創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(557)ボブ・ゲイジの真実

1971年11月号『DDB NEWS』の表紙ではありますが、表紙に書かれているこの号の主要記事"Bob Bage---The model of the modern art director"を紹介しているのではありません(いずれ、当ブログで紹介することになるでしょう)。

下は、表紙の2年前に、ボブ・ゲイジ氏が全米テレビ&ラジオ・コマーシャル・フェスティバルの祝賀昼食会の主賓に招かれたときの記事の、本邦初訳です。

文中にあるアルカ・セルツァーの会社は、自社のコマーシャルがブログなどに紹介されることを拒否しているようなので、プリントされた1コマだけ載せました。

クラッカー・ジャックの会社は、そういうことはないので、金子秀之さんに頼みました。


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on "DDB NEWS” July issue, 1970


真のボブ・ゲイジって----


ボブ・ゲイジのクリエイティビティの秘密?
ホブ・ゲイジがアート・ディレクションをしているクラッカー・ジャック(スナック菓子)のテレビ・コマーシャルに主演している喜劇役者のジャック・ギルフォードが発見したところによると、ボブが内股であることによる、と。
内股歩き(鳩歩き)の人は早足で歩くことができない。重い足どりで歩く。しかし、それで万事をなし遂げる。
広告業界で大成功したいと願っている若いアートディレクターに、私が助言するのは、ボブを見習って鳩歩きをしてごらん」
ジャックがこんな発言したのは、1970年5月19日に、フィル・ハーモニック・ホールで催された、全米テレビ&ラジオ・コマーシャル・フェスティバルの「ボブ・ゲイジに祝杯」昼食会で司会者をつとめたときの席上であった。
フェスティバルが特定の個人のために祝杯朝食会を開いたのはこのときが最初でもあった。
しかも、最優秀フィルム部門の演出賞がだされたのも、クリオ・フェスティバルでは初めてでもあった。
ボブは、アルカ・セルツァーのコマーシャル「花婿の最初の食事」に演出技術賞とフィルム演出賞の2つが与えられたのである。
ビル・バーンバックは、昼食会の招待者たちに向けて、DDBで働いている人たちのありようは以下のとおりと語った。


「nice(気持ちのいいひと)でなければなりません。さらに、才能に恵まれていなければなりません」
人柄がよくても、才能が優れていないなら、その人は要らない。 有能でも、人嫌いなら、採用しない。
「ボブ・ゲイジよりniceで、才能に恵まれた男を、誰も、ほかには見つけられないでしょう」


次に立ったフィリス・ロビンソン夫人は、ボブの真実を、まず、明かした。
「ボブってすごい noodge なんです」


【chuukyuuのお願い】1970年ごろにニューヨークで流行していたらしい noodge という新語についてご教示を乞う。


「コピーを指し、[これでいいんだね?]と訊きます。[それで読み手を驚かせるね? これまでに誰もやったことのないものだね? われわれもやろうとしなかったよね?]」
「ボブはいつだって、新しいキャンペーンに取り組むとき、[いいかい、われれは、これから、彼らを殺しに出かけるんだよ] だから、私は、胸の中でつぶやくんです。[おお、神よ。私は、この人の思い込みには耐えられそうもありません] でもそのうちに、結局、引きずりこまれていて、徐々に問題解決の核心に近づきながら、エキサイトし始めているんです。そして[これこそ、そのための正しいボタンよ。これで彼らをやっつけられるわよ]って言い切れる地点に達しているんです」
「ところが翌日、ボブが言うんです。[考えてみたんだけど、もっとほかにボタンがあるように思えてきてね。さ、充分とおもえるものをつかむまで、もう一度、やりなおそうよ] こうして、ついに、満足できる作品に行き着くのです。思いつく方法を、あれも、これもと、すべてたどってみて---」


「すべてのnoodgingの結果として、ボブが私たちの広告キャンペーンを、すばらしく磨きあげてくれているのです」
付け加えるとすると、と、
「ボブは、彼と組んで仕事をするだれかれに、質問し続ける勇気を持っています。なぜ、そうすべきなのか? そのわけは? なぜ、もっと、ほかのやり方を試さなければいけないのか?」
とロビンソン夫人はしめくくった。


最後にまわってきたマイクを手にしたボブ・ゲイジが立ち、フェスティバル主催者から、この日のために、ボブの創ったテレビ・コマーシャル作品を1リールにまとめるようにと依頼されるまで、そんなこと、やったことはなかったと前置きし、
「私は、DDBで私の作品が消滅しはしないと、かなり確信していたように思います」
「いえ、たぶん、1リールの作品集をつくる時間なんて、これまでは、持てなかったということでしょう」


でも、古いものの中には、フィルムの状態が芳しくなくなっているものもあったといいながら「とはいえ、それらのフィルムも広告としてのメッセージの強さ、シンプルさは失ってはいないことを確認していただけたことと思います」
DDBが商業テレビ用のコマーシャルを創るようになったときから、DDBは、シンプルで強いメッセージと、楽しさが観る人の注意を惹きつけるという考えは今日でも変わっていない。しかし、「ベストのスポット」は「いつの世であっても、観る人に人間的な情感にかかわるなにかを感じさせる新しいアイデアがありました」


ゲイジ主義を別の表現でいうと---
「テレビ・コマーシャルは、糖蜜に似ています。つねにかきまわしていないと、固まりはじめるんです。そなったら、あなたのCMは死んだも同然」
「撮る前にプランされつくされたCMは、結果がよくないようだと、思ってきました」
「これまでの経験から、編集がうまくできたら、爆弾を埋めこんだも同然で、受賞作品にすることができることを学びました」
「日曜大工をよくやっていたので、その体験が仕事にも生かされ、いつも心強く思いました」


クリオ・フェスティバルの演出2賞の祝杯昼食会につづき、その夜の発表会で、ボブ・ゲイジは、2篇のコマーシャル---アルカ・セルツァー「花婿の最初の食事」とクラッカー・ジャック[屋根裏]がクリオの最優秀賞を獲得した。



バーンバックさんからクリオ・トロフィを渡されるゲイジ氏
後方は喜劇俳優ジャック・ギルフォード氏



アルカ・セルツァー「花婿の最初の食事」は、マクマハン氏が『アド・エイジ』誌上でおこなっている[ベスト・コマーシャル選]にも、「切りとられた人生の一断面」賞として選ばれた。アルカ・セルツァーは、第三者が無断でコマーシャルをブログで公開することを許さないので、『DDBニュース』から転載。フィルムをイメージする枠つきなのは、まだ、ビデオ・テープになっていなかった時代だから。