。
しかし、失敗のない解決策を求めることがいちばん危険です。
あらゆる分野のテストをし、万人が求めている結果を得、市場へ出ても、失敗する。判断力で勝負しても、失敗の可能性は同程度・・・いや少いかもしれません。
どちらがいいかは言えません。
しかしいずれも100%正しくはないというのが現実です。過去、そして現在の成功例はほほ判断力に基いて作られた広告です。
広告は科学ではありません。
それだったら、クリエイティブ・ピープルもやりやすいんですが。


:しかしクリエイティブ・ピープルにも、すばらしい才能に恵まれた人、それほどでもない人、すなわちすばらしい判断力のない人がいるわけです。保証を求めるのは後者の保身の術でしょう。


グレイス:2種類の両極端があります。
ひとつは、すべての人をある程度の鎖でつなごうとすること。
そしてもう一方は、万人を自由にさせること。
多分、DDBのように規模が大きくなってくると、クリエイティブマン全員にすばらしさを求めるのは不可能でしょう。
しかしすべてを安全にしようとすると、すべてが堕落するというのが私の考えです。
たしかにすべての人を自由にさせても、失敗はあるかもしれません。
でも、すぼらしいものが生まれるチャンスはこちらの方が多いのです。
ゴールは高くめざせですよ。
落ちるのは簡単です。上るのはたいへんですが。
いずれにせよ、完壁な方法などあり得ません。
しかしチャンスを与えられれば、真にすぐれた判断力を持ったクリエイティブ・ピープル・・・・・クリエイティブ部門の人だけに限りません。
アカウント、メディア、マーケテイング、あらゆる分野で同じことが言えます・・・・・はきっと大成功するはずです。


>>DDB紹介[終末宣言]クリエイターインタビュー集目次


予告インタヴューアー泣かせの、クリエイティブ・マネジャーで前コピー・チーフで、25年在職の気骨の士・・・・ダヴィッド・ライダー氏


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>>ロイ・グレイス氏とジョン・ノブル氏『DDBのチーム・プレイを語る』
参照:
>>ロイ・グレイス氏と言葉を交わした。TV-CMプロデューサーで研究家の畏友・金子秀之さんのリート